ジップロック

 「そろそろ本題に入りたいと思います。」

佐々木刑事は冷静にかつ鋭く切り込んだ。輓馬バンバはゴクリと息をのむことしかできる状況ではない。

「実は先日劇団の許可のもとホールを調べさせていただきました。その際に床が浮いている部分がありましてフローリング材を剥がして調べてみるとジップロックが発見されました。それを本庁に持って帰って調べました。するとそこからあなたの指紋が検出されました。中身からは何も検出されなかったので未使用とみられますがどうしてそんなところにジップロックを。」

佐々木刑事は速くも遅くもない聞きやすい声で話した。輓馬はどう説明すればよいか迷っているように思えたが、すぐに

「保管場所がなかった」

とつぶやいた。佐々木刑事は

「保管場所がなかった……、詳しく教えてください。」

と刑事としてまた一個人の人として相談に乗るという姿勢を見せた。

 輓馬は腹をくくったようでつぶやくように語り始めた。

「あれは今回の事件の被害者である有佐ちゃんがこの劇団に入ってきたときよ。当時のロッカーはベテランの役者たちが使っていたの。私はその二年前にロッカーをもらったばかりで大切に使っていたの。あの時はロッカーを使っていた人の中で私が一番若かったの。当時の有佐ちゃんの期待はとても大きかったからロッカーを使う権利を上げようってことになったの。でも空いているロッカーなんてなかったから誰かが譲るってことになったの。で、当時ロッカー使用者での最年少の私が譲ったの。それから今に至るまでロッカーは使わせてもらえてないの。ホールには一応更衣室があるから衣類なんかはしまえるけど、必要なジップロックはしまえなくて結局いつも使う稽古場の床下を実質的なロッカーにしたの。」

佐々木刑事は何も言い返せる状況ではなかった。つまり捜査は白紙になったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る