第32話 イノシシのお肉は価値が高いがめんどくさい
お世話になった親切な門番さんに街に入ることを伝えたところ、『工事の仕事を手伝ってくれてありがとう。』と言われた。
お礼を言われると嬉しいね。
でも確かに大変だったし、進んでやりたがる人はいないのかもしれない。
冒険者では稼げずにお金が無くなったらまた頼もう。
そういえば完全にスルーしていたが『冒険者』なんだよな。
モンスターを狩るだけじゃ駄目なのかな?
普通の冒険とかめんどくさくて出来るだけやりたくないんだけど……。
今回の移動もエルフの領域じゃなかったら野生人として、そのままサバイバルしていたと思うし。
仕事は出来るだけやりたくないんだよなぁ~。
そんなことを考えながらガンツさんについていく。
少し歩いたところでお肉屋さんに着いたみたいだ。
来る途中に見かけた屋台とは違って肉専門の商店って感じで、沢山の肉をぶら下げて販売している。
もちろんぶら下げているだけではなく棚に置いていたりもするが、全体的に量が少なく感じるのは日本での肉屋のイメージがあるからだろうか?
「ガンツか?こんな時間に来るのは珍しいな。流石に今から飲みには行けないぞ。」
肉屋のおっさんとは飲みに行く友達のようだ。
「お前のとこに肉を売りたいってお客さんを連れてきたんだよ。あ、旨い燻製肉を箱で貰ったから今夜は飲もうぜ。」
燻製肉を旨いって言って貰えると頑張った甲斐があったね。
「そうなのか、何の肉を売って貰えるんだ?ガンツの紹介だし出来るだけ買い取ってやりたいが……。」
コネは大事。
これ、どこに行っても変わらない真実。
「魔物化した……ビッグボア?と、魔物化した……デカい蛇の肉なんですけど……。」
とりあえず箱を開けて見せてみる。
「ビッグボアの肉?見せてみろ。それにデカい蛇?ってこれは……ヘビースネークだな。こっちは本物のビッグボアの肉だ。」
蛇はヘビーで蛇だった。
肉屋のおっさんは肉に目を奪われている。
ついでに燻製肉も見せて売り込むか。
「こっちは燻製にしたお肉です。森の中で自作したものですけど、結構美味しくできていると思います。」
生肉の箱は2箱だが、一つは半分ほど食べているのでそこまでの量じゃない。
燻製肉は箱3つぎっしりなのだ。
是非高値で買い取ってもらいたい。
「そ、そうか。とりあえず生肉は色合いからして明後日くらいまでしか持たないだろうから少し安値をつけさせてもらうぞ。」
それはまぁしょうがない。
「燻製肉の方は少し試食できるか?あ、ガンツの持っている箱も燻製肉なのか。少しくれ。」
「おう!なかなか旨いぞ。今夜の酒が楽しみになるくらいにはな!」
ガンツさんは酒が相当好きなようだ。
肉屋のおっさんが燻製肉を食べる。
「こっちは相場の倍だな。安値で流通させたら不味いレベルだ。他の物が売れなくなる。」
これは相当な高評価を頂けた気がする。
それで、買取金額は?
「生肉の方は金貨8枚。燻製肉は……。」
考え込んでしまった。
とりあえず金貨8枚は確定しているようだ。
金貨って高いはずだよな?
今のところ銅・銀・金とよくある硬貨の種類しか聞いていないけど。
もっと上とかあるのかな?
というか貨幣価値が分からないから考えても意味がないんだよな。
「燻製肉は……1ブロックで金貨4枚だな。ヘビースネークの方は一つ銀貨20枚だ。」
え~っと……。
確かイノシシのブロックは一箱に6つを3箱だから、金貨72枚か。
台車が……負けるだとっ!?
まぁ、台車は台車自体の価値は低かったから当然か。
ヘビー蛇はイノシシ肉の隙間に30枚は詰め込んだから、銀貨600枚だな。
オラ!金はちゃんとあるんだろうなぁ?
「ビッグボアの燻製肉が18個、ヘビースネークの開きの燻製が32枚。4が18で……金貨72枚だな。あと20が32枚で…………銀貨640枚か。合わせると金貨78枚と銀貨40枚だな。うん!店にある金じゃ足りねぇ!ガンツ!ちょっとギルドに行ってラングさんを連れてきてくれ。」
足りなかったかぁ……。
とりあえず銀貨100枚で金貨1枚。
覚えた。
それにしても燻製肉作るのに一日。
それで金貨80枚近く。
午前中石を運び引き上げ働いて銀貨3枚と銅貨10枚プラス街に入るための銅貨5枚。
働いたら負けとはこのことか。
いや、あのイノシシは強敵なのだ。
働く価値ではなく、仕留めた獲物の価値が高かったんだ。
……今後真面目に働くことはないだろうなぁ。
そんなことを考えていたらガンツさんが綺麗なお姉さんを連れて戻って来た。
『ラング』という名前からまたおっさんかと思っていたので驚きだ。
「戻ったぞ。ラングさんはいないからスピカ嬢ちゃんを連れてきた。」
ラングさんではないようだ。
スピカって素敵な名前ですね。
「そうか、悪いんだがギルドで燻製肉の買取は出来ねぇか?ビッグボアの燻製肉は安値で出回っちゃ困る代物なんだ。」
「……ビッグボアの燻製肉ですか?本当に?珍しいですね。燻製肉というのも珍しいです。少し味見してもよろしいでしょうか?」
そっかぁ、ビッグボアのお肉って大量に市場に流しちゃマズい物なのか~……。
レベル上げのために乱獲できなくなったな。
「確かに、これは凄いですね。肉自体が素晴らしいのも関係していそうですが、燻製肉にすることで香ばしい風味と合わさってこれ以上ないほどの出来となっています。これはこちらの方が?」
綺麗なお姉さんに見られると緊張しちゃうな~。
それにしても燻製肉絶賛だな。
自画自賛出来るほど旨いと思ったがここまで評価が高いとは思わなかった。
とりあえず何か言った方がいいのだろうか?
「初めまして。私はギルド職員をしているスピカという者です。申し訳ありませんがこの燻製肉が安価で市場に流されるとあちこちに影響が出てしまいますのでギルドの方で買取をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
陰キャムーブでなんて言おうか考えている間に挨拶されてしまったが……、どんな影響が出るのか見てみたいと言ったら怒られるのだろうか?
「買い取ってもらえるのなら構いません。」
とりあえず金だ。
金さえあれば世の中楽に生きていける。
これまでの人生の教訓だ。
「ありがとうございます。ローフさん、この燻製肉にいくらの値をつけましたか?」
「一ブロックで金貨4枚だ。」
「妥当ですね。流通価格は倍以上になるでしょうし。」
そう言えば生肉が全部で金貨8枚だったよな?
燻製肉に加工したことで価値が倍以上に上がってないか?
まぁ、向こうが払うというのなら受け取るが。
「それではビッグボアの燻製肉は2つを除きギルドで買い取り、ビッグボアの燻製肉2つとヘビースネークの燻製肉はローフさんが買い取るということで。」
「おう!ありがとな。じゃあちょっと待っててくれ、今金を用意する。」
交渉が終わったようだ。
全部ギルドで買い取るのかと思っていたが、2つは肉屋で買い取って貰えるようだ。
金額はえ~っと、生肉金貨8枚に、蛇の燻製肉が金貨6枚と銀貨40枚で、イノシシ肉の燻製二つで金貨8枚。
合計金貨22枚と銀貨40枚だな。
「待たせたな、こっちでの買取は金貨22枚と銀貨40枚だ。確認してくれ。」
肉屋のおっさんに言われたのでちゃんと確認する。
問題はないようだ。
「残りはギルドに運んでくれるか?そっちで全部買い取ってもらえるからよ。」
「分かりました。いろいろとありがとうございました。」
話はほとんど聞いていなかったが真面目に考えて買い取ってもらえたことは分かる。
今度は客として何か買いに来よう。
振り返るとスピカさんがこっちを見ていた。
う~ん、やっぱり緊張するなぁ。
隊長さんも美しかったが、命の危険しか感じなかったもんなぁ。
「では、ギルドまでついてきていただけますでしょうか?そこで買取を行います。」
「了解です。」
あ、そう言えば……、
「ガンツさん、案内ありがとうございました。」
ガンツさんに案内されて来たんだった。
ちゃんとお礼を言っとかないと、いざという時にコネで働かせてもらえないと困るからね。
「気にすんな。燻製はありがたくいただくからよ。仕事がないならたまに働きに来てもいいからな。」
……そこは毎日じゃなくてたまになんだ。
とりあえずスピカさんについていきギルドに到着する。
そう言えばギルドとしか言っていないけど、魔物の討伐から市場の流通管理まで全部ギルドの仕事なのかな?
普通、流通って国で管理するものじゃない?
違うのかな?
ギルドでは裏口っぽいところから個室に案内された。
「では、ビッグボアの燻製肉16個を金貨64枚で買い取らせていただきます。こちらの書類のここにサインを頂けますか。」
書類あるんだ。
というか渡されたのが羽ペンだ。
とりあえず、
「すみません、字が書けないんですよ。代わりに書いて貰えたりしません?」
今更だけど言葉は普通に通じるんだよな。
言おうと思ったことが頭の中で勝手に変換されて話している感じ。
でも、文字は読めないんだよ。
肉屋のおっさんの店に看板とか値札っぽいのあったけど読めなかったもん。
「そうですか、分かりました。お名前は何ですか?」
「ニートです。」
今更だけどなんでニートって名乗っちゃったかなぁ……。
スピカさんはサラサラっと書類に名前を書いた。
読めぬ。
「ところでニートさんは他の街の冒険者ですか?」
唐突に質問してきた。
「違いますよ。この後か明日にでも登録しようかと思ってましたけど。」
「そうなんですか。是非お待ちしております。」
……なんか嫌な予感がするなぁ。
『是非お待ちしております。』って心から言う人いるのかな?
(へっへっへ、鴨がネギしょってやって来たぜ。)の間違いじゃない?
なんか登録したら強制的に仕事を受けさせられそうだなぁ。
燻製肉がギルド側でも結構利益出そうな感じだし、それかな?
登録するのやめようかな~。
「肉の入った箱はここで大丈夫ですか?」
「後で男性職員の方に運ばせるので大丈夫ですよ。」
「では、私はこれで失礼します。」
とりあえずお金を受け取って撤退だ。
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