第8話 これからは

 目が覚めるとベッドの上だった。

 起き上がろうとすると体のあちこちが痛んで思わず呻いた。顔も何だかヒリヒリする。触ると擦り傷ができているようだった。

 いつもの見慣れた俺の部屋だ。俺は寝巻を着ていた。体も汚れていない。


 ……そうだ、メロ、メロは!?


 部屋の中にはいない。外に出ると控えていた使用人が俺は丸二日眠ったままだったと教えてくれた。

「メロはどうなったんだ、俺の世話係の……」

「そのことですが、目が覚めたら王の間に来るよう王からのご命令です。伝えましたからね」

 城内での俺の評判は無能の女ったらしで通っている。父上がブチ切れ、国外追放の話も耳に入っているんだろう、使用人はそっけなく去って行った。


 俺は手早く着替えると王の間に急いだ。メロの安否が知りたい。


「失礼します、お呼びでしょうか父上」


 王の間には父上がいつも通り悠然と座っていた。その顔から感情は読み取れず、俺はたじろいだ。父上と俺のほかには誰もいない。

「父上あの、メ……」

「ルイスよ、今回の国外追放は見送る。今までのことをよく反省し、これからは王族として恥じることのないよう努めるように」


 え?


 俺は馬鹿みたいにぽかんとした。

 俺は魔物を倒してないぞ? それなのにどうして。


「失礼します、メロリッサ・ラピスでございます」


 そのとき外から聞き覚えのある声がした。


「うむ。入りなさい」


 入ってきたのは……何とメロだった!


「メロ、お前無事だったのか、良かった……!」

 俺は国王の前だというのにメロに抱きついてしまった。メロ、生きてたのか、良かった……!

「ルイス様、助けていただきありがとうございました。このとおり、メロは元気です」

 メロは少し驚いたようだったが、俺の背にそっと手を添えてくれた。

 でもよくあんな怪我でここまで元気になったな。背中抉られてたのに。

「ルイス様、ルイス様に頂いた宝箱の中身が僕の傷を癒してくれたんです」

 メロが胸元から光り輝く球体を出した。


 えっ。これがあの、薄汚れた球体?


「うおっほん!」


 父上がわざとらしく咳をして、俺とメロは我に返ってぱっと離れた。


「ルイスよ、その球体は癒しの玉と言って、身につけている者の傷を徐々に癒してくれる貴重なアイテムなのだ」


 そうだったのか。だから身につけていたメロは助かったのか。そう、だったのか。ああ、本当に良かった。メロが生きているだけで良かった。


「ルイスよ。先日の嵐で西の洞窟に雷が落ち、洞窟は崩れ、魔物は死んだと思われる」

「えっ」

「運のいい奴だな。世話係を見捨てずに助けたことも考慮して、今回国外追放は見送りだ。だがまた不祥事を起こすことがあれば……」

 俺は顔を上げ、国王の目をまっすぐに見た。


「父上、俺はもう浮気とか、不祥事は起こしませんよ。俺には、メロがいればいい」



 俺は王の間を出て自分の部屋に入るなり、付いてきたメロと向き合い、メロの肩をがっしと掴んで言った。

「もう女はいい。これからは男同士、お前と、皆の信頼を取り戻すため頑張っていきたい。メロ、親友として、俺についてきてくれるか?」

 はい、もちろんですという即答を期待したんだけど、メロはなんだか躊躇するように口をもごもごさせている。

 え? 何その反応。し、親友とか重かった? そうだよな昨日の今日で、はははは。

「あ、いやついてきてくれというのは、その、これからも世話係としてだな……」


 メロが俺を見上げている。長い前髪からのぞく青い瞳。微かに頬が赤く、濡れた唇が艶っぽい。

 俺は両手でメロの前髪をかき分けた。柔らかい髪だ。そして、長いまつげと潤んだ大きな瞳。

 い、今までなんで気がつかなかったんだ。メ、メロは。

 

「どうしてお前、顔を前髪で隠しているんだ」

「も、もともと人と目を合わせるのが得意じゃなくて……」メロはおどおどと答える。


「前髪は切れ。……そのほうが、可愛い。お前は可愛い。なんで今まで黙ってたんだ」

「ル、ルイス様が最初お会いしたときそう思い込んでいらっしゃるようなので、言い出せなくて、男のフリをしました」


「もう、しなくていい。親友も撤回していいか」


 俺の顔はきっと真っ赤に違いない。


(完)

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崖っぷち第二王子の魔物退治 ふさふさしっぽ @69903

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