第31話 あの素敵なエプロンの後姿は……お前かいっ!

 何匹かだけ捕まえるつもりだったが、ラッキーと競って遊んでいたら虹色トンボがいなくなっていた。




 俺だけのせいにしているがラッキーにだって責任はある……と思う。




 俺は小屋に戻り一眠りする。これだけ捕まえておけば虹色トンボは大丈夫だろう。また増えるなら捕まえるだけだが。




 数時間後俺は鼻をくすぐるいい香りによって起こされた。


 誰かが料理を作っているようだ。


「フンフフフン」




 どこか楽しそうに鼻歌を歌いながら料理をしている。


 部屋にかまどがあったので、それを使っているのだろう。




 何かを刻んでいる音やフライパンで炒めている小気味のいい音が聞こえてくる。


 今までずっと俺が最後に寝て、早起きして料理をしていたので、こういうのは新鮮で嬉しい。


 もう少しだけ布団の中でこの料理の音を楽しんでいてもいいだろうか。




 いや、でも俺もそうだったが1人で作らせるのも可哀想だ。


 まだ早いが薄目を開けて見る。




 そこには可愛いエプロンをつけたシャノン……ではなく、ガーゴイルくんが陽気な鼻歌を歌いながら料理を作っていた。




「違うんだよ! そうじゃないんだよ。いや違わないけどさ」


 一瞬で目が覚める。つい大声を上げてしまった。




「おはようございます。どうしました?ロックさん。何か怖い夢でも見ましたか?」


 ガーゴイルが優しく声をかけてくれる。


 彼はまったく悪くない。




「いや、大丈夫ちょっと驚いただけだから。そのエプロンどうしたんだ?」


「あっこれは掃除するのにってパトラちゃんが作ってくれました。あの子、本当に万能ですね」




 そう言って見せてくれたエプロンにはなぜか可愛い花の刺繍がされていた。


 細部までこだわりがあり、芸が細かい。




「このエプロンすごい出来だな。汚すのもったいないから防汚の魔法をかけてあげるよ」




 ガーゴイルは俺の方へやってきてエプロンを渡してくれる。


 この生地どこから持ってきたのだろう。意外としっかりしている。




 防汚の魔法をかけてやるとガーゴイルくんが嬉しそうに料理に戻って行った。


 何気に女子力高いんだよな。




「なにか料理手伝うか?」


「いや大丈夫ですよ。魔王城にいた時はほぼ一人で料理担当もしていましたので」




「そうか。助かる。何か必要なら言ってくれ」


「わかりました。じゃあもう一眠りでもしててください」




 ガーゴイルくんは優しく声をかけてくれる。


 俺がもう一度寝るかと思っていたところでシャノンがやってきた。




「おはようございます。昨日は寝てしまってすみませんでした」


 シャノンの手には剣が握られていて少し息が上がっている。


 どうやら外で素振りをしていたようだ。




「訓練してたのか?」


「はい。料理しようと思ったらガーゴイルさんが、今日はやってくれるっていうのでお任せしちゃいました」




 ガーゴイル余計なことを。


 いや。善意でやってくれていることを責めちゃいけない。




「ガーゴイルくん、食材とか大丈夫だった?」


「はい。パトラちゃんが魔物の肉を冷凍保存しておいてくれたので助かりました」




 あぁ地下のダンジョンか。本当に便利なものだ。


「シャノン、少し手合わせするか?」


「いいんですか? でもお疲れじゃないですか? 昨日も1人で虹色トンボ捕りに行っていたようですし」


 んっ? シャノンの言葉の語尾に少し違和感を感じる。




「いや、ほらシャノン寝てたしな。それに1人じゃないぞ。ラッキーも一緒だったからな」


「そういう問題じゃないです! ずるいですよー。私も夜の散歩行きたかったです」


「次からはシャノンも一緒に行こう」


「絶対ですよ」




 それから俺はシャノンと一緒に剣の訓練と体術の訓練、それから簡単な魔法の訓練をした。


 シャノンも魔法は使えるがあまり得意ではないらしい。




 でも、あれだけ魔力があればいい魔法使いになれそうなものだが。




 しばらくするとガーゴイルくんが食事ができたと伝えにきてくれたので、一旦そこで中断し夜また訓練をする約束をした。




 シャノンは向上心が高く才能豊かだった。


 俺にはない天賦の才能があり努力を継続できる忍耐もある。


 しばらくすればアイザックも倒せるようになるかも知れない。




 朝食は肉野菜炒めにスープと簡単なものだったが、ガーゴイルくんは村人全員分も作ったと言って他の村人にも分けてくれていた。




 村人にも今日もしっかりと働いてもらうからな。


 ガーゴイルくんの料理はかなり美味しかった。




 さすが100年の伝統の味。




 さて、今日のやることをみんなに発表する。


 道路の開通、キャベッツの回収、後村人たちには自分たちの畑も整備してもらう。


 それ以外にもやることは沢山ある。




 2日目になるとみんなの動きがよりスムーズになった。


 昨日よりも食事を食べたことで元気がでたというのもあるだろう。




 ガーゴイルくんが午前中のうちに道の上から邪魔なものを排除してくれたおかげで午後の市場にキャベッツを持って行くことができるようになり、その日のうちに村へ少しではあるが収入と食料が配給できるようになった。




 その際に俺らが狩ってきた虹色トンボの羽もギルドへ俺名義で少しだけ納品してもらった。


 納品時の価格を知っておくのと村人の食料買い出しの資金援助のためだ。




 ラッキーは仕事が終わったのでこの村のまわりの警戒に行ってもらう。


 ゴブリンはまだ退治していないが、少なくともラッキーの匂いが村の周りにあるだけで普通の魔物は寄ってこなくなる。




 夜にはパトラたちの石畳作成も終了しシャノンが


「すごい。この石畳、王都より綺麗にできてますよ。これほどのものを作るのに、普通ならいくらかかるのか」


 なんてパトラたちを褒めていたのでパトラたちも嬉しそうだった。




 なにより、村の人たちとパトラたちも交流して仲良くなっていたのが嬉しかった。


 村に住んでいる、おばあちゃんから


「魔物って怖いイメージがあったけど、パトラちゃんたちは良い子だねぇ。それに身体のオレンジがとても綺麗だこと」




 なんて言われて褒められていたのは、自分の子供が褒められたようにすごく嬉しくなった。


 やっぱり身内が褒められるのはいいものだ。




 夕方村長が俺の借りている小屋までやってきた。


「ロックさん。今日もありがとうございました。まさか、2日で村に収入が入って王都までの道ができるなんて夢のようです。本当にありがとうございます。でもこんなに投資してもらっているのに村の利益の1割で本当によろしいんですか?」




「えぇもちろんです。俺たちがこの村から出た後はギルドにお金を俺宛で渡しておいてください」




「はい。もちろんです。必ず毎回支払わせてもらいます」




 そう約束をしてくれた。


 その日の夜は村人たちの第2の収入にするために虹色トンボの捕まえ方を実践した。


 今はダンジョンへ行ってもいないが、そのうちまた増えたらこの村の特産品の一つになってくれるはずだ。




 そして俺たちはその日の夜に手分けして、グリーンフロッグの魔石とオレンゴの卵も根こそぎ回収した。




 オレンゴの卵とグリーンフロッグの魔石は村人たちだけでの回収は難しいので教えてはいない。


 今のままではゴブリンに負ける村人には荷が重い。


 でも冒険者にとってはいい標的なのでこれらを目玉にしてもいい。




 全部のワイバーンを回収するまでは手が回らなかったが翌日にすることにした。


 ただ、俺の予想外だったのは、アイザックたちが俺が思ったより早く到達し、まさかあんなことをするとは思わなかったことだ。


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ラッキー「シャノンのを期待していたんだろ?」

ロック「何の話だ?」

ラッキー ジッーーーーー


ロック「あぁそうだよ! 朝からガーゴイルの花の刺繍入りエプロン姿とか求めてなかったよ!」


シャノンのエプロン姿の方がいいって人は下の♡を入れて応援よろしくお願いします。


いよいよ本日ドラゴンノベルズさんより2巻が発売です!

目印は可愛い人魚になります。


本があなたが来るのを待っています。

お気に入りの書店でぜひ手に取ってください!

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