第12話 優しい君の気遣い
夏休みに入り、さっそく一時帰国をする。
今日から一ヵ月半、移住前もお世話になった地元の小学校へ通う。
もともと小学二年生の夏まで通っていたため、クラスの約四分の一とは面識があった。とはいえ、あれから四年の月日が流れている。みんなすっかり成長して、雰囲気も違って見えた。
昔の友達に話しかけてみるが、時間が経ちすぎたせいだろうか。なんだかそっけない。変わらず仲良くしてくれた幼馴染の女子は他クラス。
私は孤立して、戸惑っていた。
その時、ある男子生徒一人が目に入る。
彼なら話しかけても大丈夫そう……!
きっと私を受け入れてくれる!
そんな気がした。
彼の名前は、かいと君。私の数少ない幼馴染のうちの一人だった。
教室で少し緊張しながらも、勇気を出して彼に話しかける。向こうも久々で恥ずかしそうにしていたが、ちゃんと会話を続けてくれた。
私はついつい嬉しくなり、たくさん自分から話題を振った。
下校時間になり、私は幼馴染の女子がいる教室へ向かおうか迷っていた。そんな時、あることを思いつく。
かいと君の家も近いじゃん!かいと君と一緒に帰ろう!!
すっかり心を許していた私は、遠慮なく彼に伝える。
いつも決まった友人と帰っていたのだろうか。少し戸惑いながらも、学校生活に慣れない私を優先してくれた。
彼と一緒に楽しく家まで帰る。私は全く周りの目を気にすることなく、上機嫌だった。
次の日も私は彼に一緒に帰ろうと誘った。
「え、今日も一緒に帰るん?」
彼の友人が少し驚いた顔で言う。
私は全く気にならなかった。一方、かいと君は私をチラチラと見ながら少し困った表情をしていた。
譲る気配がない私を見て、彼はゆっくりと頷く。
この日も私は、楽しくおしゃべりをした。
車がよく通る道路。彼の声が少し聞き取りづらく、私は近づいて歩こうとする。同時に、彼は私との距離を少し開けようとしていた。
ん?……恥ずかしいのかな?
彼も楽しんでくれている。私は、そう思っていた。
家に近づき、彼が私に向かって最後に言う。
「ごめん、明日からは一緒に帰れない。」
「え!?なんで?」
「ごめん。そういうことやから!」
突然の出来事に、私は唖然としていた。彼の言動が理解できず、私は不思議そうに家へ入った。
一晩考えて迎えた次の朝。
私は幼馴染の女子と一緒に帰る約束をした。
かいと君は、きっといつもの友達と帰りたかったんだろう。
私はそう解釈した。お昼休憩に話しかける分には問題ないだろうと思い、彼の机に向かう。すると目が合った瞬間、そらされた。
「かいと君……?」
彼の名前を呼ぶと気まずそうに席を離れて逃げていった。
まるで私が告白して振られたかのような気分だった。
確かに幼稚園の頃は好きだったよ?でも、今は別に友達じゃん。なんで避けるの?
不満げに、私は残りの時間を過ごした。
ホームルームが終わり帰る用意をする。私は周りの視線がやけに気になり、変な噂が流れていることに気づく。
「あいつらできとんかな?」
「絶対そうやって!だって二回連続で一緒に帰ってたやん。」
「やっぱお前もそう思う?今日も一緒に帰るんかな?」
明らかに自分を見て小声で笑う男子を、私は堂々と見た。彼らが慌てて教室を出ていく。
事態を把握した私は、かいと君の取った行動の理由を察す。少し申し訳なく感じた。
どうせ私は一ヶ月ちょっとしたら消えるんだ。教室にいる間だけ、独りで過ごそう。
寂しい私は、そう覚悟を決めた。
―――
日本人の子どもは、こういった些細なことで面白おかしく話すの好きですよね……。アメリカ人も噂話は大好きですけど、この程度じゃ盛り上がらないどころか、話のネタにもしてくれませんよ。笑
かいと君、気遣って二日目も一緒に帰ってくれてありがとう…。あの後、噂が消えてよかった。
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