第5話 聖獣が仲間になりました。ついでに名前をつけてあげました。

『人間とはヒドイ生き物だな。自分が助かるためになら同族を見殺しにする。私たちでは考えられない。せめて苦しまないように逝くがよい』




 フェンリルが俺の前にくると自然に話していたが大きく口をあける。




「ちょっと待て! お前人間の言葉が話せるのか?」


『お前の方こそ私の言葉がわかるのか?』




 フェンリルは俺の目の前で大きな口を開けていたのを閉じるとお座りの姿勢で俺の前に座った。




「あぁ、どうやら言葉がわかるみたいだ。俺の職業の影響かもしれない」


『そうか。それでまだ戦うつもりか? それなら私は暇つぶしにやってやってもいいぞ。暇だから遊び相手が欲しかったところだしな』


 フェンリルは思いっきり遊んで欲しそうにシッポをぶんぶんと振っている。


 いや、お前の遊びにつき合える人間なんてそういないからな。




「いや、できるならこのまま見逃してもらえると助かる」


『なんだつまらない。戦わないのか。戦おうぜ。私はこの階から出れなくて退屈なんだよ。いいだろ少しだけ』




 さらに遊んで欲しそうにシッポを大きく振り回す。 


 そんなに嬉しそうにされても遊んだ瞬間俺が死ぬ。




 あっでもでも別の遊びの方法でもいいか。


 グラエラ村にいたころ番犬に木の棒を投げて遊んでやることが何度かあった。




 俺は鞄から予備のアイザックが使っている胸当てをとりだし、思いっきり投げてみる。


 フェンリルは嬉しそうにそれを追いかけ空中でキャッチする。




 おぉすごいな。お利口だ。


 フェンリルがもう一度持って来たのでそれを何度も投げてやる。


 アイザックの胸当ては歯の跡だらけになり、涎でびしょびしょになった。


 フェンリルが飽きるまで続けてやるがなかなか飽きることはなかった。




『なんだかわからないけど非常に楽しいぞ』


「それは良かった。君はここから出られないのか?」


『ここの階層の入口に結界が張ってあってな。さすがにあれは私でも破れない』


「そうか。もしも……もしもだけどこの階から出られたら俺と一緒に冒険しないか?」


『お前私を誘っているのか? 今のはなかなか面白い冗談だ。でもいいだろう。もし出られるのなら私は一緒にお前といってやる。もしそんなことが可能ならな』


「本当か?」


『あぁフェンリルは嘘をつかない』




【フェンリルが仲間になりたそうにしている。仲間にしますか?】


 頭の中に不思議な声が響いてくる。


 たしか、聖獣使いの職業を調べた時に頭の中で声を聞いたという話が載っていた。


 ただ、その聖獣使いは頭がおかしくなったと判断されたと言われていたが。


 俺は頭の中に響く声にもちろんと答えた。




【フェンリルが仲間になりました】


【条件を満たしたため聖獣の箱庭が解放されました】


【聖獣化が解放されました】




 頭の中に色々と聞こえてくるがどういった効果なのかがわからない。


 聖獣使いの数が少ないので情報が少ないが色々やってみるしかない。




「フェンリルこれからよろしく」


『こちらこそ、ところで私に名前をつけてはくれない?』




「名前か。あっ俺の名前はロック=システル。ロックって呼んでくれ」




『わかった。改めてよろしくなロック。それで私の名前をつけてくれ。そうだなカッコイイのがいい』




 いきなり名前と言われても困ってしまうが。




「それじゃあラッキーっていうのはどうだ?」


『ラッキー……ラッキーか。うんいいな。なんか幸せになりそうな感じがする』




 フェンリル改めラッキーも喜んでくれている。


 フェンリルを仲間にしたことでボスを倒したとみなされたたのか、目の前に宝箱が現れた。


 今まで見た中でもかなり豪華な装飾が施されている宝箱だ。




 ダンジョンボスの初討伐の報酬はダンジョンのレベルによって変わってくるが、討伐したパーティー、または討伐した者に役立つものが出てくると言われている。


 最初の1回目というのはかなり特別だ。




 何が出てくるのか非常に楽しみだ。


 宝箱を開けてみると、中にあったのは……腕輪と首輪だった。




 腕輪は俺が使える大きさで、首輪はラッキー用のかなり大きな首輪が折りたたまれて上手く納められていた。




「ラッキー用か? この首輪してみるか?」


『いいな。その首輪赤くてカッコイイと思う』


 ラッキーのシッポは派手に振られ小さな竜巻が発生している。


 どんだけ喜んでいるんだ。




 ラッキーには首輪をつけ、俺は腕輪をつけてみる。


 装着と同時にまた頭の中に声が響く


【聖獣の箱庭の腕輪を装着しました。箱庭への出入りができるようになりました】




 さっきから箱庭と言っているが一体何の事なのだろう。


 箱庭の腕輪……腕輪をよく見てみると、腕輪には水晶が埋め込められていて、その中には草原があった。


 草が風でなびくように水晶の中で動いている。




「なんだこれ! これが箱庭か?」


『どうしたロック? そんなに驚いた声をだして』


「これ見て見てくれ。腕輪の中に小さな庭がある」


『なんだこれは?触ってみてもいいか?』


「あぁいいぞ」




 ラッキーが触ると腕輪の中に吸い込まれるように消えていく。


「おいっ! ラッキー大丈夫か! どこいったんだ!」


『大丈夫だぞ』




 ラッキーは腕輪から普通に出てくる。


『この中に草原があった。ちょっと狭いけどかなり気持ちいいぞ』


「草原? もう一度入れるか」




 今度はラッキーはそのまま触らずに腕輪の中へ消えていく。


 腕輪を見てみると、水晶の中で気持ち良さそうに欠伸をしているラッキーの姿が見える。




 本当に中に入れたみたいだ。


 箱庭への出入りが自由にってことは俺も入れるかも知れない。


 俺は腕輪を触りながら箱庭に入る、と強く念じると……。


 目の前が一瞬暗くなり、気が付けば草原の中にいた。




 確かにすごく気持ちいい。ただ残念なことに、中はかなり狭い感じだった。ラッキーが走り回るのには少しスペースが足りない。


『来れたのか。ここならずっと寝ていられるぞ』


 すっかりラッキーは馴染んでいる。




 箱庭の腕輪を見てみると、水晶はただの水晶に戻っていた。


 でも確かに適温で快適だ。




 背負っていた荷物を置いてみる。もしここに荷物を置けるなら倉庫代わりに使える。


 そうすれば途中に捨て置いてきてしまった魔物も回収しながら戻れる。




 箱庭から出ると念じると、箱庭の中にはあの重かった荷物が全部置かれたままだった。




 それにしても、この腕輪をつけなければ箱庭に入れないとなると、かなり難易度の高い魔法になる。




 魔道具と連動する魔法か。


 なかなか興味深い。




 ラッキーは俺の荷物に鼻を近づけた後、外に出てきた。


『ロック、あの荷物から変な匂いがでてるけど大丈夫か?』


「変な匂い?」


『あのヒラヒラした服からだ』




 それはカラのドレスだった。最近流行の香水をつけていたが、ラッキーからすれば只の臭い布だったらしい。




『それでこれからどうするんだ?』


「これからか…。S級冒険者は今日で終わったからな。ラッキーみたいな色々な聖獣とかを探すのも悪くないな」


『仲間を集めるのか。楽しそうだな。私のように外に出たい奴は沢山いるはずだ』


「じゃあ一緒に色々なダンジョンや森を回って仲間を探そうぜ。改めてよろしくラッキー」


『こちらこそよろしくロック』




 俺とラッキーは両手をつきだし拳と拳をぶつけあった。




 さて…、目的は決まったが、どうやってラッキーを外に連れ出すかを考えなければいけない。

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