第31話 そろそろ街へ入りたい。
夜通し歩き続けた。
考えたことは自分の精神状態だ。
ストレスを溜め込みやすく、いつか爆発すると自覚していたが、まさか自分があんな言動を平然とするとは思わなかった。
野盗を皆殺しにしたことはどうでもいいが、自分の発言には後悔してしまっていたのだ。
あまりの恥ずかしさに歩くペースも速く。
朝陽が眩しい早朝に、遠くに城壁に囲まれた街が見えてきたのだった。
「おぉ~!結構早く着いたな。……エルフさんの言っていた二・三週間って話は何だったんだ?ステータスの影響なのかなぁ?」
街が見えたことでテンションも上がり、自身の言動などどうでもよくなった。
自然と進む足取りも軽くなる。
城壁は手前と奥にあり、手前はまだ建造途中のようで壁の一部が全然繋がっていない。
街を広くするのだろう。
手前の城壁には兵士も誰もいないので、奥の門が見える城壁まで歩いていく。
門の前には2人の兵士がいた。
同じような装備をしており、腰には剣、手には槍を持っている。
感覚的にはエルフちゃんと同じくらいの強さだろう。
「こっちから人が来るなんて珍しいな。旅人か?」
近づくと左の門番さんが聞いてきた。
「はい。強くなるために修行をしようと思っていたのですが、森の中に危険なモンスターが出て危険とのことでこの町へやってきました。」
話すと驚かれた。
もしかして、まだあの村の情報はこっちまで伝わっていないのだろうか?
「森の中にモンスターが出て危険とはどこでのことだ?そんな情報は入ってきていないが。」
今度は右の門番さんが聞いてきた。
「私が来た道をそのまま辿って2日の位置にある村の村長さんがそう言っていましたよ。村は私が行く前までモンスターに襲われていたみたいで、凄い被害でした。幸いにも誰一人死人は出なかったようです。モンスターに襲われて、死人どころか怪我人すら出ないなんて凄いですよね。」
世間話をするように軽い感じで情報を話す。
門番さんたちはアイコンタクトで意思疎通をした後、一人は中に入っていった。
報告でもするのかな?
とりあえず残った門番さんに聞いておかなければならないことを聞いておく。
「ところで、ここを通って中に入るのにお金って必要ですか?」
「一応一般人は入るときに銅貨5枚を徴収することになっている。この町のギルドカードか上位のギルドカードを持っているなら無料になるがギルドカードは持っているか?他の街のギルドカードの場合は銅貨3枚になるんだが。」
ギルドあるんだ。
テンプレだな。
「無いです。銅貨も一枚も持ってないので帰りますね。」
(近くの森でサバイバル生活の始まりだ!)とか思いながら引き返そうとすると、門番さんに呼び止められる。
「待て、あそこを見ての通り今この町では城壁を建造中で人手が足らない。今日の昼まで仕事を手伝って貰えるのなら無料で通っていいんだが、やらないか?」
少し眠いが昼までなら余裕で持つだろうし、やってみるかな?
「やります。どこに行けばいいですか?あ、あと荷物はどこに置いておけばいいですか?」
「荷物はそっちの少し離れたところに置いておくといい。貴重品がある場合は自分で持っておけよ。もう少しすると工事の者たちが来るはずだから、それまで休んでおくといい。」
この門番さんめっちゃ親切だわぁ。
とりあえず言われた通りに台車を少し離れた位置まで引いていく。
いつも使っている袋に隊長さんさんから貰った小さな袋を入れ持っておく。
門のところに戻るとちょうど工事の関係者らしき人たちが出てくるところだった。
「ガンツ!ちょっといいか!」
門番さんがおそらく責任者を呼んだ。
「なんだ?ん?金のないやつでも来たのか。珍しいな。」
金を持たずに街に来る人は少ないのか。
「そうだ。昼まで働かせてやってくれないか?」
「それは別にいいが……。まぁ、いいか。あんちゃん、今からやるのは石を運ぶキツイ仕事だが、大丈夫か?まぁ、昼までの我慢だと思って頑張ってくれよ。」
「分かりました。力仕事なら結構出来ると思うので任せて下さい。」
「……この体格に細い腕で大丈夫かな。まぁ、怪我だけには気をつけろよ。金のために働くはずが、怪我をして治すために借金背負っちまうやつもたまにいるからな。」
ガンツさんも親切な人のようだ。
昼までの短い間だし、頑張って働くか。
ニートだけど、ニートだけど!
「そういえば、お前さん名前は?」
「……ニートです。」
ガンツさんの後をついて行くと、少し
大きめのレンガの様なものが大量に置いてあった。
全ての石の大きさがほとんど同じ様に見える。
石切りの技術高すぎないか?
「見ての通りここには土魔法で生み出してもらった石が大量にある。これを運ぶのがお前さんの仕事だ。積むのは専門のやつらがやるから運ぶだけでいいぞ。」
ガンツさんはそう言いながら重なった石を持ち上げる。
ガンツさんが持ち上げた石と同じ数を持ち上げてみる。
切り落としたイノシシの頭くらいの重さだった。
「結構力があるんだな、驚いたぜ。それじゃ運ぶからついてきてくれ。」
石を置いた後はガンツさんは別の仕事があるらしく、一人で石を運び続けたのだが……。
「これ石を全部運び終わりそうなんだけど大丈夫かな?」
休みなく石を運び続けた結果、大量にあると思っていた石はあと2回ほどで無くなりそうだった。
「とりあえず運んでから聞いてみるか。」
という訳で運び終わったのでガンツさんを探す。
昼までと言っていたが運び始めてまだ30分程だ。
次の仕事があるのかもしれない。
ガンツさんは他の作業員の方々と集会をしていた。
あれかな?
工事現場とかでよくやってるやつ。
安全確認はしっかり~とか、事故が起きないように~とか、仕事には誠意をもって~みたいな。
あとラジオ体操。
あ、ガンツさんがこっちに気づいたようだ。
「何かあったのか?もしかして落として石が割れたか?」
「いえ、全部運び終わったのでガンツさんを探していました。」
「……本当か?」
めちゃくちゃ疑いの目で見られた。
(一目確認すればわかることだろうがぁ!)と心の中でキレながら、ガンツさんと共に石を置いた場所へ行く。
ちゃんと全部置いてある。
「マジかよ……。」
非常に驚いているようだ。
こういう一つのことを淡々とやり続ける作業は嫌いじゃないのよね。
そんな仕事なかなか無かったけど。
「一応予定していたお前さんの仕事はこれで終わりだが……、お前さんその見た目で本当に力があるんだな。」
筋力のステータスは最優先で上げたからね!
「これで終わりですか?」
「……もう少し手伝ってもらえるか?この石を上に持ち上げるのを手伝ってほしい。」
昼まで働くっていう話だったからね。
もう少し働いて欲しいって言われてノーとは言えないよね。
これがノーとは言えない日本人という訳か。
とりあえず了承してガンツさんの後をついていく。
今度は上に登るようだ。
登ってみるとそこにはロープがあり、ロープの先には箱が付いていた。
「その箱を下に垂らして石を入れてもらうんだ。下のやつが石を入れたら合図を出すから、持ち上げて、持ち上げた石はそこにいるスタックに渡してくれ。」
「分かりました。」
滑車という物はないのだろうか?
とりあえず言われた通りに箱を下に下ろし、箱に石を入れるのを待つ。
ロープを数回連続で引っ張られる合図があったのでロープを引き上げる。
……少し重いかな?
やっぱ筋力は大事なんだなぁ。
それほど時間をかけずに持ち上げ、石をスタックさんに渡す。
箱の中には8個の石が入っていた。
ガンツさんが一度に持っていた数と同じだ。
もしかしたら普通は運ぶ人が箱に入れて、持ち上げる人と二人組でやる作業だったのかもしれない。
全部運んじゃったのでどうでもいいが。
石を全部私終えたので、箱を下におろしていく。
「凄い力だね。見た目だけなら私より細腕で体格も大きくないのに……。どうやって鍛えたんだい?」
スタックさんが作業をしながら話しかけてきた。
どうやって鍛えたかと聞かれても……、
「鍛えたというより、モンスターを倒しまくってた結果ですかね?」
レベルを上げてSPを振れば強くなれるのだ。
決して嘘ではない。
「えっ?冒険者だったのかい!?」
あ、合図があった。
「違いますよ。今日か明日辺りに登録しようとは思ってますけど。」
ロープを引き上げながら答える。
ギルドへの登録だが、(他の街にもギルドはあるみたいだし、身分証の代わり程度にはなるだろう。)と思い登録するつもりでいる。
「そうなのか。出来ればもう少しここで働いて欲しいくらいのパワーだよ。今何歳なんだい?」
箱を持ち上げたので石を渡す。
「25ですよ。」
「25っ!?」
……なんでそんなに驚いているんだろう?
「もしかして……エルフなのかい?」
これは……若く見られているのかな?
「違います。普通の人間ですよ。少なくとも先祖にエルフの方がいたという話も聞いたことがありません。」
「そうなのか……、その見た目で25歳だとは思わなくてびっくりしたよ。」
「よく言われます。」
そう、昔からよく言われているのだ。
『全然成長しないね。』っていう嫌味かと思い始めていたが、普通に若く見られるようだ。
その後も話しながら作業を続け、石が全部無くなった。
(合図が来ないな)と思って下を見ると石がなかったのだ。
「今日の分は終わったみたいだね。こんなに早く終わるなんて初めてだよ。」
そう言うスタックさんと共に下に降りていく。
下に降りたときにガンツさんがやって来た。
「おう!終わったみたいだな。あんちゃん、だいぶ手伝って貰ったからこれはお礼だ。」
「ありがとうございます。お世話になりました。」
これは銀貨だろうか?
銀貨3枚と銅貨10枚を貰った。
さて、まだお昼には結構時間があるが十分働いただろう。
荷物を取りに台車を置いたところへ行く。
台車の前に誰かいるようだ、泥棒かな?
「何してるんですか?」
とりあえず声をかける。
ぶちのめすのは盗みを確認してからでも遅くはないだろう。
「ん?あぁ、すまない。この台車の持ち主か?この車輪の部分だが、面白い構造だから気になってしまってな。本当になかなか面白い。これは誰が作ったものか分かるか?」
泥棒ではないようだ。
「それは私が作ったものですよ。流石にそろそろ壊れそうなので荷物をまとめたら肉を焼く薪にしようと思ってたんですが、欲しいですか?」
人間の街に着いたので台車ともそろそろお別れだろう。
「そうなのか!う~ん、確かに少し摩耗が見えるが、まだまだ使えそうだぞ?売ってもらえるのか?」
……どうしよっかな~?
正直荷物整理さえ済めば売っても構わないんだけど、大した金にならないなら薪にした方がいい思い出になりそうなんだよなぁ。
「いくら出します?」
とりあえず聞いてみる。
台車の相場など知らないが、聞かないよりは自然だろう。
「そうだな……。このまま少し引いてみてもいいか?ここから数メートルで構わない。」
許可をだすが、大量の肉と水と木が乗っているから普通の人には重すぎると思うんだよなぁ。
……そう思っていたがゆっくりとだが台車は動き出し、数メートル先で止まった。
「これは凄まじいね。これだけの物を乗せているのに動かすことが出来るとは思わなかったよ。たぶん摩耗の原因は荷物の乗せすぎだと思うよ。これでも普通に使う分には問題ないし、構造を元に発展していけば大きな利益も見えそうだ。台車としての値段は普通の1.5倍の銀貨30枚というところだが、この構造は……金貨50枚でどうかな?」
まともなことを言っているようだ……。
だが相場が分からない!
別にベアリングの構造を私が考え出したわけじゃないし、貰えるならラッキーって気分でしかないのだ。
「いいですよ。私はとりあえず捨てるものと売れそうなものと持って行くものを分けるので、お金の準備をしておいてください。」
「分かった。そう言えば私の名前はベネット・メリクス。このホエールポートを治めるメリクス伯爵家の次男だ。」
……このタイミングで貴族ですよアピール?
いや、貴族の家系だから金払いは信用しろってことか?
貴族とはお金だけの関係でありたいものだなぁ。
よく知らんけど。
「ニートです。」
とりあえず礼儀として名乗っておく。
今日働いたからニートじゃないもんね!
ニートだけどニートじゃないもんね!
「ニートか、荷物の整理にはどれくらいかかる?今から金を用意するとなれば、早くても昼過ぎになってしまうと思うのだが。」
「街の中に目立つ場所ってありませんかね?歩いてる人に聞いたらほとんどの人が分かる場所とか。」
「それなら教会前の広場にしよう。教会はこの町に一つしかないから分かりやすいだろう。時刻は……午後2つ目の鐘が鳴る頃でどうだ?」
どうだと言われても……、
「教会前の広場は大丈夫です。ですが、この町に来たのは初めてなので午後2つ目の鐘がいつなのか分かりません。」
「それなら大丈夫だ。鐘の鳴る音の回数が2回の時に来てくれればいい。もう少しで昼の鐘が鳴ると思うが、昼の鐘はリズムを刻むから分かりやすいぞ。」
鐘が2回なったら教会前広場、覚えた。
「分かりました。午後2つ目の鐘が鳴ったら教会前広場ですね。では、荷物の整理を始めたいと思います。」
「あぁ、急いで家に戻り金を用意してくる。」
貴族は去って行った。
たかが台車で貴族と繋がりができるってなんてテンプレ?
一度でもお願いを引き受けたら持ちつ持たれつのずぶずぶの関係になって破滅するんだ~。
お金以外の縁を持たないように気をつけないと。
とりあえず荷物を整理する。
肉は食べきれない分は売ろう。
水はもったいないけど捨てるか。
飯の後に捨てよう。
海水は少し塩が出来たけど人間の国の港町だし普通に売ってるだろうからこれ以上作る必要を感じないので捨てる。
木は捨てる。
というか昼飯の時に使う分だけ残して捨てるか。
イノシシの油も捨てるか。
純粋に重いし。
「マジで金になるものがないな。」
隊長さんに貰った物を換金して生活しないといけないところだった。
そういう意味では台車を買って貰えるのはありがたいな。
とりあえず捨てるものを捨てるためにも昼飯にしよう。
そう言えば燻製肉とか全然食べてないじゃん。
昼はこれでいいか。
ムシャムシャ食べているとガンツさんがやって来た。
「おう!ここで昼飯か?買いすぎた干し肉の処分なら手伝ってやるぞ。」
……まぁ、そう見えてもおかしくはないな。
「干し肉じゃなくて適当に作った燻製肉ですけど食べます?まさかこんなに早く着くとは思ってなくて相当な量あるんですよ。」
肉用に作った箱の中には燻製肉の固まりがぎっしりと詰まっている、それも4箱だ。
2箱には生肉が入っている。
「んじゃ、遠慮なく貰おうかね。……旨いな。これ何の肉だ?燻製は食べたことあるが、少し風味が違うだけでここまで旨いとは思わなかったぞ。」
「イノシシ……魔物化したボア?ですよ。」
「高級食材じゃねぇか!」
なんか驚いて激高してる。
そうなのか、高級なのか。
結構放置して捨てたんだけどな。
「あ、やっぱりそうだったんですね。デカくて強かったから絶対美味しいと思ってたんですよ~。」
「強さと肉の味は関係ねぇよ!お前さん魔物化したボアってことはビッグボアを仕留めたのか?一人で?」
「結構怖いですけど、首の骨を圧し折ればだいたい死にますからね。」
ガンツさんは何も言わなくなった。
きっとお肉の味に感動しているのだろう。
あ、そうだ。
「ガンツさんには午前中お世話になりましたし、一箱持って行きますか?多少は売ってお金に変えたいですけど、一箱くらいならいいですよ。」
「そ、そうか。ありがとよ。世話になったのはこっちも同じだが、ありがたく貰っておくわ。」
「その代わりお肉を売れる場所を教えて貰えます?流石に来たばかりで分からないので。」
「そのくらいなら案内するぞ。これを食い終わったら案内しよう。」
こうしてやっと、街の中に入るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます