第254話 恐慌禁死のかくれんぼ7
「お、来たな」
栞と篤が現場にようやく到着した。既に周囲は封鎖されており、人の気配はほとんどない。現場のお化け屋敷の両隣にある建物の中にいた人たちも一時的に避難している状況だ。
「お待たせしました」
「いや、大丈夫だ。まだこっちも残りの霊能者を待ってる状況だからな」
そういうと神城当弥は電子タバコを口に咥え、少量の煙を鼻から出している。その独特の臭いに思わず栞が顔をしかめると当弥は苦笑いをした。
「悪いな。どうしても一服しないと集中力が保てなくてね」
「いえ、ただここ路上ですよ?」
「大丈夫、大丈夫。ポイ捨てしないから」
そういうとどこか軽い感じの笑みを当弥は浮かべた。
神城当弥。栞の母である沙織の実の兄であり、現在の刑事事件関係の仕事を一手に受けている人物。いつもどこか疲れたような顔でタバコを吸っている。とはいえ実力は確かだ。栞が霊視するためには対象に触り、数分近く時間をかけないといけないのだが、当弥はそれを触れただけで可能だ。
「あれ、空さんは?」
山城空。当弥さんの護衛であり、栞の父である和人の弟だ。元々格闘技をやっており、和人が最初に誘った人物でもある。その空がどこにもいない。
「どうしたんだい、栞ちゃん」
「ひぃ!? ちょ、なんで後ろにいるんですか」
後ろからいきなり声をかけられ、すぐに振り向くとニコニコと笑っているスーツの男性がいた。当弥よりも長身であり、いつも笑みを浮かべている。
「脅かさないで下さい」
「すまないね。一応周囲を調べていたんだ。どうしても周囲はビルに囲まれているから潜伏されていると面倒だろう?」
「それと脅かす事は繋がらないと思いますが……」
目を細めてそう言いながら栞は空を睨む。昔から悪戯好きのこの人がどうしても栞は苦手であった。もういい歳のはずなのにどうしてか子供っぽい所がある。とはいえ実力は本物だ。和人の作り上げた会社で間違いなくトップの実力者であり、神城の重要人物が外へ出る場合、必ず空が護衛に当たるくらいだ。
「篤君も久しぶりだね」
「お疲れ様です、空さん」
「ふむ、君も少し肩の力を抜きなよ。少なくとも周囲に怪しい設備、人物等はいなかった。そんなに緊張していると肝心な時に動けないよ?」
「は、はい。ご教示ありがとうございます」
とはいえ、篤が緊張するのも無理はない。いくら訓練を積んでいると言っても現場経験は浅く、常に周囲を警戒していないと落ち着かないのだ。そんな様子の篤を当弥は少し苦笑いしながら見て、そのまま視線を栞に移した。
「さて、栞。まず彼らを紹介しよう。参霊会から派遣された霊能者たちだ」
栞は篤の言葉を聞き、この場にいる見知らぬ3人へ視線を移した。男性が2人、女性が1人の3人組。全員私服を着ており、年齢も20代くらいの様子だ。ただこの場に来てから栞も篤もすぐに気づいていた。彼らの強い霊力を。
参霊会。日本の霊能者事務所において、倉敷と参霊会は2大事務所と呼ばれるほどその契約している霊能者の人数が多い。倉敷事務所がランクⅣ以上を契約条件にしているが、参霊会は特にそういった制限を設けていない。ただ、参霊会は入るのは簡単だが、残り続けるのは難しい事務所で有名だ。一定期間で成果を上げられない場合すぐに解雇処分となってしまう。そのため、参霊会に残り続けている霊能者というのは相当な才能に恵まれた人物だけとなる。
「……初めまして。今回、神城より研修としてここへ来ました栞と申します」
そういうと栞はゆっくり頭を下げた。その様子を見ていたショートカットの男性が少し驚いた顔をする。
「驚いた。まさかあの神城の者に頭を下げられるとはな。俺は参霊会の植島亮介。こっちは賀茂忠」
そういうと植島は隣にいる天然パーマの男性を紹介した。
「賀茂だ。よろしくな」
「それで、こっちは佐藤望だ」
最後の1人である女性を見る。しかし彼女はずっとスマホを操作していてこちらを見ていない。
「よろしく」
そういって手をあげているが目はずっとスマホに向けられていた。
「おい、望。もうスマホはしまえ。仕事が始まるぞ」
「ちょい待って。多分次のガチャで出るはずなの」
「はあ。ガチャは後でも出来るだろ」
「何言ってんの。運気的には今なのよ。ちょっと集中させて」
そういってずっとスマホを見ている佐藤を見て植島は小さくため息をついた。その様子を笑ってみている賀茂は植島の背中を叩く。
「亮介、こうなったらしばらくいう事聞かないし放っておこうぜ。それにどのみち他の奴がくる予定なんだろ?」
「それもそうなんだが……神城さん。確かもう1つ別の事務所からも来るって聞いているんですが、いつ頃来るんでしょうか?」
今回の仕事は普通の悪霊ではないと栞も聞いている。具体的な所は聞いていないが、ただ推薦されたメンバーが集まるという話だったはずだ。実際、参霊会の3人は恐らく全員ランクⅣ以上の強さを持っているのは間違いない。さらに植島という男に関してはランクⅥを超えている可能性すらあると栞は考えている。つまりそれだけの強さを持った霊能者がまだ来ると言う事だ。
「あの、最後の事務所ってどこの方なんでしょうか」
「そういえば俺達も聞いてないな。神城さんは当然知ってるんでしょう?」
恐らく有名な事務所だろうと栞は考える。
(そうなると倉敷事務所でしょうか)
スマホを見ていた佐藤さえ、僅かに視線を当弥に向けている。その場にいる全員が注目した。
「ああ。確か生須家の当主ご推薦の事務所なんだが、俺も初めて会うんだよな。空君は知ってる?」
「いえ、私も知りませんね。とはいえあの京志郎殿の推薦であればただ者では――」
そう話しかけていた空が不意に視線を後ろへ向けた。その行き成りの行動に少し驚き、栞もその視線を追って後ろを見る。
「――嘘」
そこに1人の男がいた。
銀色の髪をなびかせ、黒いスーツを着た男だ。口に黒い棒のような物を咥えており、見たところ外人のような容姿をしているが、ただ歩いているだけだというのにその身を纏う霊力は質が違うと一目でわかる。ただならぬ霊力にその場にいた参霊会の3人さえ釘付けになっている中、栞だけ違う感情に支配されていおた。
「――ん、栞? どうしたんだ」
最初に気づいたのは篤だ。突然現れた銀髪の男。それを見た栞の様子がおかしかった。何故なら。
「おい、急に泣いてどうした!? っておい!」
篤の制止を無視して一歩足を踏み出した栞。だが次第にその足取りは駆け足へと変わり男へ向かっていく。その姿を思わず茫然とみていた篤だったがすぐに追いかけようとして、腕を掴まれた。
「ちょ、離して下さい! 栞がッ!」
「落ち着きなさい。大丈夫です。――そうですか彼が和人の言っていた……」
「何言ってるんです空さん! 俺は栞の護衛なんです! 離れるわけには」
力強い空の腕を振りきれず、視線を栞へ向けると、その光景に篤は愕然とした。
「どこに……いってたんですかぁ――礼土君」
「悪かった。ただいま栞」
そこには男の胸に縋り付いて泣いている栞の姿だった。
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遅くなり申し訳ございません。
年内最後の更新になると思います。
今年も私の小説を読んで下さり、本当にありがとうございました。
来年も引き続きよろしくお願いいたします。
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