第12話 親切なエルフに起こされたよ
「さて、色々考えても仕方ないし、寝る準備でもするか。」
と言ってもベッドも毛布も何もないどころか、この付近ではスライムしか見ていないとはいえ、モンスターがいる場所で一人野宿である。
「座って寝るしかないけど、さすがに石の上に座ったまま寝るとお尻が痛くなりそうだな。」
座るのにちょうど良さそうな太めの木を置いて軽く押したくらいでは転がらないように石で止める。
背もたれも欲しいので木を石で半分に割り、表面を石で磨くように削る。
川辺で水の流れる音がするとはいえ、木を割る際の石に石をぶつける音は非常によく響いた。
「座った状態で寝れるかなぁ?枕が変わるどころじゃない変化だし、寝つきはそんなに良くないんだよね。」
30分後には座った状態でウトウトしだし、すぐに寝た。
「……起きろ。……おい起きろ!」
(うるさいなぁ……。)
誰かに起こされた。
それほど時間は経っていないのか、辺りはまだ真っ暗のようだ。
「というか誰だ?金目のものは一切持ってないから他所を当たってくれよ。」
「私は賊ではない。こんな森の中で堂々と熟睡しているアホに聞きたいことがあるだけだ。」
いきなり賊と勘違いしたのはこちらだが、随分と失礼な言いぐさである。
とりあえず灯りをともそうと、焚き火跡に適当に木でも突っ込もうと思ったときに気づく。
(何で灯りも一切なくて真っ暗なのに木とか見えてるんだ?ガンマ値上げた?)
ゲームで夜、何も見えないからガンマ値を上げたときのように、補正が掛かったように周りが見えるのだ。
気にはなるが、とりあえず焚き火に木を突っ込みながら聞いてみる。
「それで、聞きたいことって?」
なんだろう?大抵の質問に「分からない。」と答える自信があるぞ。
「最近ここから少し離れた集落から『付近に中型のモンスターが現れるようになった』と連絡が来た。この付近で、何かそれらしいモノや痕跡を見なかったか?」
……普通に大事な質問だった。
「いや、見てないよ。スライムとウサギ以外は、モンスターどころか痕跡も見ていない。見つけていないだけの場合は申し訳ないけど……。」
痕跡ってなんだろう?足跡とか糞かな?
「そうか。ところでなぜこんなところに?」
一番答えづらい質問が来たな。適当に応えればいいか。
「迷った!」
堂々と胸を張って、はっきりと言い切った。
「嘘だな。」
秒でバレたが。
というか迷ったのも一応ほんとなんですけど~。
「この辺りに人間のいる集落はない。一番近い人間の集落からここまで迷い込むには、歩くだけでも二週間はかかるし、最低でも三日は危険領域を歩かねばならない。それも複数の仲間がいるのなら可能性によっては出来ないこともないと思うが、一人で碌な武器も持たず来るなんて不可能に近い。」
……いろいろ気になるワードがあった。
人間の集落って近くにないの?
危険領域ってなに?
「オッケー。初めから話すよ。実は……」
仲間と共に冒険していたら転移装置と思われるものによって飛ばされ、気づいたら森の中だった。……と笑いあり、涙ありの物語を適当に話した。
「そうだったのか……。すまない。本当に迷い込んだのだな。」
ちょろい。
「ところでその装置はどこにあったんだ?一応この辺り一帯はエルフの管轄なので、人が迷い込んでくるなら対処しなければならないのだが。」
「ジャパンという国にアリマシタ。」
国の名前とか考えてなかった。
「ジャパン……?聞いたことない国だな。もしかしたら別の大陸の国かもしれない。すまないが力にはなれそうにないな。」
めっちゃ親切な人だった。そういえばこの人エルフなのかな?エルフってヒトなのか?
「なんだかんだ楽しんでるから気にしないでいいよ。そういえば川沿いに下っていく予定だったけど、こっちに行った方がいいっていうのはある?」
エルフの集落に興味はあるが、人間がいないのならば行かない方がお互いの為だろう
。
人間が一人もいないって絶対過去に何かあったよね?
「川沿いに下っていけば二日か三日で海に着くと思うぞ。だいぶ遠くなるが、海岸線沿いを東に歩けば、三週間ほどでそこそこ大きい港町に着くはずだ。海岸線沿いなら危険領域を通るのも最短で済むはずだ。」
ありがたい情報だった。
「すまないが私はモンスターを見つける任務が最優先なので、そろそろ行かねばならない。」
「こっちのことは気にしないでくれ。いろいろと教えて貰えて助かったよ。」
エルフは森の中へと去って行った。
「いろいろと情報を貰えて本当に助かったな。この恩は忘れないようにしよう……名前も知らないけど。」
というかフルフェイスの兜?を付けてるので顔も見えなかった。
空は少し明るくなってきている。
グッと背伸びをして、二度寝を始めるのであった。
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