佐々木刑事のミス
警察と救急車が温泉旅館に到着したのは佐々木刑事が遺体を発見してから一時間後だった。
初動隊員が脱衣所に黄色い規制線を張り、ずかずかと現場である浴場に入っていった。
一方、救急隊員は二人で担架を持ち、緊張した趣で浴場に入っていた。
たぶん佐々木刑事が「血の海」という言葉を使って電話で説明したからだろう。
彼らのどこかにある怖さのスイッチが起動してしまったようだった。
救急隊員が担架に被害者の男性を乗せて急いで走っていく。
まだ死亡していたわけではなかったのだろう。
脱衣所から“どっちが被害者の荷物だ”という困っている声が聞こえた。
その声で佐々木刑事は自分の荷物を脱衣所に置いてきてしまったことにと気づき、規制線を越えて脱衣所に向かった。
脱衣所に入った佐々木刑事は自分が使っていたかごに真っすぐ向かった。
しかしそのかごの前には初動隊員が立っていた。
また後ろからは規制線の前で見張りをしていた警官が来ていた。
ここでやっと彼は自分の領域ではなかったと気づいた。
“すみません”と佐々木刑事は言いつつ、自分が警視庁捜査一課の刑事であることを明かした。
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