第7話 年上さんからの初プロポーズ

アメリカで小学四年生が終わった。


二ヶ月半の長い夏休みが始まる。


祖父祖母がアメリカまで観光も兼ねて迎えに来てくれた。

母、父、二番目の兄とお別れをし、私と長男は一時帰国をする。


日本に帰国してすぐ、私は祖父祖母の地元にある白橋小学校へ一ヵ月半通うことになった。



初めての環境に慣れず、登校してまだ一週間。

自然学校が始まる。


小学五年生になった私は、学年みんなでお泊りをするのが初めてだった。


アメリカでは修学旅行がなく、あるのはフィールドトリップという日帰り旅行ぐらい。


初めての行事に対して楽しみという気持ちよりも、不安や緊張の方が大きかった。



宿泊施設に到着し、そこでスタッフ三人を紹介される。


一人目は、三十代前半ぐらいの男性。あだ名はアポロ。髪がふさふさしていて、メガネをかけている。物知りで質問したら基本何でも答えてくれるとのこと。


二人目は、大学生の可愛らしい女性。あだ名は、みーちゃん。話し方がゆっくりで、すごく優しそうだった。


三人目は、大学生の少しチャラそうな男性。あだ名は、ピンキー。サーフィンが好きで、肌が焼けたすごくノリのいい人だった。



小学生のみんながそれぞれ気になる人に近寄っていく。



私は友人と一緒に、みーちゃんのもとへ話しかけに行った。


「くるみちゃんって言うんだね!可愛い名前だね、よろしくね!」


印象通り話しやすく、優しい笑顔で対応してくれる。すぐに気に入った。


男子は、アポロのもとへ行く人が多かった。博士のようなアポロに興味津々のようだった。周辺の木に止まっている昆虫などについて教えてもらっている。


そして一番人気があったのは、ピンキーだった。女子がたくさん群がり、キャッキャと騒いでいる。容姿もかっこよかったため、想像通りの人気っぷりだった。



スタンプリーが始まり、スタッフ三人のサポートのもと、それぞれ班行動で集めていく。


お気に入りのみーちゃんが私の班と行動してくれた。たくさんお話もでき、かなり楽しかった。

だがこの日、私は目標を決めていた。


それは、スタッフ全員とお話すること。



配布されたスタンプラリーのヒントを頼りに進めていき、中間地点でアポロに会った。人見知りをあまりしない私は、自分から話しかけていく。


面白い語り口調で、思っていた以上に話しやすく楽しかった。しかし、少し難しい話をされると理解できない。とりあえず、愛想笑いでごまかしていく。



ピンキーを見つけられないまま、スタンプラリーが終わってしまった。

昼休憩が始まり集合場所に行くと、相変わらず女子に囲まれていた。



私も少ししゃべってみたいな……。



話す勇気はないがとりあえず近寄ってみる。

ピンキーは周りの子に気づき、初対面の子を優先して一人一人に話を振っていく。



私の番がきた。


「名前なんて言うの?」


「くるみです。」


「くるみちゃんね!いい名前してるね!みんなのことちゃんと覚えたいから、自分が好きなこととか変わった趣味とかあれば教えてほしいなぁ~!」



周りの視線が集まり、クラスの明るい女子が代わりに言ってくれた。



「この子ね!最近転校してきたの!帰国子女なんだよ!」


「え!?嘘!そうなの!?俺よく海外旅行とか一人で行くし、いろいろ話聞きたい!あ、ねぇねぇ。海外って呼び捨てやし、くるみって呼んでいい?」


ピンキーが興味津々で私にたくさん質問をしてくる。

気に入られたのが自分でも分かった。



それから自然学校の間、何度もピンキーから話しかけられた。


自然の木を使った工作の時間が始まる。



「くるみ~!なぁなぁ、こっちおいでよ~。一緒にやろうよ!」



実際話しやすく共通の話も多かったので、嫌だという気持ちは一切なかった。

むしろ転校したばかりで少し浮いていた私にとって、話しかけてもらえるのは嬉しかった。


いろんな話をした。


アメリカあるある。

アメリカの小学生の恋愛事情。

アメリカのスラング言葉について。


ピンキーも普段なかなか聞けない話がてきて、かなり楽しそうだった。



修学旅行最終日。

私は昼食後に席を外して、一人トイレへ向かった。


トイレから出て外の廊下を歩いていると、左側の階段上から声が聞こえた。



「くるみ!!!」



びっくりして立ち止まり、思わず振り向く。

そこには、ピンキーがいた。



「くるみ!好きだ!!……結婚してくれ!」



状況が理解できず、私は一瞬固まった。

どうしたらいいか分からず、そそくさと逃げるようにその場を去った。



部屋へ戻り、友人が私に話しかける。



「くるみちゃん!さっきピンキーにプロポーズされてなかった……!?されてたよね!?私たまたま見ちゃって……どうするの?」


「さぁ……分からない。」



そもそも私はまだ小学五年生。相手が何歳年上かを考える以前に、結婚について考えたことすらない。


それにどうせ別れなきゃいけない恋愛は、しない主義。私は、一ヶ月後には日本にいない。このことをピンキーは知らないだろうけど、普通に考えて不可能だ。



私はそれ以降、なんとなくピンキーと気まずくなり、一度も話さなかった。



幸いにも目撃者は、私の信用できる友人のみ。


噂が立つこともなく、顔を合わせることもないまま自然学校が終わり、私はアメリカへ帰った。


―――

確か10歳ぐらい歳の差があったはず。

大人になって考えると、この歳の差は普通にありえますよね。

でも小学生と大学生はやばいですよね……

やっぱりからかわれてたんかなぁ。笑

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