第61話 コーヒー牛乳って知ってるかい?

Side 勇実礼土


 いつからだろうか。

以前の世界では睡眠時間などは大体3~4時間くらいだった気がするが、この世界に来てからは8時間から10時間は眠っている。

最初は環境が変わり、また寝るための寝具のレベルが以前の世界とまるで違うから今まで以上に眠りが深くなったのだろうと思っていたが、どうやら違うようだ。

先日の桐也との動画撮影の後、予定してなかった4日目の撮影の日。

山から朝帰りしてすぐに近くのホテルまで移動した。

そのまま風呂に入り、食事を食べ、自殺岬という場所へ移動した。

それまでの間、俺は一切睡眠はとっていない。多少の眠気はあったが、少しでも自由な時間があった時は医学系の漫画を読んでいたのだ。

また夜まで時間をつぶし、問題の心霊スポットへ移動。

確かに霊はいた。たが、それほど強い霊でもなく、簡単に祓えたためにあまり気にしなかったのだが、問題はその日の夜だ。

俺は自室へようやく帰り、そのまま眠りについたのだが、起きたのが次の日の夜だった。

そうだ、俺は20時間以上眠っていたのだ。

今までにはない、ありえない睡眠時間。

確かに疲れていたが、以前の世界であればあの程度は日常茶飯事でもあった。

であれば、原因は何かという事になるが、これはある程度すぐに想像がついた。



 そう、魔力回復に時間が掛かっているとみて間違ないだろうと考えたのだ。



 あの日、人穴墓獄の霊を祓った時に使った魔力は俺の全魔力の10%くらいだ。

馴れない回復魔法を使ったために随分余計な魔力を使ったと自覚している。

だが、それを回復するのに約20時間の睡眠が必要と考えると単純計算で考えれば1%回復するのに2時間の睡眠が掛かったと見るべきだ。

以前であれば3時間も寝れば全回復していた魔力。

それがこの世界で回復に時間が掛かっている原因はやはりこの世界に魔力がないため、

周囲の魔力を取り込み回復出来ないため、自分自身の力で回復するしかなかったからだと考えた。


 そして俺はここ数日、回復魔法の練習を行っていた。

自分の魔法で自分の腕を切り、それを治癒させるという行動を繰り返す。

流石に切断するレベルの傷を自分で負うというのはリスクが高すぎるため実験できていないが、それなりに深い切り傷と骨折程度であれば問題ないと判断し、自傷行為を行った。

以前、拓の骨折などの重傷も治癒できたという実績から考えても、一度治癒できたのであれば回数をこなせば間違いなくできるという自信もあったからである。

当然であるが、この練習は利奈や栞には見せていない。

流石に自分で指を折ったりしている現場を見たら発狂するだろうと思ったからだ。


 やたら多くくるDMはすべて利奈と栞に丸投げし、しばらく客を取らないように伝え、俺はひたすら魔法の練習に没頭していたのだ。

回復魔法についてはある程度形になった。

ただし、魔法を使う際にどうしても水が必要になる。

最初は同じようにコーラを使っていたのだが、毎回毎回手がベトベトになるわ、そのために買うという行為も、何か生産者の方に申し訳ないという気持ちもあり、早急に使用する媒介は水へ変更し練習をこなしていた。

いずれ、水という媒介を使わずとも回復魔法を使えるようになりたいが、それは後でいいだろう。

問題は――



 俺は目の前のコーヒーを見る。

利奈に入れてもらい、用意してもらったものだ。

どうしても回復魔法を使う過程で睡眠時間が多くなり、利奈が気を利かせてコーヒーを入れた事があった。

俺は困惑したが、流石に好意を無碍にするわけにいかず我慢して飲んだのだが、そこで気づいてしまった。



 




 理由はさっぱりわからない。

だが、今後のことを考えれば魔力回復薬は絶対に必要になると思うのだ。

俺の魔力量のキャパの問題でなく、一度寝たら回復するまで深い睡眠に入るというのを危惧しているのだ。

一応目覚ましとか使えば問題なく起きれるのだが、自力で目を覚ますのが困難である以上対策は必須。

であれば、俺はこの問題を克服する必要があるという事だ。




 ちなみにブラックはだめだった……

以前飲んで、一応もう一度試してみたが、やはり二口目を飲もうという気力が湧いてこない。

次に砂糖を入れてみた。

飲んでみると、確かに多少は苦みが軽減されてはいる。

だが、それでも多少なのだ。

流石に角砂糖5個も入れれば大分飲みやすいのだが、これは多すぎると自分でも理解できるし、どうしても昔の性分で砂糖は貴重品というイメージがあり気が引ける。

そして最後だ。



 そしてこれが最後の手段。



 そう、カフェオレだ。



 牛乳を入れる事により、この漆黒の闇に光が入り込み新しい『カフェオレ』という飲み物に進化を遂げるようだ。

ゆっくりカップに手を伸ばし、わずかに口の中へ入れる。



「――ッ!」



 の、飲める?

うん、飲める。普通に飲めるぞ?

魔力回復もしているようだし、これは――なるほどなるほど。


「どうです礼土さん、コーヒー牛乳おいしいでしょ?」

「あれ、カフェオレっていうんじゃないの?」

「え? 多分一緒ですよ。名前が違うだけじゃないですかね?」

「そういうもんか」


 うん、これなら大丈夫だ

どうやら田嶋の持ってくるコーヒー豆を無駄にしないで済みそうだな。


「お代わり作りましょうか?」

「ああ、頼むよ」


 残りのカフェオレを飲み干し、空になったコップを利奈に渡す。

そして手元にあるスマホに目を通していた。

それは以前依頼を受けた千時武人からDMが来ていたのだ。


『勇実礼土様。ご無沙汰しております。お元気でしょうか。こちらは愛奈ともども元気に過ごしております。実はひとつ相談したい事がありご連絡をいたしました。近々お会いする事は可能でしょうか。ご検討の程よろしくお願いいたします。千時武人』



 ふむ、新しい依頼だろうか。

まぁとりあえず会ってみよう。

勇実心霊相談所のSNSに来るDMに今の所まともな依頼もなさそうだしな。




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お読みいただきありがとうございます。

仕事が少し詰まってきたため、明日の更新はもしかしたら出来ないかもしれません。

申し訳ありません。

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