第144話 恋々8
さて、あの
「く、くるなッ!」
怯えたように後ろに後ずさる長谷川の元へ行く。最初のすまし顔が随分と崩れ恐怖で歪んでいるようだ。長谷川との距離があと数メートルという所で
「い、いけ! あいつを殺せッ!」
六本の腕をまるで蜘蛛のように動かしながらこちらに近づいてくるがわざと無視をする。魔法で拘束する事なんて容易いが多分こっちの方が恐怖を煽りやすいんじゃないかと思ったからだ。
「ひ、ひぃッ!」
甲高い声を上げ逃げようとする長谷川の襟首を掴み、壁に叩きつける。その間も
「もう一度聞くぞ。お前の知ってる限りでいい。区座里について話せ」
「き、教徒区座里は……数か月前に星宿へ入信した教徒だ。だが、あいつは妙な術を持っていてそれを教祖である
妙な術。伝承霊のことか?
「それで?」
「
待て待て。
「そのための伝承霊なのか?」
「そうだ。我ら幹部が伝承霊を使い各地に呪いをばらまき、呪いを強く育てる。そして十分に育った呪いを
「そりゃどういう意味だ。死を克服した?」
「私は失敗した。十分育てたと思っていた
だめだな。情報の整理が必要だ。今の話が本当だとした場合、区座里はあの時一度死んだが復活したってことか? 呪いを使って死を克服するって意味が分からん。これは一度区座里を探し出す必要がやはりあるか。――いや待て。
《我ら幹部が伝承霊を使い各地に呪いをばらまき……》
締め上げていた長谷川の顎を横から叩き昏倒させる。そして俺の身体に纏わりついていた
「逃がすと思うか」
俺を中心に魔力を直径2キロほど展開する。高密度の俺の魔力の中を動く人間を捕捉した。走ってここから逃げようとする人間だ。恐らくあいつだろう。俺は振り返り長谷川と
Side 渋谷蓮
「はあ、はあッ!」
俺は必死に走った。長谷川さんが残り、最初玄関を塞ぐような形で、外で待っていたがいつもなら聞こえてくる人の絶叫がまったく聞こえてこない。何かおかしい。そう思い玄関を開き中を確認して絶句した。
長谷川さんの
だから俺は求めた。あの力が欲しかった。今までのコネも使い、この辺の
「はあ、はあ」
長谷川さんがどうなったか分からない。もしかしたらもう死んでいるかもしれない。なら次は? 間違いなく俺だ。いやだ。こんな所で死にたくない! 周囲の視線も気にせず、ひたすら走る。タクシーをどこかで拾うか? いや電車に乗って人混みに紛れるべきか? そう考えながら走っていると突然壁に叩きつけられた。
「ぐあッ!」
「おいおい。どこに行くんだ?」
痛みに耐え、視線だけで横を見るとあの外人がいた。笑みを浮かべ、俺の頭を鷲掴みにしてコンクリートに押し込んでいる。頭部から血が流れるのを感じながらどうすればいいのか必死に考える。元々星宿に対する信仰心なんてない。ただ便利な力が手に入りそうだから近寄っただけだ。それが俺の命を脅かすものになるなら捨てる事に躊躇などあるはずがない。
「あんたの言う通りにする! だから助けてくれ!」
「なんだ、随分大人しくなったな。長谷川という男の仇を取ろうとは思わないのか?」
「思わない! 俺は自分が一番かわいいんだ! 全部あんたの言う通りにする! 何が聞きたい? 何をすればいい?」
すると掴まれていた頭が解放され、ようやく俺は傷が出来た箇所を手で抑えながら改めて目の前の外人の姿を見た。あの薄暗い部屋では分からなかったが、映画でしか見ないような整った顔の外人だ。きっと人通りの多い場所に行けばすぐに逆ナンされるだろう。だが今はこの整った顔の浮かべる笑みが恐ろしくて仕方ない。
「お前も星宿の幹部だな。伝承霊を持っているだろう?」
「い、いや俺は持っていない。ッ! 違う本当だ! 信じてくれ!」
胸倉をつかまれ片手で持ち上げられる。信じられない、俺の体重は60以上あるんだぞ? それをこうも簡単に片手で持ち上げるなんて。
「あ、あの伝承霊は使用者に呪いが返るリスクがあるんだ! だから俺はやり方を変えたんだ」
「やり方だと?」
「あ、ああ。こっくりさんって知ってるか? 割とポピュラーな降霊術なんだが、それを使って、近所の高校に流行らせたんだ」
そう話すたびに目の前の男の形相が変わっていく。だが適当な事を言えば殺される。そのくらい俺にだって分かるんだ。だから洗いざらい吐かないと!
「ベースはさっきあんたも見た
「どこの高校だ?」
「し、知らない! 説明だけして弟に預けたんだ! 何か知らねぇが最近停学になったらしくて随分気が立ってたから上手く行くかと思って弟に任せてたんだ、本当だッ!」
そこまで言うと、ようやく掴んでいた胸元を放して貰え、俺は重力に従ってそのまま尻を地面に落とした。尻の痛みを我慢しながら少し大げさに咳き込みしつつ、もう一度この外国人の目を見て――絶句した。
「――どこだ」
俺は甘かった。世の中には本当に怒らせちゃいけない奴がいる。どこかで分かってたはずなのに、俺は踏み外したんだ。
「弟は、多分俺の知り合いの店にいるはず、です」
「案内しろ」
俺はただ頷く事しかできなかった。
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