第22話 ダンジョン
少しどころか三分の一のお肉を持っていかれて深い悲しみを背負った次の日。
何事もなく、順調に進んでいた。
変わったことといえば、エルフさんの態度と台車の重さだけだろう。
海水の入った蓋つきのバケツを乗せたので重くなるのはしょうがない。
皿に残った海水は別の容器に入れたが、皿にはなんと白いものが!
塩かと思って棒ですこし取り舐めてみたが、すこし塩気のある何かだった。
そういえば石こうの成分がでるとか聞いた様な?
知力もっと頑張れよ!
器用さは毎日毎日めちゃくちゃ役に立ってるぞ!
エルフの態度?
なんというか、非常におとなしくなったよ。
偉そうとは違うけど高圧的に接してきたのが、普通にたどたどしい距離感になった感じ。
どこか『困ったときは相談しよう』と考えている節があるので、もう少し距離を取って接していきたい。
とにかく順調に進めていたのだ……ダンジョンを見つけてしまう前までは……。
きっかけはウサギだった。
あのデカい魔物化したウサギだ。
森を出てからずっと見ていなかったので、この辺にはいないのだろうと思っていたが、普通に襲ってきたのだ。
もちろん私より先にエルフさんが見つけて、なんか凄く無駄に時間をかけて倒したよ?
私もこれでエルフさんの食糧問題が解決すると思って祝福してたよ?ホントだよ?
問題はウサギの死体が魔石だけを落として溶けるように消えたことだった。
つまりエルフさんの食糧問題は継続中だね☆
お肉が消えて凄い絶望的な顔をしたエルフさんだったけど、この現象を知っていたみたいで
「この近くにダンジョンが出来ているかもしれない。」
ってすぐに切り替えて真顔で言ってきた。
「へ~。」
って答えた。
会話が終わった。
だって死体が消えて肉の解体がないならさっさと進もうと思ってたから……。
『ダンジョン』という言葉に少し心惹かれるが、出来るだけ早く人間の国に着きたいのである。
「すまないがダンジョンを見つけた場合、すぐに報告するのが決まりなのだ。数日はここで移動を待って欲しい。」
「一人で進みますよ?」
職業病なのか急にキリッとした顔と言葉遣いで話しかけてきたが、今の私に待つという選択肢は無い。
エルフさんが止まるのなら、私は遠慮などせずどんどん先に進むのだ。
エルフさんがどんどん進んでいくのなら、ゆっくりと進むんだけど……。
私の中で、既にこのエルフさんは『画面の向こう側の存在であって欲しい』と思うレベルなのだ。
「ダンジョンの周りはモンスターが活性化している可能性がある。一人で先に行かせるわけにはいかない。」
……そうなのか。
でも今から報告に戻って、人を連れて戻って来るだけでも数日かかるんだよね?
エルフさんと一対一でもめんどくさいのに、来るとしたら複数人は来るよね?
めんどくさいことになりそうな予感しかしないからお断りなんだけど……。
「今から狼煙を上げる。狼煙を見た仲間が遅くとも2・3日以内には来ると思うからそれまでは待ってくれ。」
呼びに行くわけじゃないのか。
エルフさんは持ってきた袋をゴソゴソして何かを探している。
なにか特殊な狼煙なのだろうか?
にしても困ったな、この感じだとエルフさんから逃げられそうにない。
とりあえず狼煙の準備をしているエルフさんにダンジョンについて聞いてみよう。
何か丸い物を取り出したエルフさん曰く、ダンジョンとは
・突如出現する。
・出現すると周囲の生物が活性化されモンスター化しやすく、モンスターも活性化され進化しやすい。
・破壊するにはダンジョン最奥にある地脈の流れを変えなければいけない。
・ダンジョンはモンスターを生み出す
・ダンジョンで生まれたモンスターを倒したとき、モンスターは確実に魔石を落として消え、極たまにスキルオーブを落とす。
「スキルオーブって?」
「スキルオーブを知らないのか?まぁ、滅多に落ちないし高いから知らない者がいても不思議ではないか。スキルオーブは魔石と似たようなものだが、壊したときに経験値ではなくスキルを取得できるんだ。」
何それ欲しい。
「基本的に落としたモンスターの持っていたスキルがスキルオーブとして落ちるということは聞いたことがあるが、これほど近い場所にダンジョンが発生するのは初めてなんだ。」
そう言いながら取り出した丸い物に付いていた紐を勢いよく引っ張った。
ジュー!という音とともに勢いよく黄色の煙が出ている。
エルフの狼煙ってハイテクなんだな。
焚き火に入れて使うのかと思ってた。
なんか随分キリッとしてるから、火をつけられずオロオロするところが見たかったのに……。
それにしてもダンジョンか、魔石を落とすだけならレベルを上げるのにちょうどいいし、スキルオーブも手に入るかもしれない。
これは行くしかないのでは?
「ダンジョンの特徴って分かるのか?」
「入ればすぐに分かる場合が多いとしか聞いたことが無い。極端な例として聞いたのは、木の洞に入ったら遠くに大きな火山があったんだとか……。」
洞って穴のことだよな?
木の中に火山が広がってたら、まず夢かと疑うよな。
この世界ではダンジョンかと疑うべきなのかもしれない。
「今日はここで野宿するのか?それとも周囲にダンジョンがないか探すか?」
出来れば荷物を置いて探しに行きたい。
狼煙を上げたからには、ここから動かない可能性の方が高いだろう。
「そうだな。ここを拠点にして、少し周囲を探索しよう。」
やったぜ!
ダンジョン楽しみだなぁ。
入ってすぐに強いモンスターとかトラップがなければいいけど……。
そういえば、あのウサギってダンジョンから出てきたんだよな?
ダンジョンからモンスターが出てくるって普通なのかな?
エルフさんに聞いてみる。
「…………。」
知らないようだ。
考え込んでしまった。
いざというときに逃げれるように、袋とナイフだけは常に持ち歩くことにしよう。
持っているもので取り返しがつかないのはこの二つだけなんだよな。
とりあえず台車から袋を取り出し……焚き火の準備はやめておこう。
愉しみがある方がいいからね。
……特にこれといってやることが無いな。
周囲を見て回るか。
「少し周りを見てくる。」
あえて武器にいつもの棒ではなくこん棒を持ち、エルフさんに告げる。
「私も一緒に行こう。」
……そうですか。
エルフさんを先に行かせ、後ろについて歩く。
いや、索敵出来てちゃんと武器持ってる人の方が安全だからね?
周りには普通に木が生えているが、見通しはそこまで悪くない。
一応周りを見ながらついていっているが、警戒より観察をした方が気が楽だろう。
30分ほど歩いたところで、洞窟を発見した。
ダンジョンかもしれない。
エルフさんが少し緊張しているようだ。
モンスターが出てくる気配はないので、エルフさんのことなど一切気にせずに洞窟に近づいた。
中を覗いてみると、草原が広がっていた。
うわぁ……。
凄く広そうだ。
見渡した感じ、ウサギが結構いた。
こん棒にしておいてよかった。
ちゃんと肉を確保するとき、こん棒でウサギが倒せるか試したのだ。
筋力のステータスが上がったおかげか、棒で刺すより圧倒的に楽に倒せた。
ある程度の力で頭を狙って叩いたが少しズレて首に当たり、そのまま死んだのだ。
さっきウサギに襲われたので、ウサギ用にこん棒を持ってきてよかった。
初めて会ったときあんなに苦労したウサギが、今じゃ経験値にしか見えない。
罠の可能性など完全に頭からなくし、こん棒を掲げ、ウサギに向かって突撃を敢行するのだった。
……エルフさん?
なんか言ってたが無視したよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます