第35話 ギルド長激おこ

本当に久しぶりにぐっすりと眠ることができた。

正直寝すぎたのか腰がいたい。

こんなことで腰を痛めたくなかったよ!

というわけでストレッチをする。

一応言っておくと盛大に寝坊だ。

陽の高さからみて普通に朝飯の時間は過ぎている。


「昼飯の時間だけど、どうしようかなぁ?昨日見た感じ食べ物の屋台が全然見なかったんだよな~。」


普通当たり外れが激しい屋台があるのがテンプレだと思ってたけど、全然食べ物を売っている屋台が見当たらなくて疑問だったのだ。

野菜や果物の屋台はあったが、調理して販売しないのだろうか?

いや、ガスコンロみたいなものがないのなら外で料理するのは意外と難しいのか?

バーベキューみたいに鉄板の上に炭と網を置いて火を起こせば出来るかもしれないが、やる人はいないのだろうか?


「まぁ全部を見たわけじゃないし、今日は食べ物を探しながら歩き回ってみるかな。」


とりあえずの方針は決まったのでストレッチを止め荷物を持って部屋を出る。

部屋を出たところちょうど通りかかった人がいたようだ。


「あっ!」


……誰だろう?

どこかで見た気がするんだよな~。


「ちょっ、ちょっと待ってて!」


走って奥へ行ってしまった?

なんだろう?

というか誰だろう?

たぶん年下の女の子は奥の部屋をノックしている。

部屋から出た来た男を見て、昨日チラチラ見てきた4人組の中の1人だったことを思い出した。

思い出せてスッキリしたのでさっさと食べ物を探しに行こう。

……と思ってたんだが、なかなかの勢いで男が迫って来た。

(やだぁ、強引。)とか馬鹿なことを思いながら男を見る。


「昨日はすまなかった。」


……いきなり謝ってきたけど何のことだろう?


「……昨日何かしましたっけ?話をしただけだったような気がするんですけど。」


「えっ?」


なぜか女の子の方が驚いている。

本気でなんなのだろうか?


「いや……過去を探るような質問をしたから怒ったんじゃないのか?」


……なるほど、理解した。

返事が面倒だったのは確かにそうだけど、どちらかというと反応が見たかっただけなんだよな。

魔力を思いっきり放出したからこちらが怒ったと勘違いしたのか。

いたずらは後腐れなくスッキリと関係が終わる人相手じゃないと駄目だね。

少し反省しよう。


「いえ、全く怒っていませんよ。魔力を意識的に放出したらどんな反応をするのか見てみたかっただけです。」


「……。」


男は非常に力が抜けてしまったようで何も言わなくなった。

女の子の方から(こいつ頭大丈夫?)的な視線を感じる。

まぁ気にしないが。


「それじゃあ私は朝……いえ、昼飯を探しに出ますので失礼しますね。」


返事はなかった。


という訳で屋台のある通りにやって来た。

屋台と言ってもやっぱり野菜や果物しかないが。

店ごとに種類が違うのはなんでだろう?

(うちは○○専門だから!)みたいな感じかな?

ちなみに見たことのない野菜が結構ある。

きゅうりみたいな形のトマトとか、人参っぽいけどサイズが大根とかはまだ普通。

そもそも食べ物なのか怪しいとげとげの物体は何だろう?

横にキャベツっぽい物があるから野菜を売ってる屋台なんだろうけど、全く想像がつかない。

それにしても本当に調理した食べ物を売っている屋台がないな。

そんな時に見たことあるような物を持った女の子が前を歩いていた。

これなんて言ったっけ?

駅のホームでお弁当売るときに使ってたり、野球場でお菓子とかおつまみをいっぱい入れて歩いて販売するときに使ってたりする、首からベルトを下げてお腹の前に商品を置いているやつ。

これってどっかで作ったやつを、持ち運んで売ってるんじゃないのかな?

とりあえず声をかけてみる。


「すみません。」


「?あ、すみません。今日はもう売り切れなんですよ。」


悲しい。

とりあえず何を売っていたのか聞いてみる。


「うちのパンでサンドイッチを作って売り歩いてるんです。結構おいしくて有名なんですよ。」


パン屋か、サンドイッチもありがちな売り物だ。

愛想笑いを見せつつ、どこか食べ物を食べられる店を聞いてみた。


「もしかしてこの町に来たばかりですか?それならそこの通りを入ったところに美味しいパスタを出すお店があるんですよ。」


詳しい場所を聞いて、お礼を言いつつパン屋の名前も聞き、パスタを食べに移動した。

麺類は何度も夜中にお世話になったマブダチだ。

ずっと食べていなかったのできっと心配しているだろう。

店に着いた。

開いてなかった。


「終わった……。」


ステータスの運とはなんなのだろう。

パスタは食べられなかったが近くに酒場っぽい店があり、昼間だけど営業してるそうなので入った。

スクランブルエッグは普通だったがソーセージは結構おいしかった。

ソーセージはどこで売っているものか聞いてみたら、おそらく昨日の肉屋のおっさんの店だった。

あのおっさんなかなかやるな、ただのおっさんではなかったか。

……ソーセージのことは忘れないように覚えておこう。


食事も出来たので、今後の予定をたてよう。

と言っても靴ができるまで街から出るつもりはない。

でも体は動かしておかないと動きが鈍りそうなんだよな。

う~ん……。

やっぱりギルドに登録しようかな?

ギルドなら訓練するための広場とか持ってそうだし。

でもダンジョンがなぁ……。

とりあえず話だけでも聞きに行ってみるかな?




という訳で一度宿に戻って棒を装備してからギルドにやって来た。

昼過ぎの時間だからか人は少ない。

建物の中には飲食出来そうな酒場っぽい場所もあり、『いかにも冒険者ギルド』って感じだ。

とりあえず、カウンターに近づいてみる。


「こんにちは。ご用件は何でしょうか?」


「冒険者について聞きたくて来たんですけど、今は大丈夫ですか?」


「ギルドの新規会員登録ということですか?」


「え~っと……、会員登録するかしないか判断するために話を聞きたいんですけど、駄目ですかね?」


「問題ありません。何について聞きたいですか?」


非常に愛想のいい受付さんで基本的なことを教えて貰った。

まずは冒険者のランク。

大きく分けると下級・中級・上級の3段階に、下・中・上の3段階で9段階らしい。

つまり登録したら下の下から始まるということだ。

下の下とか響きが汚いね。

昨日男が言っていたダンジョンは中級からというのはこのランクのことだろう。

聞いていた通りに依頼を受けるか受けないかは、例外はあるが基本は自由。

大襲撃の際に発する強制徴集以外は、3ヶ月に一度依頼を受けてちゃんとこなせば問題ないらしい。

ギルドの施設に関しては飲食は有料だが、資料室、訓練場は自由に使ってもいいらしい。

ただし資料室の資料は持ち出し禁止らしいが。

まぁ、ありがちな規則だろう。

そういえば登録料は初回無料らしい。

ギルドカードを無くしたり破損した場合の再発行料は高いらしいが。


(聞いておきたいことは全部聞けたかな?たぶん。)


登録しても大丈夫だろう。


「登録なさいますか?」


「お願いし……」「なんだぁ?そんな弱そうなやつが冒険者になんのか?」


……おぉ!テンプレだ!物語が始まってすぐに終わりそう!

少し感動しながら振り返ると、いかにもガラの悪そうなやつが3人いた。

楽しみだなぁ。


「お前みたいな弱そうなやつが冒険者になるとか舐めてんのか?それになんだよその武器。ただの棒じゃねぇか。」


取り巻き共々嘲笑されていた。


(抑えろ!抑えるんだ!……でも、今笑ったらもっと面白くなるんじゃないかな?抑える必要あるかな?)


「ふふっ!」


あ、出ちゃった。

まぁ、いいか。


「何笑ってんだてめぇ。やっぱ舐めてんのか?」


「そりゃこんなに弱そうなやつに挑発されたら笑っちゃうよね。」


愉しいことになりそうだなぁ。


「やめて下さい。ギルド内での諍いは厳罰の対象です。」


やめるんだ!今正論を言って止めるんじゃない!


「それって冒険者のルールですよね?まだ登録してないからやっちゃっても良いんじゃないですか?むしろやらせてください!」


あ、受付さんめちゃくちゃ困惑してる。

(え?何言ってんのこの人。)って顔してる。


「いいじゃねぇか、そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!」


ナイスタイミングでキレて殴りかかって来たけど……、


「駄目だよ素手じゃ!弱いんだから武器を使えよ!もっと頑張れよ!」


避けずにおでこで受け止めてみたけど完全にノーダメージだ。


「でも、殴られたからやり返すね。……死なないでね、愉しみたいから。」


とりあえずボディーブロー。

相手の左わき腹を軽く響かせるように殴る。

うまく手加減できたようで骨が折れる感触はなかった。

一発目で骨まで折っちゃうと逃げるかもしれないし助けを呼ぶかもしれないからね。

起き上がるまでの間暇なので後ろ二人も捕まえる。

だってなんか隙だらけだったし。

とりあえず掴んだ肩を思い切り握ってみた。

良い音が鳴った。

二人とも叫んで座り込んでいる。


「あれ?まだ起きてないの?ちゃんと手加減したボディーブローだよ?そんなんじゃモンスター相手に生き残れないでしょ!ほら立って立って!」


そう言いながら蹴り飛ばす。

もちろん壊れないように手加減した。

早く武器を抜いてくれないかなぁ?


「ゴホッ!待ってくれ、俺が悪かっ……」


喋られると困るので蹴る。

危なかった。

もう少し生きたサンドバックを叩きたいのである。

そんな負けを認めたような言葉を吐かれたら叩く理由がなくなってしまう。


「ほらほら!その腰についてる武器は何なんだ?剣だろ!早く抜いてくれよ!圧し折って心を砕けないじゃないか!」


周りの誰も、何も言わない。

ドン引きである。


「す”み”ま”……。」


とりあえず殴る。

油断も隙も無い。

謝ってほしいんじゃない!

頑張って抵抗したうえで、心が折れるところが見たいのだ。


「まだ~?早く武器を抜いてくれよ。愉しめないじゃん。」


ガラの悪かった男は鼻血を出しながら泣き始めた。

つまらないなぁ……。


「そこまでにしてくれ。」


後ろから声をかけられた。

振り返るとおっさんがいた。

ギルド長かなんかだろう。

見た目と態度が偉そうだし。


「すまないがそいつを医務室に運んでやれ。そっちの二人も……そっちの二人は治癒院にしろ。肩が折れてる。」


見ただけで肩が折れてるって分かるとは凄い。

結構うまく折ったと思うんだけど……。

男三人が消えたので何事もなかったかの様に受付に戻る。

ギルド長も近くにいる。


「じゃあ登録お願いします。」


「え?…………はい、分かりました。」


少しビクビクした挙動不審な綺麗な女性っていいね。

エルフちゃんは別格だけど、受付さんもなかなかだ。


「……今から登録するのか?」


ギルド長のおっさんが話しかけてきた。


「そうですけど問題ありますか?」


「これだけのことをしておいて平然と登録するというのか!?」


……何言ってんだこいつ。


「調子に乗って、喧嘩を売っちゃいけない相手に喧嘩売った馬鹿を粛清しただけでしょう?大きな声をだす必要あります?」


「お前は……わざと手加減をしたな。相手を思ってのことではなく、相手を甚振るために!」


ちゃんと手加減に気づいてたのか。

じゃあなんで怒ってるんだ?

実際死んでないし。

何も問題ないよね?


「私は挑発をされただけではなく、実際に顔を殴られました。なので遠慮なく反撃しました。何か問題がありますか?」


ギルド長は何も言わない。

こういう世界だ、過剰防衛なんて考えは基本ないに決まっている。

殴られる前に殴ってもいいところを、ちゃんと殴られてから殴り返したのだ。

文句を言う神経が分からない。


「冒険者は登録時に基本的な能力をテストする。訓練場に来い。」


そう言って行ってしまった。


「そうなんですか?」


受付さんに聞いてみる。


「い、一応テストは毎回行っています。基本的にギルドに勤めている元冒険者の職員がやっているのですが……。」


あの調子だとギルド長直々にテストするのかな?

なんというか……くだらない。


「そうですか。それは今から?それとも先に何かやることあります?」


「今から行っていただけると……。」


「分かりました。」


さっさと終わらせよう。


受付さんに訓練場の場所を聞いてから、向かうのであった。

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