第20話 エルフと二人きりの夜
エルフさんと二人きり、何も起きないはずもなく……。
暗くなる前にまずは火起こしだ。
エルフさんはキョロキョロしている。
器用さは本当にすごい。
火種を作るのに一分もかからなくなったおかげで、すぐに焚き火を起こすことが出来た。
エルフさんはどこに行ったんだろう?
トイレかな?
焚き火が出来たので食事の準備をする。
干し肉は作ったし味見もしたが、まだ出発してから三日目。
普通に残っている生の肉を焼いて食べればいいだろう。
落ちている木を少し太めの串に加工して、水で洗う。
肉を一口大に切り、串に刺していく。
いつの間にかエルフさんは戻ってきていたようだ。
こちらをじっと見ている。
正確には、こちらの手元にあるお肉の串をガン見している。
もしかして……、
「エルフさんは夕食の準備をしないのですか?」
まっさか~。
旅に出るのに食事のことを考えていないエルフとかおらんやろぉ~。
……。
あ、少し涙目になった。
武器を持ってるのに狩りに行かないってことは、この辺には獲物がいなかったのかな?
海は近くにあるけど、今から釣りをするのも大変だろう。
これは少し分けるべきかな?
「今から肉を焼くんですけど……食べます?」
「あぁ……頼む。」
これから長い間お世話になるのだ。
少しくらいはいい関係を築いていきたい。
でも、旅に出るのに食事のとこを考えていないって大丈夫だろうか?
もしかしたら探りを入れるためではなく、経験を積ませるために自分と同行させるんじゃ……?
正直不安になって来た。
とりあえずお肉を焼いていく。
最近は臭いでなんとなく焼き加減がどれくらいか分かるようになってきたんだよなぁ。
一口大のお肉なので、しっかり中まで火を通しても焼けるのにそこまで時間はかからない。
四本焼いたうち、二本をエルフさんに渡す。
「ありがとう。」
それにしても不安だ。
このエルフさん、旅に出るのに武器以外の荷物が袋一つなのだ。
下着くらいはあるかもしれないが、着替えはないだろう。
剣や弓の手入れをする道具はちゃんと持っているのだろうか?
聞きたい気持ちはあるが、よく見たらエルフさんは女性っぽいので何も聞かなかった。
女性の手荷物について聞くとか~、デリカシーないよね~。
今日の肉も味は薄いけど旨いなぁ。
そういえば海が近いんだから塩も手に入るんじゃないか?
いや、鍋も無いし時間が掛かり過ぎる気がする。
『海水を蒸発させれば塩が出来るんじゃね?』とか簡単に言えるのは道具がすぐに手に入るからこそなのだ。
でも待てよ……?
紙鍋ってあったよな?
確か紙に水を入れて火にかけた場合、水の温度が100℃までしか上がらないから、300℃まで火がつかない紙は、火に直接当たっていても水によって冷やされて、燃えることがないとか言う面白実験のやつ。
それなら木の鍋とかでもいいんじゃないか?
表面は多少燃えるかもしれないけど、いける気がする。
夜は暇だし鍋を作ってみようかな?
水漏れだけが心配なので密度のある木を探してみる。
ついでに海水を汲むためのバケツになりそうな木もないか探してみる。
木を伐るのが一番手っ取り早いが、エルフさん的に木を伐るのは大丈夫なのだろうか?
「どうかしたか?」
そんなことを考えているとエルフさんの方から話しかけてきた。
「いろいろ道具が欲しくて木を切ろうかと思ってたんだけど、エルフ的に切ったらダメな木とかあります?出来るだけ密度が高い方が望ましいんですけど。」
「同じ場所の木を大量に伐採するのでなければ特に問題はないぞ。昔は生きている木は伐らない習慣があったらしいが、ドワーフと手を組んですぐにその習慣はなくなったと言っていたが良く知ってるな。密度のある木といえば……あの木はどうだ?」
……エルフとドワーフが手を組んだ?
人間はいないのに?
これ人間対多種族とか言わないよね?
……気にしないでおこう。
とりあえず斧として使えそうな石を持ってエルフさんが示した木を伐ることにする。
「まだ眠らないのか?」
唐突にエルフさんが聞いてきた。
「出来るだけ静かに作業しますから、先に眠っていてもいいですよ。」
そういえばゴリゴリ大きな音を出したら迷惑になるんだよな。
でももう木は切っちゃったし……。
静かに慎重に。
とりあえず海水を入れる樽から作っていくか……。
眠れない夜になりそうだぜ。
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