第41話 騎士団の問題児。

「お兄さーん。そんなことしたらケガするからダメだよー」


 パトラは腕を十字にクロスして騎士団の男の蹴りをガードし、自分から後ろへ飛んでいた。




「お前! うちの子に何するんだ! 大丈夫かパトラ?」


「パパー全然大丈夫だよー。不意打ち訓練ー? もう少し早くてもいいかも」


 パトラは気にもとめていないような感じだった。


 むしろ自然と挑発している。


 でもいきなり蹴りつけるなんて、騎士団とはいえやっていいことと悪いことがある。




「はぁ? こんなところに魔物を連れてきてるのが悪いんだろ。ここは武器屋だぞ。こいつら殺す物を買うための場所だ。ここにいるってことは試し切り用じゃないのか?」




「お前ふざけるなよ。そんな横暴が許されるわけがないだろ!」


「はぁ? お前ら俺を誰だと思ってるんだ?」




 その男は胸を張り、あたかも俺を知らない奴はいないと、自信満々に聞いてくるが、見たことがない。オーガ討伐にも来ていたか?




「さぁ?」


「知りません」


「暴漢ですかー?」


「幼女を蹴ることに快感を覚える変態ですね」




「なっ……!?」




 俺たち4人ともそれぞれ感想を言っただけが、なぜか固まってしまった。


 騎士団の格好をしてはいるが、先日あった団長でも、副団長でもない、その他大勢だろう。


 さすがに絡んだことがあれば覚えているが、騎士団だという理由だけでは、全員を把握することは難しい。




 その男は顔を真っ赤にしだしたかと思うと、急に騒ぎ出した。




「お前ら俺をバカにするのもいい加減にしろよ。次期王国騎士団の団長に一番近いと言われているミサエルだ。覚えておけ!」




「騎士団だか、団長に近いだか知らないけど、人の仲間をいきなり蹴り飛ばしていいわけないだろ。常識ってものを知らないのか。団長に近いんじゃなくて、クビに一番近い男の間違いじゃないのか?」


「うっせぇわ。店主はわかってくれるよな? こんなの魔物がウロウロしてたら、王都の武器屋としての質を下げるだろ。なぁ?」




 マッテオはいきなり自分に振られてビックリしたのか、慌てて首を横に振る。




「いやいや、ロックは王都に来てから、ずっとうちの常連で、それに魔物にも人にも優しい方ですよ。あなたこそなんですか? いきなり入って来て。騎士団の人とはいえ横暴は困ります。そもそも本当に騎士団の人なんですか? 私の知っている騎士団の人でそんなことする人は一人もいませんよ。もしかして……その鎧とか盗んだわけじゃないですよね?」




 マッテオさんは俺を庇ってくれるが、彼には言葉が通じていないようだ。


 自分が不利になるとわかると、急にマッテオさんを無視してシャノンへ話しかけはじめた。




「おい! そこの女、お前奴隷だろ? そんな男の言いなりになってるくらいなら、王国騎士である俺が守ってやるよ。お前だってそんな魔物男より、俺の方がいいだろ? エルフは長生きだって言うからな。多少ババアでもちゃんと相手してやるよ」




「今なんて言いました?」


 シャノンの言葉に力が入る。よっぽどババアと言われたことが癪に障ったようだ。


 俺だって年齢のことは触れていないのに。




「あぁババアが気にさわったのか? エルフなんて外に出てくるのはババアに決まってるだろ。細かいこと気にするババアだな。これだから年寄りは嫌なんだよ」




「違う! エルフを馬鹿にされたのは万死に値するけど、それ以上にロックさんを魔物男って言って馬鹿にしたでしょ! 表へ出なさい。言葉がわからない奴には、私が身体に躾をしてあげる」




 まさかの俺への悪口に怒ってくれていた。慌ててシャノンの前に手を出し、外へ出ようとするのを引きとめる。




「シャノン、そんなことで怒らなくていい。俺もうちの可愛いシャノンをババア呼ばわりされたことに腹が立っているが……相手にするだけ時間の無駄だ。異文化コミュニケーションというのはなかなか難しいんだ。特に共通言語をもたない常識の違う相手にはな」




「お前! 俺を舐めているだろ。冒険者風情がふざけやがって! 俺様の剣の錆にしてやる」


 ミサエルは剣を抜こうと手にかけたところで、もう1人騎士団の男が入ってくる。




 新手か。めんどくさいことになるのは嫌だな。


 でも、少なくともパトラのやられた分はやり返してやるしかない。


 俺も戦闘になるのを覚悟して、剣に手をかけようとすると……。




「この馬鹿もんが! 可燃石の窃盗の情報聴取1つ出来ないのか!」


 拳骨がミサエルの後頭部に直撃し、顔面から地面に倒れ込む。




 一瞬で意識を刈り取られたのか完全にピクピクしている。


 後ろからの不意打ちというのもあっただろうが、拳骨が容赦なかった。


 普通に頭から地面に直撃するような拳骨はもはや凶器といっても間違いではない。




「いやー、すまなかった。こいつアホの貴族の御曹司でな。騎士団の中でも特例で入団して問題ばかり起こすんだよ。すまなかったなロックくん。こいつの処分はきつくしておくから許してくれないだろうか?」




 ミサエルを殴ったのは騎士団長のマーカスだった。


 マーカスは俺のことを知っているようだった。




「自分の名前を知っているんですね。パトラがいきなり蹴られたりはしましたが……」


「パパー、パトラは大丈夫だよ。全然弱かったからきっと加減してくれたんだよー」


「パトラが大丈夫っていってますので、今回は貸しにしておきますが、それよりもマーカスさん、騎士団が何用で武器屋に?」




「そりゃそうだよ! S級冒険者のロックくんを知らないのはモグリだよ。それよりも私の名前を覚えて貰えるなんて光栄だよ。本当に他の子たちもすまなかったね。今回は可燃石の調査で来たんだけど……店主可燃石はどれくらいの頻度で無くなっているんだい?」




 マーカスは俺やみんなに謝罪をして頭を下げてくれた。


 本当に冒険者が嫌いというわけではなく、ギルド長とあわないだけらしい。


 危うく騎士団を嫌いになるところだった。




「週に1〜2つって頻度ですね」




「今日もなくなっていると連絡があったが、今日はいくつなくなったんだい?」


「今日は1つですね」




 マーカスたちは可燃石の調査でこの店を訪れたらしいが、それにしても調査でこんなのをやっていたら騎士団の評判が段々と落ちて行くにきまっている。




「犯人の目星はついているんですか?」


「いやー恥ずかしいがまったくわからないんだ。街の中では2〜3日に1個だけど、騎士団ではまとめてかなり大量に盗まれたからね。みんなピリピリしているんだ」




 それからマーカスはマッテオさんに色々話を聞いていったが、特に新しい情報はなかったようだ。


 騎士団長が武器屋から出ていくと、マッテオさんは深いため息をつく。




「騎士団があぁやって回っては来るが、たいした情報もつかめずに帰っていくんだよ。本当に犯人を見つける気があるのかどうか」




 騎士団が出ていった扉を見つめるマッテオさんの目に不安の色が漂った。


 あんな変なのが騎士団にいたのでは、情報を集めるためにやっているのか、騒ぎを大きくするためにやっているのかわからない。




 解決するのにはまだまだ時間がかかりそうだ。


―――――――――――――――――――――――――

ラッキー「俺の出番がない」

ロック「武器屋の中では大きくて入れないから」

ラッキー「俺の鼻は世界一だよ」

ロック……フェンリルだったはず。




お世話になります。

もしよろしければ下の♥を入れてみてください。

きっとあなたの元にも幸せが……くる⁉

―――――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る