第32話 パーティー視点。自分たちの器の小ささ
「クソ! ロックの野郎。絶対に裏切ったことを後悔させてやる」
「先に裏切ったのは私たちですよ」
「私も見捨てられましたよ。頭大丈夫ですか?」
「うるさい!」
商業都市ウィリーから新緑のダンジョンへ向かう馬車の中で3人の冒険者が言い争いをしていた。
アイザックの頭の中では面倒を見ていた犬に噛みつかれたような認識だった。
でも心のどこかでは、本当はロックが役に立っていたことを認めたくないという気持ちもあった。
アイザックは非常に焦っていた。
たった3年でグラエラをSランクまで押し上げたのは自分がいたからだという自負があった。常に前にでて敵の攻撃を捌き、受け、そして斬り倒してきた。
その頃ロックが後ろで何をしていたのかなんて見ていない。
アイザックの印象では荷物持ちくらいの認識でしかなかった。
聖獣使いなんて聖獣がいなければ、ただのお荷物でしかない。
サポートメンバーなんて替わりはいくらでもいる。
ただの幼馴染だからといって、荷物持ちでS級パーティーにいるということが納得できなかった。より上のパーティーになるためにはより攻撃的なメンバーにする必要があると思っていた。
なのに……。
「私絶対にオレンゴの卵の回収はしないからね」
「私も、できれば虹色トンボとは戦いたくないです」
「わかってるよ。別に今回の依頼は全部を回収する必要はない。ワイバーンをメインで狙っていく。あいつの方が荷物持ちは少ないんだから普通にやれば負けるわけはないんだよ」
「アイザックその上から目線ウザい。なんであんたがそんな偉そうなの?」
「カラが何もできないからだろ」
「はぁ? あんたなんて仲間見捨てる以外何もできてないじゃない。ギルドの依頼も確認もせずに受領するし、勝手にパーティーメンバーにするし。私とエミーはあんたに協力しているだけ。これが終われば解散よ」
「好きにしろ。そのかわりこの依頼が終わるまでは俺が指揮をとらせてもらう」
パーティーはまとまりをなくしていた。
「お客さん、これ以上は新緑のダンジョンへは進めませんよ」
御者から声がかかる。
新緑のダンジョンまで後は歩いて行くしかない。
金に物を言わせて馬車の御者に無理をいいできる限り近くまで行ってもらった。
できるだけ早くダンジョンへついてロックより先に依頼を達成してやる。
「ありがとよ。釣りはとっとけ」
「お客さんこれじゃ足りないよ」
「欲をかきやがって。S級パーティーを乗せられるなんて名誉なことなんだぞ」
「何級だろうと金払いがいいか悪いかしか興味ないので」
アイザックは仕方がなく。新たに金を取り出して渡す。
こんな奴にまでバカにされるのもロックのせいだ。
何か起こる度にアイザックはロックへの怒りを溜めていく。
それから歩くこと半日アイザックたちは新緑のダンジョンへ到達した。
過去にそこは依頼を失敗しそうになった忌々しい場所。
もう2度とこんなクソダンジョンなんか来ないとそう思っていたのに、これも全部ロックが悪い。
段々と怒りが強くなっていく。
なにをやっても上手くいかない。
「狙うは最奥にいるワイバーンだけだ。あとは帰りながら回収できそうなら回収をしていくからな」
エミーとカラから返事はない。
少し前のパーティーであれば返事をしないなんてことはありえなかった。
幼馴染で小さな頃から一緒に育った仲間は喧嘩をしても必ず仲直りができていた。
でも今はもう修復できない溝があった。
「返事くらいしたらいいだろ。クソが」
アイザックが先頭を切って歩いていく。
ダンジョン内は非常に魔物が少なかった。
前回来た時はいたるところで虹色トンボを見た平原も、グリーンフロッグのいる沼地でもまったく姿を見なかった。
オレンゴの姿は確認はできたが卵は産んでいなかった。
アイザックは段々と笑いが込み上げてくる。
「ククククッ……ハハハッ! ギルドの奴らロクに確認もせずに依頼をだしやがった。無い物、いない物は回収なんてできるわけないだろ。こんなクソ依頼をだしたことを戻ったら追及してやるしかないな」
アイザックはギルドへの怒りもあった。
普通は依頼を出す前にある程度ギルドでは産卵期や生息する魔物を確認してから依頼を出すのが普通だった。それを怠った場合、ギルドにも非がでてくる。
ダンジョンを進んで行くと、今度はゴブリンの群れが出てくるようになった。
ゴブリンなんて倒しても金にはならないが、ワイバーンを狩って疲れた後に遠距離から攻撃をされたりすると不愉快になるので先に潰しておく。
まるで今までの憂さを晴らすように。
だが、ゴブリンもやられているだけではなかった。
「アイザック! あれゴブリンの上位種よ」
「あぁゴブリンナイトだな」
ゴブリンは数が増えていくとその中で上位種が現れる。
まさかこんなところでゴブリン上位種に会うとは思っていなかった。
だが、アイザックにとってゴブリンナイトだろうと、ゴブリンだろうと変わりはないはずだった。
「こんな雑魚が俺の道を塞ぐんじゃねぇ」
アイザックがゴブリンナイトに斬りかかる。ゴブリンナイトはそれを華麗に躱し、剣をそのまま斬り返しながらアイザックの頬を斬りつける。
避けていなければ首を斬り落とされるところだった。
確実に急所を狙いにきている。
アイザックの頭の中には洞窟内で聞いた勇者の言葉が思い出される。
「使用人の魔力によってお前らは基礎力を向上させられ守られていたってことだよ」
そんなはずはない。あいつはただの役立たずだ。
アイザックが焦れば焦るほどアイザックの剣は空を切る。
「キュキュキュキュ」
ゴブリンナイトの笑い声がアイザックをさらにイライラさせる。
アイザックへの攻撃は致命傷にはならないが少しずつ擦り傷が増えていき、そのことがさらにアイザックの剣を鈍らせた。
こんな雑魚今まで一発で仕留められていた。
S級パーティーの俺がこんなところでつまずくはずがない。
気持ちばかり焦っていく中で冷静だったのはエミーだった。
「退いてアイザック! 火炎の槍」
空中に出現した槍がゴブリンナイトの胸に突き刺さる。
アイザックは動きが止まったゴブリンナイトを一閃、斬り捨てる。
ロックと別れてから少し剣が重く感じるようになったが、それでもゴブリンを狩るのなど朝飯前だった。何匹こようと関係ない。
そう思っていた。
それがどうだろう。実際は邪魔だと思っていたロックによる力が大きかったなど言われてもおかしくない。でも、それをすぐに受け入れる器はアイザックにはなかった。
たった3年でS級へ登り詰めたアイザックにとってそのスピードは、心を成長させることはできなかった。
今回の勝負がギルドが自分の力を証明するために行う試験だと思っている。
それがこんなゴブリンナイトレベルで苦戦をするなんて。
アイザックたちはゴブリンたちを何とか倒してワイバーンの群れのいるところまでやってきた。
「ずいぶんとだらしないのね。ほらワイバーンと戦う前に回復してあげるわ」
カラがアイザックを回復させる。
擦り傷ではあるが治りが遅い気がする。
「俺たちは……いや、なんでもない。さっさとワイバーンを倒してギルドへ戻るぞ」
その声に答える者はいなかった。
ワイバーンの住処にはかなりの数がいた。
「エミー俺が突っ込むからワイバーンが飛び上ったところで羽を打ち抜いてくれ、落下の衝撃で弱ったところを俺が止めを刺す」
「わかったわ」
アイザックがワイバーンを狙って斬りかかる。
もちろん、ワイバーンは避けアイザックの攻撃は空を切る。
そこでエミーが飛び上がったワイバーンにむけファイヤーアローを放つ。
ファイヤーアローは見事に羽に当たり炎が上がる。
落下して行くワイバーンに向けアイザックは斬りかかる。
確かな手ごたえを感じた。
これならいける。
「よし次へ行くぞ」
アイザックがもう一度ワイバーンに斬りかかろうとしたところ、ワイバーンはすでに飛び立ち、アイザックたちに狙いをつけていた。
アイザックがヘイトを稼げていないせいでカラとエミーがワイバーンに狙われる。
「アイザック! 私たちをちゃんと守りなさいよ」
エミーの魔法がワイバーンを打ち落とすが、その数はワイバーンの数に追い付いていない。
「自分のことは自分でなんとかしろ」
「はぁ?」
「エミー逃げるわよ」
カラはエミーを引っ張り逃げ出していく。
「くそお前らまで裏切るのか」
アイザックがワイバーンに囲まれる。
「わかったよ。これなら全員を依頼失敗にしてやる」
アイザックの体内の魔力を爆発させる。
「グランドクロス」
ダンジョン内を光と大きな爆発音が響き渡った。
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ラッキー「ロックの支援魔法って規格外だよな」
ロック「ラッキーの魔法ほどじゃない」
ラッキー「いやいやそんなことないよ。俺以外の従魔もみんな活躍しているから」
ロック「確かにみんなすごいよ」
スカイバード「……」(家でしようかな)
いよいよ本日ドラゴンノベルズさんより2巻が発売です!
目印は可愛い人魚になります。
本があなたが来るのを待っています。
お気に入りの書店でぜひ手に取ってください!
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