あと1分の男

劇場版田中

あと1分の男

「検査の結果、もってあと1分ですね。」

 医者は深刻な顔をし、残念ながらと付け加え、俺に向かって言った。




「ほんとにあと1分しかもたないんですか!?」

 不満を感じるよりも先に困惑した。


「ええ、もちろん。あ、でも今結構ゆっくり喋ちゃってたからあと52秒だ。ははっ」


 医者は俺の不幸を楽しんでいやがるのかもしれない。



 現代では医療が発達したことで、秒単位で正確に予測でき、それはホルモンの分泌量を検査することにより、、、と医者が説明を始めたが、何を言っているのか頭が追いつかなかった。


 しかし徐々に状況をつかみ、困惑が薄れてくると、次は不満が頭を出してきた。


 なぜこんなにも短いんだ。今まで真面目に生きてきた俺がなにをしたって言うんだ。

 先月20歳になって、大学のサークルも始まり、女子との出会いも増え、さあこれからだというときに。

 大体こういうのは3~5か月とかが相場じゃないのか。

 神様、いや、神のやろうはなんて理不尽なんだ!



「あと10秒なんでカウントダウンしますね。」

「やっぱ楽しんでますよね?」


 担当医がこいつだったことは二つ目の不幸であるが、

 何人もの女性の看護師が僕の手を握り、懸命な眼差しで励ましてくれることは唯一の幸福だった。



「5...4...」



 そういえば来週は、人生で初めて誘われた、女子とのデートの予定だったのに、、、

最後に思ったのはやっぱりこういうことだった。



「2...1...」





「休憩行ってきまーす。」

 さっきまで励ましてくれていた看護師たちが診察室から一斉に出ていった。






「もっと早く受ければよかったなー、モテ期検査。」

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