犯人は奴なのか

 輓馬バンバの指紋が稽古場の床下から発見されたジップロックから検出されたとの情報を手に入れた佐々木刑事は仲間の刑事を引き連れて輓馬に話を聞こうと再び劇場に向かった。

 佐々木刑事は嘉美ヨシミに稽古場にあったジップロックについて説明して輓馬のところへ向かった。輓馬は舞台袖で清掃作業をしていた。両手でモップを持って一生懸命擦っていた。佐々木刑事は邪魔にならないように近づいていき、輓馬の目の前に立った。そして

「少しお話を伺いたいのですが、今よろしいですか。」

と話しかけた。輓馬本人は驚きを隠せない半面、悩んでいる半面という感じだった。少しの沈黙があった後で輓馬は口を開いた。

「少しなら、まあ……。」

彼女の中に今は任意でも付き合っとくべきだという気持ちが半数を占めているのだろう。佐々木刑事はそれに対して頷き、

「近くの喫茶店でコーヒーでも飲みながら話しませんか。」

とさらなる提案をしてきた。輓馬は少し迷ったようだったが容認した。

 劇場から三百メートルとしない喫茶店に二人は入った。席に着くと佐々木刑事はコーヒーを輓馬は紅茶を注文した。佐々木刑事がコーヒーに口をつけると、輓馬も同じように紅茶に口を付けた。佐々木刑事が口に入れたコーヒーを飲みこむと会話が始まった。最初は驇織タリシキが亡くなった後の劇団の様子などごく日常的なことから始まった。輓馬が話して佐々木刑事は聞き役、そんなように他人からは見えただろう。話が一段落すると佐々木刑事が背広の内ポケットから手帳を取り出した。佐々木刑事はぺらぺらとページをめくり目的のページにたどり着くと一口だけコーヒーを飲んでから口を開いた。

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