第39話 街の中で盗賊⁉ ロックへの指名依頼。

 クロント王国騎士団は国内から集められた精鋭たちが集う集団だった。


 冒険者のランクで言えばだいたいB上位からA上位までが集まっていると言われている。




 Sランク級がいないとされているのは突出した人間が少ないというのもあるが、戦闘などでは常に集団での行動が多く、実戦での個人での力を判断しにくいというのもある。




 模擬戦ではS級冒険者と対等に渡り合えてもルールなしの実践での中では結果を出せず、また力を発揮する機会も少ないためこの評価になっている。




 ただ、個よりも集団に特化したものであるため、当たり前と言えば当たり前なのかも知れない。






 冒険者ギルドとクロント王国騎士団は犬猿の仲で有名だった。


 特に、現騎士団長マーカスとギルド長タイタスさんがトップになってからは余計に仲が悪くなった。




 2人は小さな頃からライバルだったらしく、マーカスさん自身は冒険者にも優しいが、ギルド長が絡むと急に人が変わってしまう。




 今回のオーガ討伐もその一つだった。




 王都へのオーガ侵攻により、本来協力をしなければいけないのだが、騎士団の出だしが遅れ戦わなかったのにも関わらず、調査という名目でオーガをすべて回収したためギルドと騎士団で揉めていた。




 俺とシャノン、パトラがオーガを倒したあと冒険者ギルドに行くと丁度、その現場に鉢合わせした。




 ギルドの前でマーカスとタイタスさんが口論をしている。




「なんで、冒険者が倒した魔物を騎士団が横取りをするんだ」


「横取りではない。金は払うと言っているだろ。それにオーガが5体も王都周辺に現れるなんて異常事態だ。それを調査する必要がある。お前はまた王都にオーガがやってきてもいいと言うのか⁉」




「そうじゃないだろ。金を払うにしてもオーガの買い取り金額が低すぎると言ってるんだ。これは実質横取りじゃないか」




「横取りではない。正規の取引だ。王国騎士団をバカにするのか。それならこっちにも考えがあるぞ」




「いったいどんな考えだ? 街の人に言うのか? オーガ討伐に間に合わず、冒険者に倒してもらったので安い金で買い叩きましたって」




「何を!!」




 タイタスさんは普段は冷静だが、マーカス相手になると感情むき出しになって反論している。




 王都騎士団は最近冒険者が、狩った魔物を勝手に安く買いたたくという話が冒険者の中であった。強い魔物の死体はそのまま持っていかれ、雀の涙くらいしか支払われない。




 そういったこともあり、今回の件ではタイタスさんも怒りが収まらないようだった。




 それからしばらく揉めていたが、リッカさんがタイタスさんを止め、王国騎士団の副団長がマーカスを止めたことで一旦落ち着いた。




 結局、リッカさんと副団長の話し合いにより、正規の値段で王国騎士団がオーガの死体を買い取ることが決定し交渉は終わったようだ。




「タイタスさん大変でしたね」


「ほんとだよ。あんなことをしていたらこの国から冒険者がいなくなってしまうぞ。いったい何を考えているのか」




「騎士団には騎士団の考えがあるんでしょうけどね」




 国の防衛や発展を考えた時に冒険者は国にとっても必要な存在だった。


 冒険者は魔物を狩り、住民の困りごとを解決し、ダンジョンを攻略する。




 冒険者は国から国、街から街へ移動してしまうものだが、冒険者の多い街はそれだけ、魔物の被害を減らすことができる。




 魔物の被害が減れば商人も多く集まり、結果的に街が発展していくのだ。




 またダンジョンの攻略は不思議な力を持ったマジックアイテムや法具、様々な武器など人々に新しい力を授ける。




 俺の腕輪もその一つだ。




「そう言えばオーガ討伐では大活躍だったらしいな」


「いえ、俺はほとんど活躍してませんよ。従魔やシャノンが頑張ってくれただけです」




「仲良くやってくれているならよかったよ。ロックくんちょっと時間いいかい?」


「はい。大丈夫ですよ」




「ギルド長室へ来てくれないか。相談したいことがるんだ」




 普段ギルド長室へ呼ばれることはあまりないので、ちょっとドキドキしてしまう。俺とシャノンはタイタスさんの後ろに並んで歩いていく。パトラは最近、肩車がお気に入りなのか俺の肩に乗っている




 ギルド長室には豪華とは言えないが武骨な武器が飾られ、調度品などが置かれていた。




「ロックくん、どうぞ座ってくれ。それでいきなり本題で悪いんだが、最近王都内で盗みが頻発しているのは知っているかい?」




「盗みですか?」




「あぁ」




 タイタスさんの話では王都の至る所から、可燃石と呼ばれる魔石が盗まれる事案が多発しているとのことだった。




 ただ不思議なのは犯行数の割に、犯人を目撃したのが誰もいないとのことだ。犯人は王国騎士団が買った物まで手を出し、今、国中を上げて犯人を探しているが未だに見つかっていないということだった。




 今回オーガ討伐へ騎士団が遅れたのも、騎士団が躍起になって犯人探しをしていた結果、伝達に不備が生じ遅れたとのことだ。




「ロックくんにこの盗賊を見つけて欲しいんだ。確証はないけど、姿が見えないとなると魔物の仕業か何か特別な魔道具か。ラッキーくんが居れば見つけられる可能性が高まると思うんだよ。それに、王国騎士団が捕まえられない賊を捕まえたらギルドの株も上がるからね。もちろん見つからなくても報酬は払うし、もし見つけられれば上乗せするよ」




 ギルドからの指名依頼は普通の依頼分より報酬が増える。


 しかも、報酬以上にギルドから信頼が厚いと言われているのと変わらないことだ。


 もちろん受けない理由はない。




 きっと今回のオーガ討伐依頼のご褒美といったところだろう。


 一緒に話を聞いていたパトラが俺に声をかける。




「パパーこれ受けよー。報酬いっぱいもらって果物の木買うー。それでパパーと一緒に美味しいの食べるー」




 パトラはバナーナを一緒に食べてから果物が大好物になっていた。


 箱庭の中で育つかどうかはわからないが欲しいなら買って試してみたい。




「そうだな。シャノンはどう思う?」




「私も受けていいと思います。街の人の困っているのを解決するのも冒険者の役割ですからね」




「タイタスさん、それではその依頼受けさせて頂きます」




「あぁ頼むよ。パトラちゃんのおかげでロックくんが依頼を受けてくれたからご褒美をあげよう。今度無理難題な依頼押し付ける時もパトラちゃん宜しくね」




 無理難題って。タイタスさんは俺に何をやらせたいのか。




「わーい! おじさんありがとう」


「おっおじさん……」




 タイタスさんの顔が少しひきつりながら、机の中からビスケットを取り出すとパトラに渡してくれた。タイタスさんも子供には甘いようだ。




 シャノンはパトラが食べるビスケットをじっと見ていた。


 そう言えばまだお昼食べてなかったな。




 でもシャノンそんなに羨ましそうにパトラを見ないの。


 そんなにビスケット食べたいなら、あとで買ってあげるから。




 シャノンは俺の視線に気付き慌てて目線を避ける。




「べっ別に何も見てないですよ」


「俺も何も言ってないよ」




 シャノンが慌てて否定したのを見てパトラがビスケットを3つに割ってくれる。


「パパーとシャノンにあげるー」




 パトラは優しいいい子に育ってくれている。




「ありがとう」




 その後、俺たちは受付に戻り他の依頼も見てみる。


 パトラは依頼に興味津々だった。




「パパーこれはどう? ドラゴンが西のマケイラ王国に出たってー」


「ちょっと遠いかな。俺たちが行く頃にはドラゴンが立ち去っているか討伐し終わっているかもよ」




「そうかー。じゃあこれは? 動く骸骨の目撃情報の真偽の確認ってやつー。動く骸骨が目撃されたってーパトラ見て見たい! どんなのだろうねー」




「真偽って言っても確認のしようがないからね。出ませんって報告した後に出たら調査失敗ってなるからね。ちょっと難しいかもね。でも骸骨の魔物もいるから、そのうち見せてあげるよ」




「わーい!」




 その後俺たちは、いつも通りオークの討伐と肉の納品依頼を受けて今度は武器屋へ行くことにした。 オレンジアントたちに武器を買ってやることにしたのだ。


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