第五話
「まあとにかく、遊園地楽しみましょうということです。」
さんざん引っ張った挙句その一言で済ませてしまった。
一言で済ませてしまった口には先ほど買ったクレープのクリームが付いている。
「次はどこに行きましょうかね凸凹さん。あそこのジェットコースターとかも面白そうですねぇ」
遊園地に夢中な天使とは裏腹に俺は明後日の仕事についてもやもやと考えていた。
天使には会社なんてもう行かなくていいと言われたが、すぐに切り替えられるわけがなかった。
俺は昔から目の前にあるレールに沿って歩いてきたのだ。沿うどころかレールの中心からぴったりとすり足で。
壁があったとしてもレールに沿っていれば乗り越えられた。
それが一番楽だった。
それ以外は苦しかった。
ほかのところなんて見てもいなかった。
ただ最近は目の前のレールが見えなくなってきていた。
どうやって歩いていけばいいのかわからず俺は目の前にある壁を越えられずにいつまでも立ち尽くしていた。
だからほかの奴らに置いて行かれる。みんな壁なんて見ていなかった。
壁の先を見て、どこまでも遠くへ走り出していった。
どうやら俺はおいて行かれてしまったのかもしれない。
逃げ場はない。
仕事を休んだり、辞めたり、変えても、
趣味を見つけても、自分を責めて苦しむだろう。
原因はおれで、責任は俺で
人は人を幸せにするし、不幸にもする生き物だろうが
俺は自分を不幸にする生き物だった。
知っている
「いや」
「もう帰るよ」
天使が悲しげな顔をした。
「いいんですかそれで、”また”そうやって普段の生活に戻っていくんですね」
「ああ」
「どうしてもそこから抜け出すことはできませんか?」
「俺は普通のサラリーマンだから」
「フィクションみたいに非日常を選べないんだ」
ドアが閉じる
天使の姿がドアに隠れて見えなくなっていく
「わかりました。今日はこの辺にしておきます。最後に死ぬか死ないかは別として契約はまだ続いていますからね。連絡してくれればいつでもこうやって楽しいプランを提供いたしますから。」
「...」
「またラーメン食べに行きましょうね約束ですよ。」
ほんの少しだけうなずいた。
ほんの少しだけ生きる楽しみができた。
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