第28話 イチゴ味の回復薬。マスカットもあるよ!

 箱庭から村へ戻ると丁度村長たちの話し合いが終わるところだった。




「旅のお方お待たせして申し訳ない。村の中でも意見は分かれていたというのが正直なところじゃ。ただ今までワシたちがやってきてダメだった以上、このままやっていっても上手くいくとは限らん。報酬は全部成功報酬でいいのじゃな?」




「もちろんです。村人の協力が得られるのであればゴブリンの間引きは行いますし、食料も提供はさせていただきます。とは言っても村人が危険になることはありません」




「そんな美味しい話があるもんか。よそ者の言うことなんて俺は信じないぞ。ゴブリンなんて俺の怪我が治ればすぐにでも退治してやる……イテェ」


「ウォーレンなんて失礼なことを言うんだ」


「あなた!」




 ウォーレンと呼ばれた男は足と腕に包帯を巻いており松葉杖を持ち反対側で恰幅のいい女性が支えている。


 ウォーレンは興奮しすぎて自分の手を大きく振った際に机にぶつけてしまった。


 きっとゴブリンたちにやられた若い男たちの一人なのだろう。




 俺は回復薬を取り出しウォーレンに渡す。


「これ回復薬ですのでどうぞ」




「ふん。どうせ回復薬なんて言って冒険者が持っているのなんてたいした効果がないやつだろ。俺はそんなんでは騙されんぞ」




「まぁそんなこと言わずに。もし毒見が必要ならうちのシャノンに飲ませてもらってもいいですよ」


「えっ私ですか? ロックさんの回復薬飲んでいいなら飲んでみたいです」


 シャノンが元気にハイハイッといった感じで手を挙げてくる。




「シャノンはまだ俺の回復薬飲んだことないか。ほらこれ今回は特別製な」


 シャノンにも回復薬を渡す。味はどうせなら美味しいのがいいからな。マスカット味にしてやろう。




 シャノンは嬉しそうに一気に飲み干す。




「なんですかこれ! 回復薬ってこんな味しないですよ。すごく爽やかで飲みやすい! それに身体が軽くなりました。ロックさんもう一本欲しいです!」




「あとで普通のジュース上げるから子供は回復薬は1日1本までね」




「ブッ―子供じゃないです。私はいい大人ですぅ」




 シャノンが頬を膨らませている。本当可愛いな。




『ロックー私も飲みたい』


「はいはい」




 ラッキーにはイチゴ味の回復薬を飲ませてやる。こっちは少し甘酸っぱい大人の味だ。


『うん。悪くない。むしろ良い』




「ウォーレンさんもどうぞ」


 ウォーレンは怪しみながらも回復薬を少し舐めるように飲んでみる。


 ちなみにウォーレンさんに渡したのはリンゴ味の回復薬だ。




「なんだ。これが回復薬だと言うのか。あの草の腐った液とドブと灰と海水を混ぜたような変な味がしないぞ。むしろリンゴの甘みが身体中に染みるようだ」




「えっリンゴだったんですか? 私のマスカットでしたよ」


『私のはイチゴ味だった』




 この驚いた顔が見たくて色々作ってみたが、昔の仲間はこんなことしているなら魔物の1匹でも捕まえてこいと怒られたのでこの回復薬は俺用だ。


 普通は味の薄いレモン風味の回復薬だが今日は信用してもらうために特別版を渡した。




「なっなんだ。痛みがまったくなくなった。それに……うっ腕が動く。足も痛みもまったくない。おいっ冒険者……なんなんだお前は。普通こんな田舎のおっさんにこんな上級の回復薬を渡すような馬鹿聞いたことがないぞ。俺にこんな物を渡しても返せるものなどなにもないぞ」




 ウォーレンは驚いたように目をパチパチしながら手足の動きを確認している。




「あなた……本当に腕が動くの? だって剣を持てるかもうわからないって……あぁ冒険者様私の夫を助けてくださって本当にありがとうございます」


 ウォーレンの横にいた女性が俺たちに深々頭を下げてくる。 




「あぁ本当に動く。こんな奇跡が起こるなんて」




「今俺も別の依頼を受けている最中でそのための人手を借りられるなら、何人でも回復薬差し上げますよ。どうですか? まだ信用できませんか?」




「いや、俺が悪かった。改めて俺はウォーレンだ。この村では村長の補佐的なことをしている。なんでも協力をさせてくれ。そのかわりこの村にはまだ若い男で怪我をしている奴が沢山いるんだ。そいつらも回復してくれないか?」




「俺はロックだ。協力してくれるならいくらでも渡すぞ」


 俺は鞄の中から10本の回復薬を出し机の上に置く。




「これは味の付いていない物だから、味付きの回復薬を飲んだのはみんなには内緒にしといてくれよ。それと足りなかったら言ってくれ」


 共通の秘密を持つというのはどんな小さなことでも仲を深めるのに役に立つ。




「おぉありがとう」




「さて、ここからは仕事の話をしたいところだが、まずは協力してくれる人に回復薬と食事を振る舞ってからだな。そう言えばここへ来る途中にキャベッツが大量に育っていたがこれを何で食べないんだ?」




 キャベッツを取り出して村長に見せると少し嫌そうな顔をしながら


「それは食べられるのか? 今までそんなの食べたことがないぞ。旅の方には悪いがそれは馬の餌じゃないのか?」




「馬の餌だって? よしキャベッツの美味しさを教えてやろう。それにこれがこの村を救う物になるんだから、村人全員に好きになってもらうしかないしな」




「こんな物が村を救うだって?」


 村長も、ウォーレンも信じられないように顔を見合わせている。


 まずは美味しさを知ってもらってからだな。




「村長この村に大きな鍋はあるか?」


「祭り用のであればあるぞ」


「よし。それを借りようか」




 さてまずは腹ごしらえして、そしたらさっそく行動をしよう。


 1週間以内に両方の依頼をこなさなければならない。


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ラッキー「新しい回復薬の味を考えた」

ロック「ほう。どんなのだい?」

ラッキー「ダンジョン産オレンジアント卵味」


ラッキーはまだオレンジアントの卵を諦めていなかった。


いよいよ明日2巻が発売です!

目印は可愛い人魚です。


本があなたが来るのを待っています。

お気に入りの書店でぜひ手に取ってください!

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