第3話最短の道=最善の道ではないって何度も説明していたはずなのに

「おいっトロトロ歩くなよ。早く地図見て道案内しろ」


 俺は今荷物を背負い地図を見ながら先頭を歩かされていた。




 新しいダンジョンを散策する場合、俺が通常時では先頭に立ちボスではアイザックが先行するという役割分担ができていた。




 俺は地図も確認もするがダンジョン内で魔物のおおよその数がわかるというスキルがあった。


 これも聖獣使いのスキルの一つで魔物の探索というものだ。


 地図での最短=最善というわけではない。




 魔物によっては狡猾にも冒険者が来る道を予想して罠を仕掛けていたりする。




 俺の仕事はできる限り仲間を安全なルートでボス戦まで導くこと。


 もちろん、その途中でまったく魔物に出会わないなんてことはないが余計な戦いを回避することで仲間の疲労を軽減させ少しでも勝率をあげることができる。




「お前本当にそのスピードどうにかならないのか。ほんとお前って使えないよな」


「いやこれは……」


「言い訳すんじゃねぇよ。いやこれはじゃねぇだろ。誰が言い訳をしろって言ったんだよ。お前本当どうしようもないな」




 アイザックは壁を思いっきり蹴り飛ばしながら叫ぶようにいう。


 魔物がそれだけで寄ってきてしまうため勘弁して欲しいが俺がここでそれを言っても無駄だろう。




 アイザックは先ほどからキッドへ媚びへつらいキッドのご機嫌をとるようにしていた。


 このダンジョンは8階層まではすでに攻略がされており、ある程度の地図は売りにだされていたためできるだけ最善の道を選んでいる。


9階層からは詳細の地図はなく10階層への階段はあったという話だ。




「それにしてもこのダンジョン前に別のパーティーと来た時はかなり魔物がいた気がするけど今回は少ないですね。だから使用人でも先頭歩けるんでしょうけど」




 キッドは俺のことを完全に使用人扱いしている。




「キッドさん前にもこのダンジョンに来たことがあるんですか?」




「えぇ。あの時は最悪でした。まだ僕も駆け出しでしたが自称凄腕冒険者と組んだせいで死ぬ直前まで行きましたからね」




「そんな大変な目に」




「本当それからクズとは組まないようにしてるんです」


 キッドが俺の方を見てくる。




「本当にクズとは組まないのが一番ですよね。おい早く歩けよ。お前のペースにあわせているこっちの身にもなれってんだ」




 アイザックは勇者と気持ちの悪い笑みを浮かべながらひたすら俺の文句を言いついてきている。人の悪口でよくそこまで盛り上がれるものだ。




 ただ、今は俺が魔物の相手をしているが通常のダンジョン探索ではいつも一番後ろに回され戦わせてもらえなかったので何気に楽しんでいたりする。




 倒した魔物の素材も本来なら持って帰りたいが全部の素材を回収していると荷物だけで大変なことになるので諦める。ただ、ここはかなり難易度の高いダンジョンなので帰りにでも残っていれば素材も持ち帰りたい。




 今後一人で活動するなら資金はあって困るものではないのだ。




 俺が無心に魔物を狩っていると後ろからまた文句を言われる。


「なあ頼むよ。難しいこといってないだろ。もう少しだけスピードを早くしてくれって言ってるんだよ」




 ちょうど魔物がひと段落したところだったので俺が振り返り説明をしようとする。


 今までだって同じようにやってきているのに今日はキッドがいるからといってつっかかりすぎだ。




「おいっアイザック。俺が前に来た時と道が違う気がするんだけど、コイツ遠回りしてるんじゃないか?」




 キッドはいきなり俺から地図を奪い取るとそう文句を言い放った。




「やっぱり。俺はここの階に降りてきてからずっと確認してたが最短で進んでないぞ」


「はぁ? てめぇなにしてんだよ。もしかしてやっかみか? 最短で行けよ。最短で」


「まじ? 私さっさと帰りたいんだけど」


「本当ですか?」




 ずっと黙っていたエミーとカラも批判するかのように俺へ詰め寄ってくる。


「だから、さっきから……」


 俺が前を向き理由を説明しようとするといきなりエミーに頬を平手で叩かれた。




「ロック! 私たちは今からダンジョンの新しい階層にチャレンジしようとしているの。これは遊びじゃなくて真剣にやっているの。なんでロックはわかってくれないの。ロックがそんなんじゃ私だって」




 カラがエミーの肩を抱き頭をなでる。


 そうか。俺がやっていたことは何も伝わっていなかったのか。


 俺はパーティーを組んだ頃に何度も説明をしていた。その時は全員が遠回りをしても魔物が少なく安全にたどり着ける方と言っていたはずだった。




 どれだけ自分が信用されていなかったというのだろう。


 本当に情けなくなってくる。




「わかった。最短で10階層まで案内してやる。そのかわり魔物は増えるからな」


「あぁ? 多少増えたところで関係ないだろ。てめぇがその時はちゃんと狩ればいいだけだろ」


「わかったよ」




 最短での道を選び進むが、より魔物が増えたことで進む時間はさらに遅くなる。


「お前、どうして俺たちが一緒にいられるかわかるか? 幼馴染だから仕方がなく一緒にいるだけだぞ。お前なんかな……」




「アイザック、今は敵に集中して。今日中に帰れないと服買いに行けない」




「ほんとこの使用人使えないですね。なんでこんな優秀なパーティーにこんなのおいておくんですか? もうクビでいいんじゃないですか?」




 3人の声を聞きながらも俺は目の前の魔物を退治していく。


 前も後ろも敵だらけだ。




 ここに来るまで俺を庇ってくれていたエミーももう何も言ってはくれなくなった。




 ただ、残りの階層も少なかったおかげでなんとかメンバーの体力を温存して10階層のボス部屋までくることができた。これで俺の役目は終わった。もう後はボスを倒して戻ったらこのパーティーから出て行くだけだ。




 最後くらい幼馴染として仲良く冒険したかったものだ。


 大荷物を持ったまま一番後ろへ行き仲間たちの後姿を眺めたが、あまりにその距離は離れすぎてしまっていた。

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