第13話 兄ならぬ弟くん
一時帰国で地元に戻って、一番嬉しかったこと。それは学校終わりに近所の公園へ行くと、誰かしら子ども達が集まっていること。
寂しがり屋な私は、大勢で遊ぶのが大好きだった。私が住む団地では、同世代から五歳年下の子どもがかなり多かった。なんなら他の団地から集まってくる子もいた。
約束もしてないのに、今日も十人ほどの子ども達が公園に集まる。相変わらず年齢の差別やいじめなく、常に仲良し。環境に恵まれていた。
「ドッチボールしようぜ!」
「おぉ!やろやろ~!グットッパしよ!」
男女混合でチームが組まれる。
私は、球技が大好きだった。男子ほどのスピード感はないが、コントロールに関しては自信があった。
ボールを思いっきし相手チームめがけて投げる。
「うわ!あっぶね!」
「惜しかったのに~!!」
投げたボールが鉄棒にぶつかり、跳ね返って相手の横側から攻めていく。ありがたいことに地面についてワンバウンドさえしなければ、カウントされるとのこと。
「くるみちゃん、避けて!そこ狙われやすいからこっちきて!」
彼の名前は、るいと君。味方チームにいる一歳年下の男の子で、私を助けてくれた。だが相手チームにいる彼の弟が、容赦なく私を狙ってくる。
「わっ!待って無理!」
「よっしゃー!くるみちゃんあたったー!外野行きけってーい!」
弟のりゅう君が満面の笑みで喜んでいる。腹立つ反面私も楽しすぎて、つい笑みがこぼれた。
他には色鬼や警泥、デンをして遊ぶ。あっという間に時間が流れていき、気づけば夕方の六時になっていた。
「ご飯の支度ができたからもう帰ってきーよー。」
少し離れたところから母の声が聞こえる。私は友達みんなに手を振り、走って帰った。
週末がやってきて、今日は幼馴染の家にお邪魔する。同い年の女の子で、彼女には一歳と三歳年下の弟がいた。どうやら彼女の弟も友達を呼んでいたらしい。
「ピーンポーン。」
インターホンがなり画面を覗くとそこにいたのは、るいと君とりゅう君だった。さっそくみんなで駄菓子を食べながらテレビゲームに没頭する。
「飽きたなぁ〜。次何するー?」
「そうやなぁ……。かくれんぼとかってあり?」
「全然ええで!しよしよー!」
体が小さい私にとって、かくれんぼは得意分野だった。家の中であれば、どの部屋を使ってもいいとのこと。じゃんけんで幼馴染が鬼になり、さっそく張り切って隠れ場所を探す。
んー…勉強机の下に隠れよう!奥まで入って、ミニ机とイスを限界まで引き寄せれば……完璧!こんな狭いスペースに隠れてると思わないだろなぁ。まだ三十秒もあるし、余裕だな。
すると突然イスが一気に引っ張られる。驚き顔で見上げる私を見て、るいと君が笑っていた。
「くるみちゃん、ちょっとつめて!俺も入るから!」
「え!?狭すぎるよ!」
「いいから!もう時間ないねん!」
るいと君が強引に入ってきて、左肩が密着する。もともと気になっていたからだろうか。速まる鼓動が自分でもはっきり分かった。
鬼がなかなか来なくて、静かに時間が過ぎていく。すると、彼が耳もとで私にささやいた。
「ごめん、ちょっと狭すぎた?なんか緊張するやんな。」
彼の言葉を聞いて返事をする余裕がなく、私は小さく頷いた。
鬼が部屋に入ってくる。少し押し出されたイスから、るいと君のズボンが見えていたようだ。
「るいとみーっけ!普通に見えるしウケるわ!はよでてって!」
「あー、まじ?やっぱここあかんかったかぁ。」
机から出る瞬間、彼が私に手のひらを向けて、そのまま残るようにと合図する。そして机から出た彼は、ゆっくりとイスを押し直した。
るいと君のおかげもあり、私は最後まで見つからなかった。鬼がギブアップして、私の隠れ場所を教える。
「うそ!ほんまに!?うわー、やられたあ!一回見たらもうおらんと思うやん!」
それを聞いて、るいと君がこっちを振り向く。
「やったな、俺らの勝ちやな!」
不意に見せた爽やかな笑顔がかっこよくて、またドキッとした。
幼馴染の家を出て、解散前に雑談をする。すると話が思わぬ方向に進んだ。
「りゅう、くるみちゃんのこと気に入ってるやろ?」
「え?りゅう君が?いやいや、そんな。」
まさかと思い私が笑っていると、りゅう君が後ろから抱き着いてきた。
「おん!くるみちゃんすき~!」
「え?え!?りゅう君」
りゅう君は小学四年生で、それなりに好きという感情を理解しているはず。みんなが私たちを見てはしゃぐ中、さすがの私も恥ずかしく感じた。
慌ててりゅう君から離れようとするが、手を離してくれない。
そんな中、るいと君と目が合った。少し苦笑いをする彼を見て、私も複雑な気分になっていく。
その後、りゅう君が手を離してくれて、みんな笑いながら解散した。
―――
この後、何事もなかったかのように私はアメリカへ戻りました。今思うと、兄弟揃ってわりと大胆だったなと…。一年後に帰国しましたが私は中学生になり、話す機会はありませんでした。
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