第2話俺がいるはずだった円陣の中で勇者が笑っていた。俺は今日で……
早朝から冒険者ギルド『キンバリー』へ行き勇者と初顔合わせをすることになった。
もちろん、俺には勇者が来ることは聞かされていないので知らなかったフリをする。
「初めまして。勇者のキッドといいます。S級パーティーグラエラへお試しということですが参加できて非常に光栄です。しっかり実力を見せられるように頑張ります」
俺たちのパーティー名は村の名前からとっていた。
育った村グラエラは魔王城の近くということでなかなか観光客なども少なく無名に近かったため、育ててくれた村が少しでも有名になるようにと村の名前をつけることにしたのだ。
勇者はすごく礼儀正しい人だった。
「勇者が参加するのか? すごいなアイザック」
アイザックは俺を一度チラッと見て舌打ちをしただけでそれ以上何も言うことはなかった。
勇者は空気を変えるかのように一人一人に丁寧にあいさつをしていく。
エミーやカラへは神様もこんなに美しい女性に才能を与えるなんて贔屓がすぎますね。でも神様も2人の美しさには贔屓してしまう気持ちもわかります。とかお世辞を並びたてていた。
確かにエミーもカラも顔は可愛いと思った時期もあるが最近では顔よりも大切なことがあるというのを学んだ。
キッドは俺の前までやってくると自分の荷物を指差しながら
「オイ使用人、これ俺の荷物な。貴重品も入ってるから乱暴に扱うなよ。お前なんかの金で買えない貴重品も入ってるからな」
前言を撤回しよう。すごく嫌な奴だ。
「キッドさん、ロックは使用人ではないです」
エミーは俺に気を使って庇ってくれる。
「あらそうなんですか? それにしては全員分の荷物も持たせてますよね? それに明らかにドレスのような冒険には必要ないものまで」
「エミーもう余計なことキッドさんに言わないの。別にロックの扱いはどうでもいいわ。それよりさっさと行きましょうよ」
カラは自分の方に非難がまわってくるのを嫌がり話題をそらした。
そりゃキッドもツッコミをいれたくなるだろうよ。
「あぁもう行くが一応キッド装備の確認をさせてくれ」
アイザックが勇者に声をかけると勇者は腰にさしてある剣を抜く。
「アイザックさん安心してください。僕には王様から頂いたこの『竜滅失の剣』がありますので」
キッドが抜いた剣はかなり年代物のようだがなかなか作り込まれている。名刀と呼ばれるには十分な剣だ。
ただ……。
「その剣根元の部分にうっすらとヒビが入ってないか?」
剣はとても素晴らしいものだったが手入れがされていないようだ。きっと剣の切れ味がいいので手入れをサボっていたのだろう。
「お前うるさいぞ。俺の剣にヒビが入っていたりするわけないだろ。この剣は俺が王様から頂いたドラゴンでさえ倒せるっていう剣なんだ。そうやっていちゃもんをつけて俺の評価を下げる暇があるなら自分も役に立つ行動しろ」
「ほんと邪魔しかしないな」
アイザックが死んだ魚のような目で俺の方を見てくる。
俺はこれから行くダンジョンはどんなに注意をしてもしたりないと思っていた。
武器はどんなにいい剣でも摩耗してくる。
それなのにキッドは剣の力を過信し、アイザックはキッドのご機嫌をとるために剣を褒めたたえていた。それからしばらくキッドが王様からこの剣をもらう自慢話が続いた。
話がひと段落したところでアイザックが声をかける。
「よし! それじゃあ気合いれていこう」
「僕が加入したからには大船に乗ったつもりでいてください」
「さっさと終わらせて儲けた金で新しい服買いにいきましょ」
「魔法は私に任せて」
4人が気合を入れているのを俺は少し遠くから見つめていた。
当たり前のように俺の入る隙間はない。
今日加入した勇者が楽しそうに笑っている。本来なら俺があそこにいたはずだった。
アイザックだけではなくエミーもカラもまったく気にもかけてくれないようだ。
もう俺はこのパーティーには必要とされていない。
本当に今日で終わりのようだ。
俺はその円陣を見つめながら今までのことを思い出していた。
俺もみんなのために頑張ったつもりだった。
でも、それは無駄な努力だったらしい。
楽しい時も苦しい時もみんなと一緒だったから頑張れた。
みんなの夢を応援することが俺の夢だった。
だけど、もう俺には側で応援することもできないらしい。
今日が最後だと思うと目から溢れそうなる涙を必死にこらえることしかできなかった。
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