第33話 風呂があるとは、この町はなかなかやるようだ

ギルドから出て街の中を台車を引いて歩いていると、ふと思い出した。


「そういえばお昼の鐘の音聞いてないな。感覚的にはそろそろお昼を過ぎた頃なんだけど、聞き逃したかな?」


ついでにまだ教会の場所も確認していない。

それに今日泊まる宿探しも早めにやっておいた方がいいだろう。

とりあえず露店で大きな布っぽい袋を売っていたおっさんに聞いてみた。


「その大きな袋っていくらです?」


「これか?これはデカいから銀貨10枚だぞ。」


「2つ買うよ。そういえばこの町の教会はどこにあるか分かる?」


「教会?教会は街の東側にあるぞ。ほら、あそこに見える高い建物が教会だ。」


おっさんの指さす方向を見ると、確かに教会っぽい建物が建っていた。

お金を渡し、袋を受け取る。

二つとも中を確認して袋の表面や縫い目にに穴がないことを確認すると、一つの袋にもう一つの袋を折り畳んで入れた。


「ついでに服とかこの街だとどこで買える?」


去り際にもう一つおっさんに質問する。


「服か?服や布はあそこに見える青い屋根の飛び出した建物だ。」


「ありがとう。」


「値切りもせずに金を払って貰えたからな。質問くらいは答えるさ。」


値切り交渉とかしたことないんだよな。

そうか、こっちでは値切るのが普通なのか。

よっぽどのぼったくりでない場合は別にいいかな?

金なら結構あるし、この後さらに貰える。

金貨100枚以上あれば、宿暮らしでも一月は問題なく暮らせるだろ。


とりあえず服屋の前に台車を止め、服を探す。

サイズの合いそうな地味な服を上下下着それぞれ3着づつ適当に選び、値段を聞く。

金貨一枚と銀貨75枚だった。

サクッと支払い、買った服を袋に詰めながら外に出ようとしたところで、誰かが台車を引いて走りだそうとしていた。

今度こそ泥棒だろう。

一瞬で追いつき、横を並走しながら声をかける。


「泥棒だよね?お前泥棒だよね?つまりぶっ飛ばしてもいいんだよね?ぶっ飛ばされても文句は言わないよね?言ったら黙るまで殴るけど。」


泥棒は驚いたようで足をもつれさせて転んでしまった。

止まってしまったので泥棒をアイアンクローで掴み持ち上げる。

ここは人の目がある。

流石にここでぶん殴ったらいろいろと不味いだろう。

しょうがない、ちょうど少し先に路地裏に入るような道がある。

アイアンクローで掴んだ泥棒を路地裏に勢いよく投げ捨てた。

掴んで投げただけ、ぶん殴ってない。

これで完璧だろう、文句や注意を受ける心配もない。

見ていたのであろう数人が少し変な目で見てくるが、何も言わなかったところを見るとやはりこれで正解だったようだ。


「街の中でもあまり治安はよくないんだなぁ……。」


海外で生活した経験がないので少し不安だ。

こうなるとスリにも注意するべきだろう。

ひったくりなら愉しめると思うのだが……。


(いや、何事もなく平穏に過ごせるのが一番だよね。愉しんだ結果めんどくさいことに巻き込まれるのはごめんだし。)


少し、自分が強くなって調子に乗っていることを自覚し、反省する。

服も手に入れたので、次は靴を探そうと思い近くにあった雑貨屋っぽいなんかいろいろ置いてある店に入る。


「いらっしゃいませ。何かお探し物ですか?」


入ってすぐ声をかけられた。

買い物の時に声をかけられるの苦手なんだよなぁ……。


「とりあえず頑丈な靴、それに汗を拭くためのタオルや水を入れるための水筒を探しています。」


探していたのは靴だが、靴目的でこの店に入った訳ではないので思いついたものを言っておく。


「靴は売っておりませんが、水筒とタオルなら数種類ございます。こちらがタオルです。大きさは3種類あり……。」


説明が長くなりそうだったので、途中で一つを選び3枚買うことを伝えた。


「こちらが水筒になっております。革で作られたものと鉄を防錆加工して作られたものがあり、鉄で作られたものはお値段が相応に高いですが頑丈なため冒険者の方々に売れています。」


相変わらず説明が長いが鉄の水筒か……。

防錆加工が気になるけど、鉄の入れ物に入れると水を飲んだ時に少し鉄の味がするのが嫌だったんだよなぁ。

そんなわけで革で作られた水筒を選ぶ。

飲み口に栓を詰め込んで漏れるのを防ぐタイプのようで、ワインのコルクの様なものが詰めてある。奥まで入れてしまっても抜きやすいように加工もしてあるようだ。

合わせて銀貨43枚だった。


「お買い上げありがとうございました。靴でしたらあそこを右に曲がったところに見えてくる靴屋がおすすめです。」


説明は長いけど親切なお店だった。

探し物があるときはまた来よう。

という訳でおすすめされた靴屋に行く。

靴屋には靴だけでなく靴下も置いてあった。

完全に靴下のことを忘れていたのでありがたい。

とりあえず履いて確かめる前に靴を確認するが、少し強度が不安だ。

店員さんに聞いてみる。


「靴の底に薄い鉄板をハメたものとかってあります?」


「薄い鉄板?聞いたことないな。確かに冒険者なら買うかもしれないが……。オーダーメイドになって高くなると思うが、金はあるのか?」


オーダーメイドになるならいろいろと注文を付けた方が良いだろうか?

とりあえず欲しい靴のイメージを頑張って伝える。


「靴の底だけでなくつま先をカバーするための鉄板も欲しいのか。鍛冶屋と相談することになるが出来なくはないな。ただそうなると結構重くなると思うが大丈夫か?分かった。ただ、オーダーメイドの場合は料金の半額を先に支払うことになっているのだが、今回は値段が相応に高くなる。材料費も考えて金貨2枚頂くことになるが大丈夫か?」


即決で2枚支払う。

靴屋の店主は少し驚いたようだ。


「確かに金貨2枚だ。それじゃあ足形を取るからこっちへ来てくれ。」


足形を取り、5日後にまた来てくれと言われて店を出る。

そろそろ教会に向かった方がいいかな?


教会前の広場が見えたとき、ちょうど鐘が2回鳴った。

時間ぴったりのようだ。

着いたらそこには既に貴族が従者らしき人を伴って待っていた。

この貴族さん名前は何だったかな?


「時間ピッタリだね。荷物の整理も終わっているみたいで安心したよ。」


「少し待たせてしまったようですね。申し訳ございません。」


とりあえず謝っておく。

お金をくれる貴族さんだからね、印象は大事だよね。


「問題ない。それではこの袋が代金だ、中を見て確認してくれ。」


袋を受け取り中を確認する。

パッと見だが問題なくありそうだ。


「ありがとうございます。それでは台車をどうぞ。」


非常に軽くなった台車を従者らしき人に受け渡す。


「今後も何か面白い構造を考え、作った場合には教えて欲しい。メリクス家の門番には伝えておいて貰えれば、時間を取ろう。」


なんか扱いが丁重なんだよなぁ、凄く違和感がある。

それだけベアリングに対する期待が高いのだろうか?


「ありがとうございます。何か新しく作った際、連絡させていただきます。」


連絡する気どころか何か作る気もサラサラないが、社交辞令として丁寧に答えておく。


「うむ、ではまた。」


貴族さんは去って行った。

従者さんは終始顔色が悪かったが大丈夫だろうか?

少し気になった。


「とりあえず、宿を探すか。」


気にしても仕方ないので宿を探すことにした。

聞いてみたところ、宿はギルドの近くに多くあるそうだ。

宿屋の目印として『木に鳥が止まっている看板がある』とのことで、さっそく戻って探してみる。

探してみるとすぐに一軒見つけたが、外装は古いを通り越してボロボロで少し不安だったのでスルーして他の宿を探す。

少し離れたところにもう一軒見つけることができた。

今回は古くも新しくもなく、軽く中を覗いても問題なさそうだったので、受付の若い女性に話しかけてみる。


「こんにちは。宿泊ですか?食事ですか?」


「宿泊するつもりです。」


「宿泊の場合朝と夜の食事が付いて、一晩銀貨2枚となります。料金先払いの場合少しお安くなり銀貨1枚と銅貨8枚になります。一週間以上お泊り頂ける場合さらに値引きがなされますがいかがいたしますか?」


銀貨2枚ってやすいような気がする。

大きいとはいえ袋1枚の五分の一だぞ?

まぁ、向こうがそれでいいのなら構わないが。

もしかして布って高いのかな?

貨幣価値がさっぱりわからん。


「ではとりあえず先払いで一週間お願いします。」


「分かりました。では一週間先払いとして銀貨10枚と銅貨5枚になります。」


銅貨の価値が分からないので銀貨11枚で支払う。

銅貨5枚がおつりとして戻って来た。

金貨1枚は銀貨100枚だったけど、銀貨1枚は銅貨10枚の価値なんだな。


「確かにお支払いいただけました。お名前を教えて貰ってもよろしいでしょうか?」


「ニートです。」


「ではニート様、こちらが部屋の鍵となっております。部屋はそちらの階段を登って一番手前の右側となっております。朝の食事は午前最初の鐘から午前2の鐘まで。夕食は午後6の鐘から深夜までとなります。遅れてしまった場合は食事をとることができませんのでご了承下さい。一応空いている時間なら料金を支払うことで厨房を使用することも出来ます。」


「分かりました、ありがとうございます。」


忘れないようにしないと。

言われた通りに階段を登り一番手前右側の部屋の扉に鍵を差してみる。

問題なく合っていたようで扉が開き、中に入る。

部屋の広さはそこそこ広く、奥の壁に窓がありベッドも置いてある。

小さめのテーブルも置いてありビジネスホテルの様な印象だ。

ベッドのシーツも綺麗で、今の格好のまま眠るのは止めた方がいいだろう。

使わない荷物は置いたまま鍵を閉めて、受付の若い女性に話しかける。


「何か問題がございましたか?」


「いえ、綺麗な部屋でしたので先に体を洗おうと思ったのですが、この町に体を洗う銭湯の様なものはありますか?」


「そうでしたか、お気遣いありがとうございます。銭湯でしたら街の北西側、鍛冶屋が並ぶ通りの近くにございます。簡単な地図を書きましょうか?」


「お願いします。」


お風呂がちゃんとあるのか。

少し遠い気もするが、銭湯があるだけでも非常に助かる。

それにしてもこの宿はサービスがいいな。

受付の女性が真面目なだけかもしれないが、ここを選んで正解だったのだろう。

女性から地図を受け取り銭湯に向かって移動する。

西の方に進んでいると遠くから鍛冶の鉄を叩く音が聞えてきた。

そう言えば武器も探さないとなぁ。

銭湯に行った帰りに鍛冶屋にも寄ってみよう。


地図を頼りに銭湯に無事に辿り着き、建物の中に入る。

入浴料金は一回銀貨1枚のようだ。

サクッと支払う。

入り口はちゃんと女性と男性で分かれていて、少し安心した。

初めての利用なので説明をお願いしたところ、湯あみ着はなく全裸で問題ないようだ。

注意としては、『お湯が流れている場所には桶以外の物を入れないこと』、『先に体を洗ってから湯船に入ること』、『洗濯しても問題はないが忘れものに注意すること』、『異性の風呂場を覗いているのを発見した場合警邏の兵士に突き出す』との説明を受けた。

男性が女湯を覗いた場合ではなく『異性の風呂場を覗いた場合』ということは、女性が男湯を覗いていた事件でもあったのだろうか?

あまり気にしないでおく。

風呂場に入ると奥には広い湯舟。右手にはお湯が流れる通路があり、その手前には長椅子が置いてある。桶も入り口近くに置いてあった。

まだ少し早いのか3名しか人はいなかった。

桶にお湯を汲んで着ていた服を入れておく。

もう一つ桶を借りて体を先に洗い始める。

タオルで体を擦るように洗うが、結構汚れていたようだ。

結構綺麗に洗えたと思うので、服をあらうのは後回しにして風呂に入る。

久しぶりの入浴だ。

どちらかというとシャワー派だったが風呂も嫌いではない。

のんびりと体を温め、服を洗い、もう一度湯船に浸かってから風呂を出た。

少し人が多くなってきたからだ。

着替えや荷物が盗まれているなんてこともなく、そのまま銭湯を出た。

結構長く入っていたのか時刻はすでに夕方になっていた。


事前に決めていた通り、少し鍛冶屋に寄って行くことにした。

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