第239話 霊能者試験8

 ――勇実礼土 視点――


 あの変な玉を回してから案内された部屋へ行くと桐島君だけが待っていた。他にも受験者はいたはずだけど他の人たちはどこへ行ったんだろうか。



「お疲れ様です。ここへ来るのは2次検査を予定している人だけなんですよ」

「っていうことは、今の所俺と君だけか。なら後はアーデが来るのを待つだけかな」

「そうですね。恐らく今回の受験者の中ではそれで全部だと思います」




 そうして少し待っているとアーデがやってきた。この辺りは予定通りだ。

 

 

「どうでした礼土」

「ばっちりだ。ちゃんと全部回せたぜ」

「それは心配しておりません。変な事はしていませんか?」

「ああ。別に壊したりしてないさ」


 

 ただ回しただけだし問題ない。大丈夫なはずだ。


「アーデはどれくらい回したんだ?」

「私は10周ですね」



 ……え、10周だって? 聞き間違いじゃないよな。


「10ですか!? それはすごい。上手くすればランクⅥは狙えそうですね」



 そう桐島君が絶賛していた。へぇそうなんだ。10周でランクⅥなんだ。


 

「礼土はどのくらいだったんですか?」

「あ、ああ。同じくらいだったんじゃないかな。ちょっと数えてなくて」

 


 大丈夫だ。バレやしない。どうせさっきの検査はⅣまでしか測れないって聞いたんだ。大丈夫、次だ。次がんばろう。

 

 

「そうですか。それにしても色々気になる事が多いですね」

「ん? 何がだ」

「あの霊石です。霊力に反応するという鉱石という事でしたが、どういう経緯で発見されたものなのでしょうか」



 ああ。あの妙に光る石か。確かに今までの地球にはなかったような気がするな。すると横にいた桐島君が答えてくれた。



「霊石ですか? あれはアマチという会社が開発した人工鉱物のはずですね」

「そうでしたか。結構有名な会社なのですか?」

「はい。世界で広まっている霊力に関する製品の9割はアマチが開発し販売していると言われています。道路などに設置されている霊避けもアマチが開発した製品だったはずです」



 へぇそりゃすごい。……ってこの世界に変わってからまだ1年だよな。随分手が早くないだろうか。



「――中々興味深い会社のようですね」

「ええ。今では日本が誇る一大企業へと変わっていますからね、ああ次の試験の会場へ移動するみたいです」



 桐島君がそういうと視線の先に職員が2人来ていた。さて次は何をやるのかね。そう思いながら2人の後について移動する。一度廊下へ出てまた違うフロアの扉を通った。そこは通路になっており、ガラス越しにフロアの向こう側が見える。あれは地下までぶち抜いているのだろうか。



「へぇまたデカいね」

「――そうですね」



 地下に見えるのは直径2mはある巨大な霊石だ。青白く光っており、空中に浮遊している。ただ最初にみたやつと何か雰囲気が違う。なんというか少し波打ったような感じがする。これはまるで――。



のようですね」



 アーデの言葉に俺は納得がいった。そうだ、まるで水が宙へ浮いているような印象を覚える。形が球体の形をしているが、どこか不安定な感じがする。




「そのままお進み頂き扉を超えた場所にある椅子でお待ち下さい。順番にお呼びします」


 前を歩いている職員がそういうといくつか並んでいるパイプ椅子がある。とりあえずそこに腰を下ろすと職員がまた話し始める。



「では最初は桐島さん。あちらの階段から下へ降りて下さい。突き当りにある扉の先になります」

「わかりました。ではお先にいきます」



 そういって桐島は少し頭を下げて先に行った。



「やはり妙ですね」

「さっきの話か?」

「そうです。霊力という力が明確に発現したのが1年前。たった1年でここまで設備が整っているのは異常だというお話をしたの覚えていますか?」

「そりゃもちろんだ」



 法律、環境、人々の関心。まるでもっと前から始まっていたような環境が整っている。



「地球の神の仕業により、人々の意識さえ書き換えられ、霊というものを受け入れている。そう考えていました。ですがそれだけでは説明の付かないものがいくつかあります。その最たる例があの霊石です」

「ん? 霊石がか」

「はい。先ほどの検査で職員の方に色々質問してみました。どうやらこの霊石は一般人ではまず入手は出来ず、主に企業、学校などの法人向けでしか販売がされていないそうです。しかもこの石が世に出回ったのは霊力が発現するようになってから2か月後。あまりに早いと思いませんか?」

「それは――」



 確かに異常だ。未知の力を手に入れてたった2ヶ月でそれに反応するような鉱物を作る。どう考えてもありえない。




「この一件、ただの神の悪戯であると断定するのは早計に思います。もう少し色々調べてみる必要があるでしょう」

「なるほどね……」




 確かアマチっていう会社だったか。コーヒー覚悟に後で田嶋にでも聞いてみるか? そう決死の覚悟を決めていると職員がこちらに歩いてきた。



「勇実礼土さん。どうぞこちらへ」

「ああ。じゃあ行ってくるよ」



 そういって立ち上がる。アーデは目線でやり過ぎるなと言っているのがよくわかる。とはいえ安心してほしい。ようは前回と同じ感じでいいんだろう。そう思い自信満々に頷くとすごい不安そうな顔をされた。遺憾である。



 階段を降りそのまま進む。開け放たれた扉を通ると先ほど見かけた2mの巨大な霊石がガラスケースの中に浮かんでいる。どうやら職員は1名しかいないようだが幾重ものカメラが設置されている所を見るとモニターされているのかもしれない。


 ん? このフロアの一角へ視線を送る。色々機材が並んでおりごちゃごちゃしており、それを隠すようにパーティションがある。その後ろに人の気配がする。人数は3人。



「お待ちしておりました。では2次検査を始めようと思います。まずあちらの手の形をしたくぼみに手を置いて下さい」

「……あの。その前に誰かいません?」

「え? ははは。多分作業している職員だと思います」

「はあ。そうですか」



 なら何故隠れているのだろうか。まあいいか。大した気配でもないし気にしなくていいだろう。



「ちなみにこれも回るんですか?」

「それは我々にも分かりません。この水霊鉱石は1次検査で使った青霊鉱石とは違い液体に近い性質を持っています。水霊鉱石は霊力に反応しその形を変化させます。より強い霊力であれば水霊鉱石もより複雑な形へ変化させます。例えばランクⅢ程度の私が触れても表面に波打つ程度で殆ど形が変わる事がありません」



 いきなり専門用語を言われてもわからんぞ。青霊鉱石ってのは最初の回るやつの事か。なら水霊鉱石ってのはこれの事だろうか。つまり霊力を込めると何かしら形が変わるって事ね。




「参考までにランクⅥの人ってどんな形に変わるんです?」

「ランクⅥですか? そうですね。過去の記録ですと動物の形になった人もいるみたいですよ」

「へぇなるほど」




 つまり動物の形になればいいんだな。なら楽勝だろう。可愛く愛くるしいおサルさんでも作ってやろうじゃないか。


 


 そう気軽に俺はくぼみに手を置いた。





 その時だ。







 球体の形をしていた霊石が一瞬で剣山を丸めたように針を伸ばした。そしてその針が溶けるように下へ落ちていく。するとその中から薄い膜を何重にも重ねた球体へ姿を現した。その膜には1つ1つ細かな幾何学模様があり、それぞれが独立しているかのようにゆっくり乱回転している。そしてその中心にある球体が赤く染まり、それがまるで血のように伸びて形成され次第に複数の人の腕と眼球が形成され――。




 俺はその瞬間手を離した。





「あ、あの……これは……」




 職員が目を見開いたまま言葉を一生懸命絞り出そうとしている。俺はすぐに静止した。



「待て。やり直しだ。今のはなしにしてくれ」

「いえ――ですが――あそこまで複雑に、しかもまだ何か……」

「頼む。俺の霊力はランクⅥのはずだ」

「いやしかし。あれはどう考えも……」

「調子が悪かっただけだ。今度は本気でやる。だから今のはなかったことにしてほしい」



 そうだ。調整が甘かった。もっと霊力を抑えるべきだったのだ。基本楽観的な俺でも分かる。あのままだと確実にやばかった。



「え……今のが本気ではないと?」

「そうだ。今度こそ本気でやろう」





 指輪をはめた手を強く握る。そして念を送った。





 分かっているんだろうな、空気を読むんだぞ。いやマジで。


 

 



 

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