第30話 闇堕ち主人公

村にはまだ魔物がいるようだ。

とりあえず台車を置いて、村の中に入っていく。

村の中には複数のイノシシやオオカミがいるが、非常に目立つところでイノシシとオオカミが派手に喧嘩していた。

大きさ的にはイノシシの方が大きいが、オオカミも善戦している。

……面白そうなので乱入する。

手刀パーンチ!首にヒット、イノシシは死ぬ。

オオカミは困惑している。

そのまま攻撃しようと一歩近づいたら、さっきまでの気迫はどこへ行ってしまったのか、オオカミは全力で逃げ出した。


「あれぇ?魔物ってもっと殺意に溢れた生き物じゃなかった?魔物が逃げ出すなんてことあるんだ。イノシシ一匹しか倒せなかったなぁ。」


生物である以上当然である。

他にいた魔物も我先にと全力で村から飛び出し逃げてしまっていた。


「まぁ、いいか。とりあえず……村を見て回ろうかな?死体とかなければいいけど。」


村を観察しながら歩く。

見たところ人の姿形はなく、あちこち掘り返されたような畑があり、半壊や全壊したボロボロの家が立ち並ぶだけだった。


「随分ボロボロな村だなぁ~。モンスターもいっぱいいたし、廃村かな?でも畑の作物は最低でも植えられた時点までは人の手で植えられていたっぽいからなぁ~。」


(もしかしたら事前に魔物の襲撃を予測して避難したのかもしれない。)


そんなことを考えていると、歩いていた方向から少しくぐもった様な声が聞えてきた。


「すまない!私はこの村の村長なのだが、数日前からモンスターの襲来を受けた!今、村の中に魔物はいるのだろうか!」


「……人がいたんだな。地下にでも隠れてたのかな?え~っと……、もう村の中にモンスターはいませんよー!」


とりあえず素直に返事をしておく。

イノシシ一匹倒したらモンスターが逃げて行ったと言えば、お礼に何か貰えるだろうか?

出来れば鍋が欲しい。

イノシシの油をバケツもどきの樽に結構な量確保してあるが、鍋もフライパンもないので揚げ物が出来ないのだ。

仕留めたイノシシと交換でも全然構わないから鍋が欲しい。


そんなことを考えながら声のした方に行くと、他の家と比べると少しだけ立派な家が見えてきた。

中からバキバキと木を剥がすような音が聞える。

しばらく待っていると、村長らしき人物を先頭に次々と村人が外に出てきた。

外に出た途端村の惨状に肩を落としているが、こればかりは仕方がないだろう。

「君は……一人かね?」


村長っぽい人が声をかけてきた。

先ほど聞こえた声と似ているので村長なのだろう。


「一人ですよ。つい先ほどこの村を見つけたので確認のために村に入ったところです。」


イノシシのことは死体を見せたタイミングで話せば、交渉までスムーズに話をもっていきやすいだろう。

これだけボロボロになってしまった村だ。

鍋一つと大きなイノシシの死体、どちらを選ぶかなんて……私なら鍋を選ぶかも。

交渉できるかな?


「そうか……。村の外ではモンスターを見なかったかね?実は近くの森に危険なモンスターが現れたようで、小型や中型のモンスターが森からこちら側に逃げるように移動してくるため、この村は大変危険な状況なのだ。」


……森の中に危険なモンスターとかいたっけ?

モンスターが逃げ……あ、これ森から来たって言わない方が良いパターンだ。


察するのは速かった。


「そうなんですか、私が来た時にはイノシシの死体が一つあっちに転がっているだけでモンスターは見ていませんよ。」


魔石すら取っていなかったが、この場合は正解だっただろう。

首に穴が開いて、お腹は開くように切られ魔石だけを抜き取られた死体なんてモンスターの仕業とは思えない。


「う~ん、森に行こうかと思って来たのですが時期が悪かったようですね。私は街へ戻ろうと思います。」


「いや、この村から街までのルートには野盗が出ると聞いたが……お主は大丈夫だったのか?」


野盗……山賊みたいなものかな?

そうなのか。


「私は大丈夫でしたよ。見ての通りボロボロの格好なのでうまみがないと思われたんですかね?」


洗濯はしていたが一着を山の中でずっと来ていたのだ。

当然汚れるし、草木に引っかかってボロボロにもなる。

見た目だけで言えば浮浪者といわれるかもしれない。


「そうか、そうだな。ところで森へは何しに行く予定だったのだ?」


森へ行く目的か、これは普通に答えていいな。


「強くなるための修行でモンスターを狩りに来ました。」




こうして、村長に若干疑いの目を向けられた気がしたが、特に問題になることはなく村を出て出発が出来た。

村から町までは人が歩いた道があるので、台車を引くのも楽だ。

もう少しで夜になるが、森の中と比べると見通しもよく魔物の接近にもすぐに気づけるだろう……攻撃しに来ればの話だが。

そういえば野盗が出るって言ってたな。

一応気をつけよう、気を付けていてどうにかなるものとは思えないけど。


「そういえば、隊長さんの話では人間の国の港町まで二・三週間って言ってたよな?多少森の中を突っ切ったとはいえ村まで十日くらいで着いたけど、ここから港町って遠いのかな?」


実はソフィーアに言っていたルートは、森には一切入らず海岸を集団で歩いた場合のだいたいの日数だった。

集団だと必要な荷物も多くなり、一人一人の体力も違うため必然的に移動が遅い者のペースに合わせた移動となるので、時間がかかるのは当然である。

ほぼ一人で、台車を引いているのに移動速度がほとんど落ちず、なぜか森の中を平然と突っ切っていく上に、モンスターに襲われるどころか逃げられるので、森の中でレベル上げという寄り道をしたにもかかわらず非常に速いペースで進んでいた。


日がほとんど沈み辺りが暗くなってきたところで進むのを止め、道から少し外れたところで焚き火の用意をして食事をする。

大量の肉を食べ、胃の苦しさと戦いながら眠った。




次の日も何事もなく朝を迎え、食事をし、進み続けた。

何事もなく進み続け夕方となり、(そろそろ今日も休もうか、それとも野盗がいるらしいし徹夜で歩き続けて先を急ごうか。)と思っていたところに、11人の野盗らしき者たちが現れた。

暇だったのでこう言ってやった。


「やめて!酷いことしないで!この人でなし!どうせこの後連れ帰ってエッチなことするんでしょ!エロ同人みたいに!エロ同人みたいにっ!」


野盗は何も言わず、非常に重い空気が流れた。


(よし、殺そう。)


ノーリアクションの野盗に殺意が湧いた。

とりあえず台車を置き、一番近いやつに近づいて腕を捕まえ組み伏せる。


「っ!?離せ!」


「いや、あんた野盗ってやつなんだろ?ムカつくから殺すけど、問題ないよね?」


完全にサイコパスである。

他の野盗達が剣やナイフ等を構えるが、これならエルフちゃんの方がまだ怖かった。

命名:野盗Bがナイフを持って突っ込んでくるが、こちらには野盗Aという盾がある。

ナイフは見事、野盗Aの背中に突き刺さった。


「味方を殺すなんて……お前はそれでも人間かっ!」


適当なことを言いながらうめき声を上げる野盗Aを振り回し、野盗Bを倒す。

他の野盗は少しビビったのか近づいてこないので、野盗Aに刺さったままだったナイフを捻るように抜いてから、野盗Bに近づく。

野盗Bは悠長にも四つん這いで起き上がろうとしているので、思い切り蹴り飛ばしてみた。

骨が折れる感触と音を愉しみながら、次は誰にしようか観察する。


「逃げようとしたやつを最優先で潰す。」


とりあえず言っておく。

数人びくりとしたようだ、そいつらには要注意だな。

良いことを思いついた。

ナイフを捨て、物理魔法を使った手刀で野盗Aの首を切り外す。


「サッカーしようぜ!ボールはこれな!……お前らの友達だろ?」


全員が武器を捨て命乞いを始めた。

これではつまらない。

とりあえず漏らしてる奴は後回しにして、土下座で命乞いをしている野盗Cの足を踏んで折る。

……まだ誰も逃げ出さないようだ。

全員殺すつもりだというのがまだ分かっていないのだろうか?

しょうがない、台車に戻ってこん棒を取り出す。


「野球とゴルフ、どっちが好き?あ、アイスホッケーは出来ないから勘弁な。」


そう言いながら座り込んで呆然としている野盗Dの頭をフルスイングした。

最近流行りのアッパースイングではなく、どれだけ練習してもゴロばかり量産した悲しい思い出のダウンスイングだ。

……一振りでこん棒の方が折れた。

びっくりした、悲しい。

結構気に入ってたのにな。

野盗は未だに動かないようだ。

せっかくなので落ちていた剣を拾う。

剣の実物など初めて見るが、思ったより軽かった。

野盗……E?に適当に振ってみる。

……いい音がして剣が折れた。

右の肩から肋骨を数本圧し折ったようだ。

皮膚は切ったかもしれないが、骨を圧し折る衝撃に剣が耐えられなかったのだろう。

普通に寿命の可能性もあるけど。

こういうやつらって武器の整備しないイメージだよね。

……完全に飽きてしまった。

そこからはただの作業、一人づつ手刀で心臓辺りを一突きし、首を切り落とす。

逃げようとしたやつは、わざわざダッシュで正面に回り込んで殺す。

……剣より物理魔法を使った手刀の方がよく切れるってどういうことだよ。

いや、剣が悪いのではなく剣の使い方が悪いのだろう。

普通に力任せだったし、刃を立てるようにとか今思いついたわ。


全員にキッチリ止めを差して、首を並べた。


「……ここまでやっても全然心に響かないな。」


善良に生きてきたつもりだった。

もちろん純真無垢とまで言うつもりはないが一般的には真面目で善良な人だと言って貰える様に生きてきたけど……。


「いろいろとストレスも多かったからなぁ。人をぶっ殺してやりたいと思っても出来なかったし。この世界に来て、力を手に入れて、躊躇なく殺したいと思える人間を殺せる……、闇落ちしそうだ。」


辺りには血の臭いが漂っていて正直臭い。

この辺りで休む気にはなれず、台車を引いてそのまま歩き出すのであった。

死体をそのまま放置して……。

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