第23話 私はニート。私の名前はニートです。

経験値を得るためには魔石を集め壊すしかない。

ただモンスターを倒すだけでは経験値を得られないというのは、少しめんどくさいが仕方ない。

倒した魔物が消えて魔石が落ちるので、いちいち拾わないければならない。

拾うだけだと片手が何も握れなくなるので、袋に入れたいところでもある。

何羽のウサギを倒したのだろうか?

最後には倒したウサギの魔石を袋でキャッチできるくらいには極まっていた。

さすが器用さだぜ。

……エルフさん?

呆然としてるね。

そういえば、複数匹が相手だったから流石に何度か突進を受けたけど、全然効かなかったよ。

筋力は物理防御にも影響があるのかもしれない。

戦闘には筋力。

生活には器用さ。

そして大事な体力。

この三つを上げた私は大正解だったかもしれない。

認識力と知力?

知力は今のところ役に立ったのか分からないけど、認識力は結構いい働きをしている気がする。

なんとなくウサギがどう動こうとしているのかが分かるのだ……視界の範囲に捉えているやつだけだけど。

そんなことを考えながら、なんとなくエルフさんの隣に移動する。

袋にいくつ魔石があるかな?

結構狩ったと思うけど……26個か。

意外と少ないな。

全部割ったら経験値が1%から27%になった。

一羽当たり1%か。

外のウサギと違って、ダンジョンのウサギは経験値が多いのかな?

隣のエルフさんは魔石を握り潰すように壊すたびにビクビクしていた。

可愛い。

女の子を遊園地のお化け屋敷に連れて行く知り合いの気持ちが少しわかった気がした。

彼女持ちは敵だとクリスマスのタコパに呼ばなくてごめんよ……彼女とデートに行ったらしいけど、けっ!

あまり怖がらせるのもあれなので、一声かけてもう少し狩りを続けよう。


「もう少し奥まで行ってみるけど、どうする?」


帰ってもええんやで。


「しょ……そうですか。い、一応ついて行かせていただきましゅ。」


仮面外してる、可愛い。

ついてくるのか……。

根が真面目なんだろうなぁ~。

特に何も言わず奥……ここ草原だけど奥って表現でいいのか?

まぁ、入り口の反対側に進む。

そして戻る。

遠くからだと入り口の方向が分からなくなりそうだったからだ。

エルフちゃんは不思議そうな顔をしている。

というかこの入り口どうなってんだよ。

ドラえ〇んのど〇でもドアみたいな超不思議構造になってるぞ。

扉がないけど。

何なら横から入り口の後ろに回り込んだら入り口が見えなくなって、入り口があった場所を通って振り返れば入り口が現れたりする。

これは考えたら駄目な奴だろう。

エルフちゃんは入り口で遊んでいるアホを残念そうな目で見ている……。

これがカルチャーギャップという物か。

でもどうするかな?

幸い平原なので見通しは悪くない。

木々も高い物は全然生えていないし、不自然なまでに勾配もないようだ。

遠くからでも見えそうな高い構造物があれば一番いいのだが……。

よしっ!


「奥に進むのはやめてダンジョン周りを整地しようか。」


エルフちゃんは凄く不思議そうな顔をしていた。




とりあえず一旦荷物の場所に戻った。

近くに良い感じの石がなかったため、いつも木を伐るために使っている石を取りに来たのだ。

ついでに水も飲み、すべての荷物を持ってダンジョンへと戻る。

エルフちゃんはここに残って夕食の準備をしてもいいんだよ?

狩りに行って来たら?

……ついてくるようだ。

ダンジョンへと戻り、ダンジョンの外、洞窟周りにある木を片っ端から切り倒し、ダンジョン内へ運び入れる。

切り株は……まぁ、放置でいいだろ。

結構な数ダンジョン内に木を運び入れたところで一旦休憩とする。

陽が沈んできたからだ。

そろそろ焚き火の準備をしておいた方がいいだろう。

エルフちゃんが何かに気づいたのか、キョロキョロしている。

火を起こし、お肉の準備をしていると、誰か来たようだ。


「狼煙を見てきたがどんな状況だ?何があった?」


非常にまずい。

イケメン女神エルフ隊長が来てしまったようだ。

エルフちゃんは涙目で、希望を見つけたような顔をしている……。

ここはあらぬ誤解を生まないようにすぐに答えるべきだろう。


「ダンジョンを見つけました。」


これさえ言っていれば最低でも狼煙を上げた理由は伝わるだろう。


「そうか。……ところでなぜソフィーナは涙目なんだ?何かしたのか?」


……小声で聞いてくるが何と答えればいいのだろう?

疑われていないことを喜ぶべきなのだろうが、『この子ってば生活力が壊滅的で~、この時間なのに今夜の晩御飯とか一切準備できてないんですよね~。』とでも言えばいいのだろうか?

言ったが。

非常に遠回しに、誰も傷つかないように、これまでのことを冒険譚として言葉を選んで話したが……。

完全に把握されたようだ。

少し顔を背けて、必死に笑い声をあげないように我慢しているのが分かる。

目をそらして『エルフちゃんはソフィーナって名前なんだね。』とか考えていた。


「とにかくダンジョンを見つけたのだな。周りの整備も助かる。」


木材が欲しくてやったが、良かったみたいだ。

そういえばダンジョンは出来るだけ潰すっぽいから、大勢でここの攻略をするのかもしれない。


「伐った木はダンジョン内に運んでいます。加工どころか枝払いも一切できてません。」


せっかくだからダンジョンで出来るだけ経験値を稼ごうと思ったけど、時間に余裕あるかな?

大量のエルフさんに囲まれるとか今のところ恐怖なんだけどなぁ。


「何かに使う予定だったのか?」


イケメン女神エルフ隊長が聞いてきたので、ダンジョン内について軽く説明する。

ある程度の高さのある建造物、イメージしたのは見張り台。

そんな感じのものを作ろうと思っていたけど、普通に考えて個人で作るのは難しいよな。

多少木が太くても普通に持ち上げられるようになったから、テンションが上がって気づかなかった。

もしかしたら初めてのダンジョンに興奮していたのかもしれない。


「そうか、確かにダンジョン内で出入口を見失う可能性はあるな。」


少し苦笑しながら同意して貰えた。

もしかしたらエルフの方向感覚だと見失うことはないのかもしれない。

とりあえず言っておいた方が良さそうなことは言ったし、晩御飯の用意をするかな?

残りがほとんどなくなった生肉を見て悲しい気持ちになる。

元々長持ちしそうにないと判断して、ほとんどを干し肉にしてしまったが、生肉を焼いて食べた方が圧倒的に美味しいのだ。

塩も手に入りそうな雰囲気がある。

肉をどこかで手に入れなければ……。

今日で生肉は全部焼いてしまって、明日からは干し肉で凌ごう。

少し離れたところでイケメン女神エルフ隊長とエルフちゃんが話している。

聞くのも悪いと思い肉を焼くことに集中する。


……完璧だ。

まだ食べていないのに確信している。

火加減も、焼き時間も完璧。

これで美味しくないわけがない。

海水の入った皿を昨日と同じように火の近くにセットして……。

さて、食べるか。


「あそこまでは真似しなくていいからな。」


「そうなんですか?」


近くでエルフたちが何か言っているが、肉の誘惑の前には無力。

まずは一口。

……旨い。

手が止まらない旨さとはこういう肉のことをいうのだろうか?

脂っこすぎるのは少し食べただけで胃が受け付けなくなるけど、ほどよく脂の乗った肉はマジで食べ終わるまで手が止まらなくなる。

くっ、気づいたらもう半分以上食べていたのか……。


「……本当にお前は……。いざというときに食べられる野草とかの知識も付けないといけないな。」


「ここ二日で嫌というほど思い知らされました……。」


……え?

エルフなのに野草の知識もなかったの?

勝手なイメージだけどエルフって野菜ばっかり食べていて、草に関する知識が豊富だと思ってた。

偏見による思い込みはよくないな。

正直野草に関する知識とか私も持ってないけど。

素人がキノコを食べるのは危険ということしか知らないや。

まぁ、肉と魚があれば満足できるけど。

でも米とか麦は欲しいなぁ……。

白米、麺類、粉ものは生涯のベストフレンドだと思い続けていたから、しばらく食べられないとなると精神的にキツイなぁ……。

あ、エルフちゃんがイケメン女神エルフ隊長から干し肉を分けて貰ってる。

食べ終わったし、今夜は何しようかな?

塩を見ないといけないから遠くには行けないけど、作るものも特にないんだよな。

海水はちゃんと蒸発し始めているようだ。


「ちょっといいか?」


イケメン女神エルフ隊長がこっちに来た。

いい加減長いなこの名前。


「なんですか?」


事情聴取だろうか?

出来るだけエルフちゃんとは関わらないよう、精一杯の努力はしたつもりだが……。


「ソフィーナが『こん棒を振り回してラビットを殺戮し回っていた』と言っていたんだが……。」


「殺戮というほどは倒していません、少し倒しただけです。貰った魔石でレベルアップしたおかげで少し強くなれまして、ラビット程度なら問題なく倒せるようになりました。」


ウサギ26羽って多いのかな?

ゲーム的にはエンカウントさえすれば10分もかからないでもっと倒せると思うし……。

出来るだけ正直に話してもいいよね?

隊長エルフさんのおかげで一気にレベルが上がったんだし。


「そうか……。ここに来る前はなにか武道の経験があるのか?」


ぶどう?

あぁ、武道ね。

……授業で剣道があったけど、一度も出席しないまま転校したんだよな……。


「全く無いですよ。」


スポーツはサッカーに軟式野球、バスケやゴルフ、卓球にテニスといろいろやってみたけど、武道はなぁ……。

球技が面白かったから興味がわかなかったんだよね。


「そうなのか。」


隊長エルフさんはなぜか首を傾げている。

何かおかしなことでもあるのだろうか?

そういえば魔物とはいえ動物を殺すのに全く迷いがなくなったなぁ。

あそこまで殺意むき出しで襲ってきたら普通の様な気もするけど、順応が早いのかな?

人間の国に行かないと決められないけど、今の様な生活が続くなら元の世界には戻りたくないなぁ。

人間の国がクソみたいだったら森の中でひっそりと野生化して生き延びるんだい。


「そういえば名前を聞いてもいいか?私はソフィーアだ。一応エルフの国では10番隊の隊長をしている。」


……嫌な質問来たなぁ。

どうしよう?

本名で答えたくないんだよな。

だからといって適当に偽名を名乗るとしても自分のネーミングセンスのなさは自覚している。

ソフィーアさんってことは横文字の名前なんだよな?

じっと見られると焦るからやめて欲しい。


「ニートです。」


咄嗟に名前が思いつかなかったんだ。

だって職業ニートだったし……。

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