第252話 恐慌禁死のかくれんぼ5
いやぁいい映画だった。まさか銀玉に泣かされる日が来るなんてね。あの作品はギャグとシリアスのバランスが凄まじいな。個人的には漫画よりアニメの方が面白かった気がする。あれは声優が優秀なんだろうか。
「どうだった?」
「面白かった。最後のネオアームストロングサイクロンジェット砲が最高」
「完成度高かったよな」
こんなご時世でも映画館は普通に上映している。色々一段落? が付いたため、ケスカと適当にアニメの映画を見にきていた。後は帰りにピザの食べ放題の店にでも行ってこようか。そう思っているとポケットに入れていたスマホが振動した。
「ん……アーデ?」
当初はアーデやネム、ケスカを誘ったんだが、アーデからは「下品な作品はちょっと」
と言われ、ネムからは「配信の予定あるから無理!」と言われた。最初の配信で俺が放送に入ってしまったことをまだ怒っているのかもしれない。という訳でしかたなくケスカと一緒に映画を見に来たわけなんだが……。
「どうした?」
『ちょうど映画が終わった頃合いかと思ったのですが、今大丈夫ですか』
「ああ、ちょうど映画館を出た所だな。それでどうしたんだ」
計っていたのか。おっかねぇな。ただこうして電話してきたところを考えると急用だろうか。
『仕事の依頼のようです。京志郎さんから連絡がありました』
「京志郎さんから……?」
一応SNSにそれっぽくアカウントをもう一度作り、仕事の依頼がないか待っている状況ではあった。とはいえまだ登録したての事務所であり、無名の俺たちにそうそう仕事が入ってくることはまあない。だからこそ宣伝活動としてSNSをもう一度始めたわけだ。
京志郎さんから聞いた所、霊能者事務所の仕事というのは、仕事の依頼は大体2つに分かれるらしい。
1つは一般人。どこどこに悪霊が出たので退治してほしい。誰々が憑りつかれたので祓ってほしい。などなど。全員が霊能力を保持していても、それに伴って霊も強くなっているため、憑りつかれる人はそこそこいる。というか以前より増えている印象だと京志郎さんは言っていた。
もう1つはIPOつまり国からの依頼。とはいえ基本的な内容は一緒だ。ただ違う点とすればその難易度だろうか。当然こちらからの依頼の方がギャラも良く、多くの事務所は国からの依頼を受けられることを目標にしているとの事だ。
「そうか。京志郎さんは何か言ってた?」
『少々厄介な匂いがすると。被害が広まらないうちに対処したいため力を貸してほしいと言っていました。どうされますか』
「受けるさ。選べる立場でもないし、京志郎さんからの仕事だしな」
『ではそのようにお伝えします。仕事内容の打ち合わせ段取りを進めても?』
「ああ。頼んだ。俺もすぐ帰るよ」
通話を終え、いつのまにか俺の背に昇っているケスカの頭を撫でる。
「すまんな。ピザは中止だ。後で出前でも取ろう」
「わかった」
さて、あんまり外に長居しても周囲の目が気になるし一度戻るとしますかね。
ちなみに我が勇実心霊事務所はまだちゃんとした事務所を持っていない。正確にいえば場所は抑えてあるが家具などを手配中のため人を招くような場所になっていないのだ。流石に今回は同居人もいるし自宅を事務所代わりにはできないしな。そんなわけで現在アーデの方でその辺りの段取りをしている所だ。
家に戻るとリビングにアーデとネムがいた。
「あれ、ネム配信があるとか言ってなかった?」
「あったけど、アーデが乱入してくるんだもん。中断しちゃった」
ああ。俺と同じことをしたのか。でもまだマシだろう。俺の時なんて顔が映ったとか言ってたし。
「背信などしている暇があれば手伝って下さいと言ったのです。どうやらこの手の作業はネムの方が得意のようですし」
「だーかーらー。絶対アーデはなんか勘違いしてるって! やましい事してないよ!」
「何を言っているんです。部屋に籠って不特定多数の人々に向かってカルト教の教えを説いていたではありませんか」
「それは、そういうゲームなんだって……」
ああ。俺と同じ勘違いをしているのか。まぁ放っておこう。というかだ。
「何してんの?」
「打ち合わせの準備です。最近は直接出向かなくてもこのような方法で打ち合わせが出来るそうですよ。牧菜さんからそういったアプリのアカウントも教えて頂きましたので折角ですからその準備をしているのです」
「へぇ。なんかすげぇな」
漫画みたいだ。ちょっとかっこいいな。
「もしかしてそのタブレットでビデオ通話をする感じ?」
「そんな感じです。もうすぐ準備できますので、着替えて下さい」
「え……必要ある?」
「あります。私も着替えてきますので急いでくださいね」
またあのスーツ着るのか。家で着替えるの面倒じゃないか……。
「なあネム。それってどの範囲まで映るの?」
「えっとね。テストした感じだとちょうどここから上かな?」
そういうとネムは自分の胸辺りに手を置いた。ふむ、つまり上半身しか映らないと。なら上半身だけ着替えればいいんじゃないだろうか。あれ俺って天才か?
「礼土。中途半端に着替えないように。いいですね」
「――はい」
『久しぶりというべきかな。礼土殿、アーデ殿』
「はい、お久しぶりです京志郎さん」
結局フル装備で着替えた俺とアーデはリビングでタブレットの前に並ぶように座っている。画面にこちらの画像も見えているが、やはり上半身しか映っていない。これなら気を付ければ十分行けそうな気がするんだがなぁ。
『さて、さっそく今回の依頼についての説明をしよう。今回は儂の所へIPOの日本支部より連絡が来たのが切っ掛けだ。腕のいい霊能者を紹介してほしいとな』
IPO。つまり国からの依頼という事か。この手の依頼の場合、難易度が高いって話だったけど、どういう依頼なんだ。
「そこで私共をという事でしょうか?」
『その通りだ、アーデ殿。儂が言うべきことではないのだが、あまり生須一族は信用ならん。それよりはお主たちの方が余程信頼できる。それにこの依頼を切っ掛けに礼土殿たちの名も広まる。少なくとも仕事に困る事はないだろう』
色々言ってくれているが、恐らく後者が本当の所なのかもしれない。つまりこれをきっかけに俺達の名前を広めようとしてくれているんだろう。ならその期待に応えないとな。
「それでどんな内容ですか」
『ふむ。まず前提として今から話す内容はここだけのものとしてほしい』
ん、思ったより込み入った話なのか。俺とアーデは視線を交わし、ゆっくりと頷いた。
『すまぬな。まず今回の霊は通常の霊ではない。IPOでは”
そこから京志郎さんが語った内容は俺たちには驚きの話だった。
今回の事件、場所は都内にある”廃病棟のかくれんぼ”というお化け屋敷だそうだ。そこに悪霊が住み着き、霊界領域となっているらしい。だがその強さが生まれたての悪霊にしては強すぎる。既にランクⅤの霊能者が現場へ入ったそうだが、未だ戻らない。恐らく既に死亡していると予想されているそうだ。そのため、件の悪霊は既にいた従業員、客、霊能者チームの大人数を喰らっているとの事。現段階での霊力測定はランクⅥ。生まれたての悪霊がここまで強くなることはまずないそうだ。例外を除いて。
その例外として真っ先に上がったのが
端野弘之。彼は自宅で自分の父親を殺害していた。
『しかも相当残忍な殺し方だったそうだ。包丁で父親の両手、両足を刺し、身動きが取れなくなった父親の顔を深夜から朝にかけてゆっくりと切り裂いていたという。死亡推定時間は朝8時。警察が発見した際の父親は顔の原型をとどめておらず、最後心臓を刺すまでは
それは……随分恨みがあったんだろうな。
『端野は出勤後、自宅から持ち出した包丁でスタッフ7人を殺害。その後、自分の心臓を刺して自殺したそうだ。そしてその後、悪霊となり、残りのスタッフとその場に居た客をすべて殺害したという』
「随分詳しく状況がわかっているのですね」
それは俺も思った。まるで見ていたかのようだ。
『現場に呼ばれた神城家の者が霊視したのだ。今回の現場責任者にもなっている。今回礼土殿に声をかけた理由の1つはここにもある。現場に来た神城一族は2人。そのうち一人は神城栞という名だそうだ』
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