第349話 相対する5
ひと悶着あり俺は深呼吸をしながら腰を下ろす。冷静になれと自分に言い聞かせるがまだ目の前の男に対するとある感情が完全に消えない。
疲れた顔で天ヶ瀬を見ているとぽつぽつと語り始めた。
「まず、あの女は神を自称しているが本当にそうなのかは私にもわからない。ただ北海道で出会い、そこからあの女の指示で私は会社を立ち上げ、地盤を固め始めた」
天ヶ瀬の話はこうだ。その女は老婆の姿をしており、歩くことができなかったそうだ。自身を星の意思を統括する端末だと言い、分かりやすく言えば神様だと言ったそうだ。
胡散臭い話であるが、出会った時点で既に呪いを受けたのか天ヶ瀬はその言葉に疑問を持つことなく、その女の言う通りにしたのだという。
「最初は、呪具の作成からだった。言われた仕法で作成し、海外の紛争地域、特にテロなどが盛んにおこなわれている場所へ売りつけた。呪魂玉という名前で飲むと対象を強制的に悪霊へ作り変えるものだ」
呪魂玉。聞いたことあるな。どこだったか……ああそうだ。チョコボールと間違えられた時か。
「最初はただで配った。そして効果を実感してもらった後に高額で売りつけるようになった。その辺りの販売は同じ時期にあの女がスカウトしてきた知座都と区座里が担当していた。私はフロント企業として会社を立ち上げる準備をし裏で資金を稼いでいた。途中で区座里は別に任務を与えられ日本へ帰国したから、その後は知座都が1人で担当していたな。そして1年前だ。計画の第一段階が実行された」
「――計画?」
「あの女が神としての力を振るった最初の話。つまり、地球全土の人類に対し霊力を与えた」
ちょうど俺たちが向こうの世界に言っていた時期か。
「不思議に思わなかったか。悪霊というものに対して国の法整備が整うのが早かった事に」
「それは……」
確かにアーデがその辺を気にしていた気がする。
「理由は簡単だ。知っていたんだ。事前に各国の首脳は。先に霊力を与え、今後起きる世界の予習をさせていた。随分混乱していたよ。それはそうだ。いきなりオカルトな話をされても信じる事なんて出来ない。だが自身が見える立場になれば話は変わる。そしてそこからがアマチの出番だ。ライフラインを維持するため商品化させた結界道具を国に宣伝し売りつけた。あっという間にトップ企業の仲間入りだ」
「それも神が? どうやったんだ、全員に霊力を与えるなんて……」
「それは少し違う。霊力ってのは潜在的に全員持っているものなんだそうだ。向こうの世界でいう魔力を全員が持っているのと同じだ。こっちの世界では霊力を全員持っている。それをあの女が刺激して強制的に覚醒させたんだ」
なるほど。だから俺たちには霊力が宿らないのか。この世界の人間じゃないから。
「なら魔力と霊力の拒絶反応は?」
「魔力っていうのはいわばこの世界にとっては異物だ。それを体内に宿すだけならともかく魔力を用いて魔法を使えば霊力の方が拒絶反応を起こす」
「その理論だと魔力を持った奴が霊力を使えば同じ拒絶反応が起きるって事じゃないのか? だが俺の知り合いは魔法を使ったらその拒絶反応が起きてたぞ」
「元々こっちの世界の肉体は霊力に適した身体なんだ。だから霊力を使用しても異物の魔力が拒絶反応はそこまで強くない。だが霊力は違う。直接肉体に結びついてしまっている。だから魔力を使用した時、反動が身体に来るんだ」
なら大和たちはなぜ向こうの世界で魔法が使えたんだ? その理論だと地球の人間が向こうの世界へ行ったとしても魔法は使えないと思うんだが。
「俺の知り合いが向こうの世界に召喚された事がある。その時は魔法を使っても平気そうだったぞ」
「なに? なぜそんな事態に……これは仮説になってしまうが、恐らくまだ霊力が覚醒していなかったからじゃないか? お前の話から察するに霊力覚醒が起きる前の話だろう? 完全に霊力に目覚めていなかったから拒絶反応も低かったのかもしれんな」
地球へ戻って霊力が覚醒したから拒絶反応が出るようになったって事か?
「それでそこまで大ごとをして何が目的なんだ?」
「星の浄化と再生、と聞いている」
「どういう意味なんだ?」
俺がそう聞くと天ヶ瀬は眉間に皺をよせ考える仕草をする。どういう事だ。まさかこいつも知らない?
「呪星と呼ばれる呪具を使い、浄化をする。という事しか分からない。何をもって浄化と言っているのか私も知らないのだ」
「それだ、なんだその呪星ってのは。どうやれば消える!」
豹変した俺の様子にアーデも、ネムも驚いた様子でこちらを見た。だが気にしている場合ではない。問題はそれなのだ。
「――強力な呪具だが術者が解けば消えるはず。この場合はあの神のはずだが……しかし礼土。お前はあの学校の呪星を消し去っているはず。何をそこまで……」
「――その呪星ってのは1つだけなのか?」
「む、そういう事か。確かにまだ複数あり、既に持ち出された後だ。確かに放置するのは危険か」
「そうだろう。どこへ行ったかわからない以上術者を潰した方が早いはず。――それでその神はどこにいる?」
睨みつけるように天ヶ瀬に問うが、ゆっくり首を横へ振った。
「わからん。あの学校の呪星が起動してから行方知れずだ。知らぬ間に私設部隊まで作っていたくらいだ。どこかにいるのだろうが……」
「わからない、か」
殺意が膨らむ。今もあの凶悪な呪具がどこかで猛威を振るっているかもしれない。いっその事、日本全土を魔力で覆って怪しい力の場所を徹底気に襲ってしまえば――。
ガンと鈍い音がする。
「れ、礼土?」
「すまん。後は任せる」
俺は自分で自分を殴り自室へ戻った。
「それで、どうしたのさ。礼土」
「……ネムか」
部屋で横になっているとネムが訪れていた。腰に手を当て困った顔をしている。
「どうしたって、何が?」
「何がじゃないよ。なんか変だよ」
「そうか? いつも通りだと思うが……。それより天ヶ瀬は?」
「帰った。一応神様の場所がわかったら連絡してくれるってさ」
「そうか。早く見つけてもらいたいもんだ」
俺がそういうとネムは近くの椅子に座り俺を指した。
「それ」
「な、なんだ」
「アーデって普段冷静だし、頼りになるけど、ここ最近は礼土の事になると妙にポンコツだよね」
「まて、何の話だ」
「礼土って勇者の仕事どう思ってたの」
「行き成り話が変わり過ぎだ。別にどうも思っていない。俺は向こうの世界の人間は……いや、そうじゃなくて」
「それ、それが本音でしょ。別に礼土って正義の味方って柄じゃないし。むしろ人間の方が嫌いまであったんじゃないかなってアタシは思うわけよ。自己献身的に人を救うタイプじゃない。聞いた感じだと勇者時代の礼土って全部を諦めてただ救いたい人だけ救うだけの自己中心的なタイプだったんじゃない? 今までも悪霊の被害に対して本気で何とかしようなんて考えてなかった。依頼だから頑張ろうってスタンスでしょ。なのにあの一件の事を随分怒ってた。変なんだよね。知り合いは全員助かってる。確かに犠牲者は出たけど、それに対して礼土があそこまで怒るって変」
「変って――結構な人が犠牲になったんだ。そりゃ怒るくらいは――」
「それでさっき天ヶ瀬さんを殺そうとしたの?」
言葉が出なかった。
「一瞬だけどすごい殺気だった。アーデは気づいてないっぽいけど、アタシはケスカはわかったよ。おかしいでしょ。正直今までの礼土から考えられないもん。だから――ほら、話してみなよ。よく言うでしょ。人に相談すると楽になるって」
俺は大きく目を見開き、そして考えた。確かにネムにだけは知っておいてもらった方がいいかもしれないと。
「俺は……まだ
「ん? ちょっと待って。それって学校の奴だよね。もう解決した話でしょ」
「いや、していない。俺は一度無防備に呪いを受けて思考を殺害する方向へ誘導さている。それは今もだ。前までは我慢する程度で問題なかったが、特にアーデを助ける際にやり過ぎたせいで加速度的に思考が誘導されている。正直、天ヶ瀬と話している時もやばかった。頭の中がぐるぐるしててな」
「いやいや! え、でも本体は消し飛ばしたんでしょ!?」
確かに消した。呪いを吸い上げ、具現化し呪いを喰う蛇へと進化させすべて喰わせた。だが――。
「あの事件の元凶だった呪星はもうない。それに関わった呪いも消え去った。ただ……俺の身体に、恐らく脳に浸食した呪いの残滓がまだ残っている」
「なんで! おかしいじゃん!」
「多分だが呪星を滅ぼす時、俺の身体に全力の魔力が覆っていたことが原因だ。俺の高密度の魔力が完全に呪いを本体から切り離してしまったんだと思う。だから呪星を消しても俺の中の呪いが残り続けたんだろう」
「だったらほら、新しい礼土のペットは!? 呪いを食べるんでしょ!?」
「それも試した。だが――」
「スネ尾がびびっていくら命令しても俺を攻撃しないんだ」
「もうおお!! ペットは大切にしてよおおお!!」
ーーーーー
申し訳ありません。前回色々反響を頂き、改めて読み直したのですが、確かに書きたかったことが上手く掛けていなかったなと思いました。
そのため、前回の話を少し修正しております。
仕事に追われろくに読み直しもせず投稿したのは流石に反省しております。
もうすぐこの第3部も終わりになります。
多分あと5話くらい?かと。
次の第4部はまた少し状況は変わりますが、基本は以前同様に怪談依頼を受けて解決というスタンスになります。
本筋の話はここで終わるので第4部はオマケくらいに考えて下さい。とはいえホラーのネタは色々仕入れたので期待して頂ければ幸いです。
長い作品ですが引き続き宜しくお願いいたします。
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