第36話 ギルド長?そんなことより勉強だ!
訓練場はなかなかの広さだった。
のんびりとギルド長のところへ向かう。
ギルド長がいるからか、鍛錬していたと思われる人たちが遠巻きにこっちを見ていた。
「来たな。通常は刃引きされた訓練用の武器を借りて模擬戦を行うのだが、お前の武器は刃のない棒みたいだからそのままでいい。私は剣と盾を使う。」
……この棒まだ一度もつかったことないんだけどな。
「この棒を練習する場所が欲しくて登録しに来たんですけど。」
「……そうなのか?他の武器がいいなら借りに行くといい。」
どうしようかな?
「魔法は使ってもいいんですか?」
「…………相手を殺すものでなければ使っても問題ない。」
なんか凄く躊躇った様に見えたけど気のせいかな?
や~いや~い!魔法にビビってる~!
「分かりました。」
もちろん口ではそんなこと言わない。
審判役らしき人が近づいてきた。
『ホントにやるんですかギルド長……。』と声が聞える。
『いいから始めろ。』との声も聞こえた。
「それでは……始め!」
さて、始まった。
(どうやって戦おっかな~。)と構えもせずのんびりと考えていると、なかなかの速度でギルド長が斬りかかって来た。
まぁ、刃はないらしいから斬れないだろうけど。
普通に避けて背後を取った。
我ながら見事な動きだったと思う。
こういう時に「ふっ、残像さ!」とでも言えば盛り上がるのだろうか?
あれ?
ギルド長汗かいてない?
大丈夫?
ギルド長はゆっくりと振り返って剣を構えた。
せっかくなので今更だけどベルトから棒を抜いてクルクルと回してみる。
特に意味はない。
(……全然攻めてくる気配がないな。)
しょうがないのでこちらから攻めてみようと思う。
初めてのまともな対人戦だ。
緊張しちゃうなぁ~。
とりあえず棒で突いてみた。
体の中心を狙った軽い突きだ。
ギルド長は剣で払おうとしたがパワーが足りない。
手首で軽く修正しただけで、真ん中からは少しズレたが直撃した。
手応え的に肋骨を一本折ったな。
ギルド長は少し距離を取り、もう一度構え直した。
ちょっと遠いので物理魔法の球を用意して軽く投げつけた。
ドッジボールなら顔面セーフだが、無反応のまま顔面に当たったせいで倒れてしまった。
やっぱ物理魔法強いよな?
見えないって言うだけで対処は難しくなるよな?
ギルド長は少しふらついているがすぐに立ち上がった。
今日はみんな鼻血を出すなぁ。
審判は止めなくてもいいのだろうか?
あ、駄目だ。
審判も一緒になって驚いてる。
一応声をかけよう。
「まだ続けた方がいいですか?」
「…………もういい。」
勝った。
これは完全勝利と言ってもいいのではないだろうか?
「この後は受付に戻ればいいんですか?」
「……そうだ。」
それじゃあ戻ろう。
完璧すぎた完全勝利にギャラリーも沈黙しちゃって空気が重いし。
ベルトに棒を通して受付に戻った。
「これで冒険者の登録は完了です。今後の活躍を期待しております。」
「ありがとうございます。」
わ~い!
ギルドカードを手に入れたぞ~。
なんとこのギルドカード、名前と所属が書いてある以外、一切なんの機能もない、ただのカードなのだ!
こう錬金術とか、凄い未来的なハイテク技術でいろんな機能を搭載したギルドカードを期待していただけにガッカリだ。
「とりあえず受けられそうな仕事がないか見てみるか。下の下だけど、下の下だけど!」
そして思い出す。
「あ、文字読めないや。」
こうして、冒険者としての人生は幕を下ろした。
「とりあえず訓練場に戻るかな。殴る的とかあったし、棒の練習をしないと。」
訓練場に着いたのでまずは棒で素振りをする。
どんな振り方がいいのかなど分からないので適当に振ってみる。
しっかり握れる間は問題ないが、やはり汗などで滑る危険性がありそうだ。
棒の真ん中あたりを持って振ってみるがしっくりこない。
「真ん中を持つとリーチが短くなるから腕力だけじゃ駄目な気がするなぁ。あれかな?『腰を入れて振れ』的な感じかな?」
うん、やってみたがよく分からない。
「どうせ分かんないんだし、クルクル回しながら殴る練習でもするかな~。」
とりあえず棒をクルクルと回す。
回して回して回して、イメージはまさにデンプシーロール。
(右左右左右左右左……)
なんとなくコツを掴めてきた。
的に向かってやってみる。
……軽く当てないと簡単に圧し折れてしまいそうだ。
(右左右左右左右左……)
いいリズムで的を叩けている気がする。
もう少し強めでも……いや止めておこう。
軽く叩いてるだけでも結構な威力が出ていそうな感じだ。
でもこれ動かない相手にしか使えないよね?
連続技ではなく一撃必殺の方が憧れるのだ。
「どうせなら連続技のフィニッシュにも使える方がいいな。回した勢いを殺さずに上段からの振りおろしとか出来そうかな?やってみよう。」
クルクルと回して回して回して、大きく弧を描いて上段に持ってきたら振り下ろす!
素振りではいけた!
的相手にやってみよう。
さっきと同じように叩いて叩いて叩いて叩き潰す!
的の柱から折れた。
丸太持ってこーい!
「いや、これ的が案山子みたいなのが悪いよね。丸太を地面にぶっ刺してる方がもっと頑丈なんじゃないの?」
あ、これ柱に鉄柱入ってる……。
これが曲がったのなら、なかなかの威力なんじゃないか?
とりあえず壊れたことを報告するために職員っぽい人に話しかける。
「すみません。あそこの的、壊れちゃいました。」
「えぇ……、見ていました。普通に叩いて壊れていましたから的に問題があったのでしょう。……ですが他の的は叩かないでくださいね?」
この職員さん優しい。
でも叩かないように釘を刺されちゃったなぁ。
絶対他の的でも壊れるもんね。
やっぱりモンスターを相手に技を磨くのが一番か。
「帰るか……。」
時間ももうすぐ夕方だ。
今日はこのくらいでいいだろう。
ちなみに、訓練場にはそこそこ人がいたが誰も訓練をしていなかった。
不思議なものである。
宿に戻り荷物を置いてのんびりしていたら夕食の時間となった。
夕食は鶏モモ肉の入った野菜スープだった。
結構美味しく、誰とも会話することもなく黙々と食べ終え部屋に戻った。
明日は何をしようかな?
そういえば図書館はあるのだろうか?
少しは文字の読み書きが出来ないと、この先苦労しそうだ。
「明日は図書館に決まりだな。図書館がなければ……ギルドの資料室にでも行ってみるか。」
早めに眠って翌朝、今日は問題なく朝飯の時間前に起きることができた。
いつも通りストレッチをし、朝食のパンとベーコンエッグを食べ、親切な若い受付の女性に『この街に図書館はあるかな?』と聞いてみた。
無かった。
という訳でギルドにやって来た。
昨日とは違う受付さんに資料室の場所を聞いて行ってみる。
中にはギルド職員の制服を着た女性が一人いるだけだった。
「初めてご利用の方ですね?ギルドカードの提示をお願いします。」
(ちゃんと身元確認があるのか。まぁ、そうだよな。資料をめちゃくちゃにされたら困るというか殺意が湧くよな。)
ギルドカードを渡し、ついでに質問してみる。
「ここに文字を勉強するための本とかあります?」
「ございますよ。たまに文字を学ぶ機会のなかった方が来られますので用意してあります。ギルドカードをお返しします。退出する際は必ずお声掛けください。文字を学ぶための本はこちらになります。」
職員さんに案内されて三冊の本を借りた。
一冊は辞書の様なもの。
結構わかりやすく文字が順番に書いてある。
二冊目は絵本だ。
辞書を調べながらこれを読めと言うことだろう。
3冊目はよく分からなかった。
とりあえず辞書の様なものと睨めっこしながら絵本を読み解いていく。
「……紙とペンが欲しいな。」
書いて覚えるより何度も読み返して覚えるタイプだったが、流石に紙とペンが欲しくなった。
今から買いに行って戻って来るのは面倒なので明日にしよう。
少し早めに切り上げて買いに行ってもいいし。
今日中にこの絵本くらいは解読したいなぁ……。
せめて読んでくれる人がいれば助かるんだけど、さっきの人にお願いしてみるか。
「すみません。」
「はい、なんでしょうか?」
「この本の最初の文章だけ読んでもらえますか?」
「あぁ、分かりました。『これは昔々、まだ人々がエルフやドワーフと共存している頃の物語。』」
「ありがとうございます。」
(なんか凄く興味を引く内容の書き始めだったなぁ。)と思いながら、絵本の文字を辞書と見比べ解読していく。
英語のように単語を並べて文章にしているのではなく、どちらかというと日本語に近い文章の様だ。
(つまり、あいうえおの五十音順にこちらの文字を当てはめた表を作れば、文字は結構簡単に覚えられそうだ。)
希望が見えてきた。
これなら冒険者としての活動も出来るかもしれない。
明日から頑張ろう。
という訳で、文字の解読の仕方も分かったのでギルド職員さんにお礼と退出することを伝え、街に買い物に出る。
紙とペンが欲しいので、水筒とタオルを買った雑貨屋に来た。
「いらっしゃいませ。本日は何をお探しでしょうか?」
「紙とペンはある?」
「こちらでございます。」
めちゃくちゃスマートな会話だ。
一切の無駄がない。
「紙はこちらになります。ここで取り扱っている種類は2種類あり、羊の毛で作られる羊毛紙と木から作られた植物紙が……」
やっぱり説明が長い。
パッと紙の表面を見て、書きやすそうな方を選び一纏め買う。
10枚あればいいと思うが、何枚あるか分からない、何枚も重なった状態で売っていたのだ。
次はペンを聞いてみる。
「ペンはこちらになります。種類はいくつかあり安い羽ペンが多く売れておりますが……」
羽ペンは無しだな。
ペン先が潰れやすく扱いが難しいとテレビで見た記憶がある。
選ぶならペン先がガラスか金属の物がいいだろう。
漫画家が使っているようなイメージの感じのペンがあったのでそれにした。
もちろんインク壺も忘れずに買った。
紙とペンとインクで銀貨30枚だった。
結構高いような?
あまり気にしないからいいけど。
店から出たら声をかけられた。
「おぉ、いいところに……。先ほど靴の底に敷く鉄板とつま先を保護するための鉄製カバーを鍛冶屋から受け取って来たんだが、サイズが合うか一応確認したい。今から時間あるか?」
靴屋のおっさんだった。
注文してからまだ2日後だが、今から作り始めるのだろう。
……早くない?
とりあえず了承してついていく。
靴屋で30分ほど確認をしたところで問題ないと判断された。
明日の夕方には出来上がるとも……。
やっぱ早い気がする。
まぁ、早く出来ることはいいことだろう。
クオリティさえしっかりしていれば文句はないのだ。
靴が明日できるなら、明後日からモンスター退治もいけるかな?
いや、一応靴を履いた状態でも問題なく動けるかテストしてからの方がいいだろう。
この後は銭湯に行って体を洗った以外何事もなく、食事をして眠った。
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