第154話 転移

 目の前にいる人の形をした何か。だが俺はよく覚えている。なんせ俺を地球へ転移させた張本人なのだ。


「なんだ夢か? 夢なのか。夢ならお前を殺せるはずだな」


 魔力を練ろうとするが上手く行かない。くそ前と同じか。だったら殴るまでだ。足に力を入れ前に踏み出そうとするが前に進まない。まるで宙吊りにされた状態のようだ。いくら足を動かそうとあの爺を殴る事が出来ない。



『落ち着くのだ。レイド。いやマジで落ち着てくれ』

「うるせぇ! さっさと俺の夢から出ていけ!」

『すまない。お主に頼みがあるのだ』

「はぁ!? もうお前の依頼通りに地球で頑張ってんだろうが!」



 もっとも今は楽しんで生活しているがそれは内緒だ。さて考えろ俺。いい加減この爺には何かしないと気が済まんぞ。いやそうかアレがあったな。最近人にいつでも渡せるように付けるようになった指輪。それを指から外し全力で投げた。


『ぬぉ!? な、なんじゃ! この痛みは!?』

「ふはははは! 馬鹿め! 新しく魔力が練れなくてもその前から込めていた物は別みたいだな!」


 もう1つ指輪を外し投てきする。頭部と思われる場所に当たり殴られたように頭がずれた。


『ぬぉぉ! や、やめるのじゃ。っていうかなんじゃこの馬鹿みたいに魔力が込められた物体はぁ!?』

「さあて、なんだろうなぁ。とりあえず死ねやぁ!!」

『ひぃっ! レ、レイドよ。落ち着け! アルヴヘメノスに危機が迫っておるのだ!』

「いや知らねぇって。どこだよ、それ」

『アルヴヘメノスとはお前が生まれた星の名前じゃよ。ちょうど先日だ新たな魔王デュマーナが誕生したのじゃ』


 魔王だと? この間あの老いぼれと話してた通り時間軸が随分違うみたいだな。まさかもう10年経過してんのか。


「そんなもん勇者がいるんだ。そっちに頼れ」

『いやお主の次の勇者ではデュマーナは倒せぬ』


 そんなもん知らんがな。


「負けたらまた10年後に生まれる勇者が倒すんだろ? 確かその時の魔王よりちょっとだけ強い勇者が生まれるんじゃなかったのか」

『違うのだ。レイドよ。魔王デュマーナはを目論んでおる。既にクリスユラスカ大陸の人間はすべて死んだ。魔王デュマーナは数名の魔王幹部と真祖の吸血鬼であるケスカとその使徒を従えて完全な人類殲滅を計画しているのじゃ』


 クリスユラスカ大陸って確かヴラカルド帝国がある大陸の次にデカい大陸じゃなかったか。っていうかあの吸血鬼サンドバックまた暴れ始めたのか。



『人類が滅んでしまえばもう勇者は生まれぬ。それを狙っているのじゃよ』

「いやっていうかさ。相手よりどんどん強くなっていくっていう謎システムあるならその内そうなってたんじゃないのか?」

『その問題は確かにあった。だがこの歯車が狂った一因はお主にもあるのじゃぞ! どう考えてもデュマーナはお主を基準に強くなった魔王なのじゃ』


 いやそんなの俺を追放した時点で想定出来ただろうがよ。無能か。無能なのか?


「だったら俺の時みたいに、適当に拉致ればいいじゃん。あ、地球に送るのはやめろよ? 流石にこっちで、全力で暴れたくないからな」

『――のじゃ』

 

 は? なんだって?


『それが出来んのじゃ! せめて無防備に眠ってくれれば向こうの陣営である邪神の奴がこの管理領域に拉致れるのじゃがあのデュマーナはまったく眠る気配がない。それどころか魔王として目覚めてからかなり活発に動いておる! 何度か向こうの神官に邪神経由で休め、眠れ、ある程度人類は残せと神託を送っているのに悉く無視をする! もうどうすればいいんじゃ!』


 そういや俺が拉致られた時も酒飲んで寝てたな。


「いやそこは頑張れよ」

『やれることはやっておる。邪神なんかは地球の管理者に頭を下げて有能そうな地球の人間を何人か借りてアルヴヘメノスに送ったと言っておった』

「はぁ!? てめぇ何してんだ!?」

『言っておくがこの提案は地球の管理者側からじゃぞ。基本我らは退屈を嫌い、遊びに飢えておる。儂らは勇者と魔王を戦わせているだけじゃが、地球では人類同士で争わせ、たまに災害などを起こして人類の反応を見て楽しんでおるのじゃぞ。今回も何か楽しそうだし、頭を下げればこっちの人間貸してあげてもいいよと話しておったそうじゃ』


 ――どの世界も神って奴は最低な奴しかいないのか?

 

『別の世界の住人であれば世界移動の際に、儂らが力を授け、それこそ勇者に匹敵する力を与えることも可能だと話しておった。もう人類を存続させるために儂らも手段を選んでおれん。だからこそ――レイドよ。どうか、どうか。今一度アルヴヘメノスへ戻り魔王を倒してほしい』


 

「ふう――お断りします。まだ仕事が残ってますので」



 この間大胡から相談貰ったんだが、新しいお菓子のCMがあるらしいんだよな。報酬でお菓子が貰えるならやってもいいかなと最近少し悩んでいた。そろそろ返事をした方がいいかもしれない。



『すまぬ。無理やりでも行ってもらうぞ。アルヴヘメノスの勇者魔王システムを一度リセットしなければならぬ。そのためには暴れまわっている魔王デュマーナが邪魔なのじゃ。褒美にお主をアルヴヘメノスへ戻してもよい』

「いやそれは本気で断る。はっきりいって俺はあの世界に未練は……」



 先日見た夢を思い出す。あれもある意味未練なのかね。――どうせ無理やり拉致られるなら報酬でもねだるか。



「――そうだな。こちらの条件を飲めば協力してやってもいい」

『本当か! 大体の事は叶えられよう』

「まず1つ。前提の話だが俺は地球から離れるつもりはない。だから魔王を倒したら俺を地球に戻せ」

『承知した。その程度問題ない』

「次の条件だが――――」





 俺の話を聞いた爺が少しの沈黙の後に語りだした。




『ふむ。出来なくはない。じゃが勝手に決めてよいのか?』

「ああ。どうせ色々リセットされるなら別に構わないだろうさ。それにあいつも窮屈そうにしてるだろうしな」

『一応言っておくが死んでしまってはどうしようもないぞ?』

「殺させるわけないだろう。俺を誰だと思ってんだ」


『――そうじゃな。ではその条件を飲もう。邪神は地球人を召喚したために力を使い果たした。儂もお主を召喚するために力を使う故、援護は出来ぬ。無事にデュマーナを倒した時に改めてお主に接触しようぞ』

「ああ。わかった。それでいい」

『レイド。他に何か要望はあるかの? 出来るだけの事はしよう、あまり無茶な要望は叶えられんがな』


 ふむ、随分太っ腹だな。それくらい本当に何とかしたいって訳か。とはいえ別にそんなものは……。


「そうだな。ここなら俺の記憶も読めるのか?」

『可能じゃ』

「なら俺が今思い浮かべている奴があるだろう?」

『あるにはあるが――何なのじゃそれ』



 貴様には分かるまい。これこそ地球の叡智の結晶よ。


「それを無限に出せるような道具とか作れないか?」

『そうじゃの。お主の魔力を対価に召喚という形ならいけるかの』

「ならそれでいい。どうせ在庫は山ほど家にあるからな。あとそうだ、ついでに聞きたい事があるんだが」

『なんじゃ』


 ついでだ。魔王の件を聞いておこう。


「この間、魔王の記憶をもった人間と会ったんだが神々爺たちはは何か知ってるか?」

『む、待てなんじゃそれは。確かに死した魂は、別世界へ転生し赴く仕組みになってはおるがその際は記憶の処置などはしっかり行っているはずじゃ』

「だが実際に魔王としての記憶を後天的に手に入れたって奴がいたぞ。あと魔法も使ってたらしいな」

『――もしその話が事実であれば、魔人陣営を管轄しておる邪神が何かしているかもしれぬな。少なくとも儂は勇者が死んでも他の人間と同様にまっさらな魂にして地球へ送り出しておる。そしてこれは地球でも同様じゃ。向こうで死んだ魂はこちらの世界に来て人間か、魔人としてまた生まれ変わる。そう決まっておるのじゃ。しかしなぜそんな事を……』


 

 っていうか死んだ魂は別の世界で生まれ変わるのか。そっちの方が驚きだな。


『魂の劣化と、新たな進化を促すためじゃ。それゆえどちらの世界でも時が経つにつれ人の文明は進化しておるじゃろう。もっとも地球はその文明を少々発達させ過ぎているような気もするがの。まあよい。その件は儂の方から邪神に聞いておくとしよう』

「そうか。じゃたのんだ」

『では、勇者――いや勇実礼土よ。どうか頼んだぞ』



 まさかまたあの世界に戻るとはな。そう思いながら俺は意識を落としていった。

 

 


ーーーー

こちらで区切りとなります。

お付き合いいただき本当にありがとうございました。

今後の流れなど近況ノートに書いておりますので、よかったら見て下さい。

https://kakuyomu.jp/users/calcal17/news/16817139556266032120



また、ここで本編の更新は一時とまります。

というのも番外編で5年前の話を書いておりますが、そちらを魔王誕生まで書く予定だからです。といっても魔王誕生まで馬鹿正直になくと100話あっても足りなくなるため、どうしても必要な個所だけチョイスして文章化いたします。

恐らく本編開始予定は多分1週間後くらいかなと思います。


こちら最終章の5年前を書いている番外編です。お待ちいただく間に見ていただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16817139555547041033


恐れりいますが、それまで少しお待ちいただけますとうれしいです。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


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