第24話 魔法が使いたかったんだ……

ニートとは、仕事をする気がない人のことを指す言葉だ。

出来ないのではなく、やる気がそもそも全くないのだ。

つまり私はニート。


「ニートか。よろしく頼む。」


そんなことを考えながらイケメン女神エルフ隊長こと、ソフィーアさんと握手する。

手を差し出されたら受けるしかないよね?

怖いし。

よろしくって何だろう?

嫌な予感しかしない。

そういえばソフィーアとソフィーナって似てるよね?

娘さんかな?

いや、エルフはめっちゃ長生きなのがテンプレだ。

この見た目でおばあちゃんの可能性もある。

言ったら殺意を向けられそうだから言わないけど。

そういえば10番隊ってことは軍隊があるのかな?

エルフの軍隊とか怖いわぁ。

でもソフィーアさんが隊長ってことは、流石にここまで強い人は少ないのかな?

10番隊ってことは少なくともあと9人はいそうだけど……。


「ソフィーアさんが来てエルフの方々も来るということは私はもう行った方がいいですよね?失礼しまーす。」


めっちゃ早口で話し、この場を離脱しようとする。


「まぁ、待て。」


襟首掴むのは駄目なの~。

動けなくなっちゃう~。

……マジで一着しかないこの服がちぎれそうだから抵抗できない。


「確かに人間に対してうるさく言うエルフもいるが私が黙らせる。もう少し協力して欲しい。」


そんな『黙らせる』なんて無責任に軽く言っちゃだめですよ。

言うやつは見ていないときに囲んで逃げ場をなくしたうえで言ってくるんですから。

今エルフちゃんレベルのやつに言われたら、たぶん全力でぶん殴るけど……。

全力を出すために筋力上げておこうかな~?

この感じなら人間の国に着くころにはレベル上がりそうだし、残ってるSPは使っちゃっていい気がするんだよな。

いいや、上げちゃえ。

____________


Lv.9(27%)

・HP(体力):20/20

・MP(魔力):10/10

・STR(筋力):24

・MAG(超感覚):10

・SEN(器用さ):20

・COG(認識力):15

・INT(知力):15

・LUC(運):10

SP.0


スキル

・ステータス割り振り

____________


「聞いてるか?」


やばい、全く聞いていなかった。


「すみません。聞いていませんでした。」


こういう時、普段ならちゃんと聞いてますよアピールするんだけどね。

エルフ隊長相手だと素直に言わない方が怖いから。

やっぱある程度の恐怖を相手に与えることって大事だよね。


「私の隊の隊員含め、他に2つはエルフの隊が来ると思うから、それまでにもう少し広い範囲で周りの整備と、ダンジョン内出入り口付近の拠点作りに手を貸して欲しい。」


……言いたいことは分かったが具体的には何をすればいいのだろう?

周りの整備はこれまで通り木を伐るだけで、その範囲を少し広げるだけだろう。

ダンジョン内に拠点を作る?

本職の方に任せた方がいいのではないだろうか?


「周りの整備ならお手伝い出来そうですが、拠点作りは私には難しいと思います。」


工具一式に手伝ってくれる人員がいればいけるかもしれないが、石しかないのだ。

石で叩き割る・削る、の二つだけで台車を作れた方が奇跡なのだ。


「中に木を入れたってことは高さのあるものを作る予定だったのだろう?その上に見張り台を設置してくれるだけでいいのだが……出来ないか?」


……困ったことに、流石に時間は結構かかると思うが、今の器用さでも十分出来そうだ。

木組みになるので加工に時間がかかると思うが、木材の量も有り余るくらいだ。


「難しいと思います。本職の方なら道具さえあれば可能でしょうけど、私は素人なので……。高さを出すだけなら簡単ですが、見張り台を設置するとなると安全性の確保が出来ません。」


それらしい言い訳で断ることにする。

理由はもちろん面倒くさいからだ。


「そうか……。」


なんかすごい疑いの目で見られているけど気にしない。

こういう時、照れた反応でもした方がいいのだろうか?


「とりあえず周りの整備は手伝いますよ。もう少し周りの木を伐ればいいんですよね?」


「いや。木は私が斬るから、私が斬った木を中に運び込んでくれ。今から出来るか?」


「分かりました。もんだいありません。」


力仕事か。

相手の力量が分からない場合は単純作業ごとに分けた方が効率が良かったりするもんね。


こうして始まった周囲の木の伐採作業。

エルフさん片手剣で木の低いとこをバッサリ斬るんだよ。

それもなかなかのペースで。

エルフさんは3分くらいで木を伐り終えて、中に運び入れるのを手伝ってくれた。

普通に運搬間に合わなかったから……。

そういえば切り株はどうするんだろう?

聞いてみたら放置でいいそうだ。

『ダンジョンがどれほど深いかは分からないが、ダンジョン攻略が終わるまでに木が育ちきることもないだろう』とのことだ。

木を伐り、運び終えたのでダンジョン内で本格的に枝払いをする。

普通は枝払いをしてから運ぶのだが、筋力が高いため枝払いなどしなくても普通に運べたのだ。

ダンジョン内には晴天が広がっており、時間感覚が完全に狂ってしまいそうだ。

若干筋力でゴリ押しながら、無心で石を使い木の幹から枝を落としていく。

ソフィーアさんやここまで戦力外だったエルフちゃんも手伝ってくれたので、感覚的には2時間もかからないで終えることが出来た。


「手伝ってくれて助かった。報酬はどうする?」


……急に聞かれても困る。

そもそも相場とか知らないし、何と答えればいいのだろうか?

あ、そういえば……


「掛かった時間に割り合う通貨とかでいいんじゃないですか?」


そう、お金のことを全く知らないのだ。

一応人間の国に着くまでに常識的なことの一つくらいは知っておきたい。


「通貨でいいのなら別に構わないが……エルフの国の通貨は人間の国と比べると価値が高すぎて換金しにくいぞ?いろいろと目をつけられるしな。」


そうなのか……。

近くにいたエルフちゃんも驚いている。

知らなかったみたいだ。

それにしても国ごとに通貨の価値が違うのか。

硬貨に含まれる金の割合とかかな?

さすがに為替レートとかじゃないよな?

もしかしたら人間の国も政策失敗でジンバブエドルみたいなことが起きているのかもしれない。

だが困った。

報酬……食事とかかな?

干し肉があるから別にいいか。

あ、そうだ。


「魔法ってどうすれば使えるようになるんですか?」


せっかくだし情報を聞いておこう。

欲しい物といえば新しく武器が欲しいが、少しの労働で得られるものではないだろうし。

魔法について聞けたらそれで十分だろう。


「魔法か?生まれつき使える場合がほとんどだが、それ以外はスキルオーブで覚えないと使えないぞ?」


……モンスターを駆逐しなければならない時が来たようだ。

スキルオーブを落とすまでダンジョンでモンスターガチャをする日が来るとはな。


「ちょっと奥まで行ってモンスター根絶やしにしてきますね。」


今宵のこん棒は血に飢えておる。


「いや……今日は流石に休むべきだろう。明日の朝からにしたほうがいいぞ。私も付き合うから、な?」


エルフちゃんが震え、隊長も少し驚いているようだ。

殺気でも漏れたのかな?

いけないいけない☆


「そうですね。ではそろそろ休もうと思います。」


流石にダンジョンの中で寝る勇気はない。

『気づいたらウサギが目の前に湧いていた』みたいなことが起きるのか分からないからだ。

というか寝るには少し明るいし。

昔は完全に真っ暗にならないと寝れなかったけど、最近は普通に寝れる様になったんだよなぁ。

ゲームで徹夜して朝から寝るとか普通だったし。


そんなことを思いながらダンジョン外の焚き火のそばで眠るのだった。

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