第21話 完全敗北

数時間かけて木をくり抜いて樽を作り、鍋は難しそうなのでフライパンの様な皿を作った。

流石に徹夜明けから歩き続けるのは無理なので少しでも寝ておこうと思ったが、エルフさんは一度も起きてこなかった。

大丈夫かこいつ?

普通野宿だと夜は交代で見張りをするものだと思っていたけど……。

しょうがないので眠ることは諦め、二つ目の樽を作ることにする。

最悪、エルフさんは水の用意もない可能性があるからなぁ……。

流石に二つ目の樽が完成する前に朝日が昇った。

完成した樽も作りかけのものも使えそうな木も、出来るだけ台車に乗せていく。

まだ若いし、一日くらいなら大丈夫だろ……。


「眠らなかったのか?」


エルフさんが起きたようだ。


「おはようございます。準備したら行きましょう。」


さっき干し肉を少し食べ、水もちゃんと飲んだので、こっちはいつでも出発できるのだ。


「……分かった。」


エルフさんは何か言いたげだったが、何も言わずに準備を始めた。

と言っても、荷物はほとんど持っていないので準備に一分もかからなかったが。

海以外水辺がないと顔も洗えないよね。




歩き始めて3時間、一人ならそろそろ一旦休憩を入れるところだ。

徹夜明けで体力が回復していないうえ、荷物が非常に重いからしょうがないのだ。

休憩することを伝えると、エルフさんは『そうか。』とだけ言ってそのまま行ってしまった。

あまりにもそっけない態度に見限られたように思えるが、たぶん獲物を探しに行ったのだろう。

朝から何も食べてないし。

干し肉が旨い。

水も体に染み渡るようだ。

木に体を預けていると眠気が襲ってくる。

一人ならこのまま寝ちゃうんだけどなぁ……。

まぁ、寝たけど。


一時間程経ったのだろうか?

物音がして少し目を覚ます。

エルフさんが来たようだ。

手には……鳥かな?

まぁ、お肉を持っている。

あ、目が合った。

なんとなく目を閉じたい気分になって来たなぁ~


「頼みがあるのだが……。」


チラチラと台車の方を見ていたので何かを貸して欲しいのかもしれない。


「なんですか?」


きっと今の自分はとてもキレイな笑みを浮かべているのだろう。

上から目線で駄目な子を優しく見守る聖母の様な表情と言っても……それは流石に過言だ。


「台車にある大きめの石を貸してくれないか?鶏肉を土の地面に置くわけにもいかなくてな。」


なんだ、その程度か。


「いいですよ。」


てっきり火を起こす薪や、火種を作るのに使っていた木の板も要求するのかと思ってしまった。

鳥は捌いているけど、今から火を起こして焼くの?

めっちゃ時間かからない?

エルフさんは大きめの石を嬉しそうに取り出している。

まな板代わりに使ってた石だ。

表面を綺麗に磨き上げた汗と汗と汗の結晶……なんか汚いからやめておこう。

そっかぁ。

あれ使われたら『先に行ってますね、石はその辺に捨てといてください』と言って全力で先行逃げ切りする計画が使えなくなるな。

まぁ、どうせ疲れてるんだし寝て待とう。

肉は置いたけど今から薪を集めに行くみたいだし……。




何時間経ったのだろうか?

陽は結構沈んでいて、時刻はすでに夕方のようだ。

エルフさんは……うわぁ……。

めちゃくちゃ真剣に火種を作ろうとしている。

確かきり揉み式だったかな?

両手で棒を包むように持って回転させて火を起こすやつ。

陽の高さから考えて5時間は経っているはずなのに……。

あ、目が合った。

凄く泣きそうな顔をしている。

ついでにお腹の音も聞こえた。

やばいな……。

目の前で干し肉を食べながら水が飲みたくなってきた。

やらないけど。

今日はもう進むのは諦めよう。


「……火起こし手伝おうか?」


「……お願いします。」


ホントに大丈夫かなこの先?

まぁ、とりあえず荷物の中から道具を取り出してサクッと火をつける。

エルフさんの目の前で。

エルフさんの目から『こんな簡単なことも出来なかったのか』という絶望と、『これでやっとご飯が食べられる』という希望が伝わって来た。

素直なところは魅力的なんだけどねぇ……。

仮面を外した顔は可愛かった。

どこか顔つきがイケメン女神隊長と似たところを感じるが、まだ幼さが非常に残る可愛い顔立ちだ。

親戚か何かかな?

とりあえず火が大きくなり焚き火が完成した。

あとは勝手に焼いて食べるだろう。


「ちょっと海まで行って海水を汲んでくる。」


返答を一切待たずに樽を持って海へと移動した。

私は朝昼食べて昼からずっと寝ていたので、まだお腹が空いていない。

せっかくなので海水を汲んで塩が作れないか試したい。

食に対する欲求は最大級のエネルギーなのだ。

満タンになったHPのステータスもきっとそう言っている。

砂浜だと車輪の台車では進みずらいので初めて海岸まで来たが、手前は浅いがその奥は急に深くなっていそうな海の色だった。

サーフィンとかに良さそう。

釣りもいけるんじゃないかな?

何が釣れるか知らないけど。

少しだけ水を口に含んでみる。

しょっぱい、海水で間違いないようだ。

樽に水は汲めたけど、少し砂が入ってしまった。

ろ過するための道具があればいいが、ペットボトルも竹もないので砂が沈殿してから上の方をコップで掬うしかないだろう。

というか、これ樽というよりは蓋を作ったバケツと言った方が正しいのでは?

……どっちでもいいか。

そういえば海藻とか……流石に無理か。

戻ろう。


戻ってみるとエルフさんが泣きながら食事をしていた。

なんか凄いお肉焦げてるけど、それ大丈夫なの?

きっとおいし過ぎて泣いているのだろう。

そう思うことにして何も言わずに海水を汲んだバケツを置き、コップにするための木材を探す。

水さえ掬えればいいので形にはこだわらないし、凄く焦げ臭いが気にしない。


「水……。」


エルフさんが何か言っている。

チラリと目線をやると、小さな水の塊が宙に浮いていた。

……驚き過ぎて二度見してしまった。

ただのへっぽこエルフかと思っていたが、魔法が使えるようだ。

魔法だよな?

エルフさんは手のひらに水を受け止め口に運んだ。

そりゃあ、あんな焦げ肉食べてたらなぁ……。

魔法はちゃんとあったのか。

夢が広がるなぁ~。


(人間の国に着いたら魔法について調べよう。)


そう心に誓った。

エルフさんは絶望の底にいるような目をしている。

これ大丈夫?

瞳孔とか開いてない?

……どうすることも出来ないのでそろそろ食事の準備を始める。

と言っても今日はまだ普通に肉を焼くだけだ。

ウサギ肉の切りやすい部位は干し肉にしたり既に食べているので、今日は残った肋骨周りの肉だ。


(これどうやって捌くのかな?骨付き肉って感じなら一本ずつ取り外す感じかな?背骨に沿って切り落とした方が手っ取り早いか。)


石の上に置いて石ごと焼こうと思い焚き火の方に近づく。


(……結構火力が強くないか?)


これはたぶん私が行った後に燃料ガンガン追加したな。

生活力壊滅系女子だろうか?

今の時代宅配も外食も手軽に出来るもんねシカタナイネ。

この世界に宅配サービスがあるのかは知らないが、外食くらいはあるだろう。

いや、そろそろちゃんとエルフさんと向き合って、考え直してみるべきかもしれない。

知り合いに『それくらい常識的に考えたらわかるだろ?』と言えるようなことを連発してやらかすやつがいた。

性格的には好ましかったが、非常に迷惑だった。

このエルフさんも、もしかしたらそういうタイプなのかもしれない。

……あまり深く関わらない方がいいのでは?

人間の国まで2・3週間もかかるらしいのに、出来るだけ他人のまま一緒に行動するとか出来るのか?

いや、出来るとか出来ないじゃないんだ。

やるしかないんだ!

ここで諦めて受け入れちゃったら、きっとめんどくさいことになる!!


「ぐぅ~うぅぅぅ。」


何だ今の音?

音のした方向を見るとエルフさんが顔を真っ赤にしていた。

聞かなかったことにしよう。

火もだいぶマシになり、石の上に骨付き肉を並べて石ごと焼き始める。

ついでに夜中に作った大きな皿の様なものに海水を入れて、直接火に当たらないように設置しておく。

上手くいかなければさらに穴が開いて水が抜けるだけだ。

上手くいけば塩が手に入る。

紙でいけるなら木でもいけるやろ精神だ。

肉はいい感じに焼けているのか、いい匂いがしてきたのでひっくり返しておく。

……エルフさんからの視線がヤバい。

結構炭になっていたとはいえ、さっき食べたでしょ?

お腹も鳴ってたしまだ食べ足りないのだろうか?

他のことを考えよう。

見た感じお皿は燃えておらず、中の海水の温度が上がったのか少し流れが出来ているようだ。

この感じだと塩ができるかもしれない。

塩を入れるための小さな箱も食べ終えたら作らないとな。

一人なら毎日の移動は程々にして、適度に作業したり休んだりできるのに……。

肉もいい感じに焼けたようだが、骨付き肉なので骨周りに火が通っているか心配だ。

とりあえず一口食べてみる。

旨い。

火もちゃんと通っているようだ。

焼き過ぎないように石ごと火から遠ざける。

さて……。


「…………少し、食べますか?」


「はい!」


食い気味に返答してきた。

視線の圧に勝てなかったんだ……。

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