番外編 先生の噂話(性について)

小学六年生の冬、私は現地校で大人の世界を知った。


社会の授業が終わり、次は算数の教室へと移動する。先生が電気を消して去っていく中、私含め約六名がまだ机の上を片付けていた。

準備が整い部屋を出ようとする。すると出入口付近で、男子二人と女子一人がこそこそと立ち話をしていた。三人とも私と仲が良かったので、教えてもらおうと近寄る。



「何の話してんの?」


「あー、くるみか。……知りたい?」



男子の中でも一番仲が良かったコーディー。妙にもったいぶる。



「教えて。私も知りたい。」


「まぁ、くるみだし特別に教えてあげるよ。俺たち四人の秘密だから絶対誰にも言うなよ?」



暗い部屋の中、高身長のコーディーが腰を曲げて私の耳に手を当てる。彼が小声で教えてくれた。



「俺さ、見ちゃったんだよ。夜に親と出かけてる時、道路脇に停車して車内でセッ〇スしてる姿を。それでよく見たら、ミスラソーだったんだよ。」



ニヤニヤするコーディー。他二人も同じような反応をしていた。



「え?なにそれ?どういうこと?」



私の反応が予想外だったのか、三人とも目を丸くして人を馬鹿にするように笑い始める。



「くるみ、そんなことも知らないの!?」


「お子ちゃまじゃん!」



まるで常識のない人みたいな扱いを受けた。自分が遅れてる気がして、急いで言葉の意味を考えるが全く分からなかった。女の子であるサラが半笑いをしながら、私に小声で伝える。



「まさかくるみ、自分がどうやって産まれたか知らないの?ほんとに言ってんの?」


「え……うん。」


「いい?男と女が愛し合って子どもが産まれるの。」



ざっと答えるサラの横からコーディーが割り込んでくる。



「つまりこういうことだよ。これ女な。んで、これが男。そして、こう!」



コーディーが話しながら、ジェスチャーを見せる。右手で丸を作って、左手の人差し指を入れる。



きょとんとする私を見て、コーディーが呆れた顔をした。



「だから、女のココと男のココってこと!」



コーディーが自分と私を指す指の方向を見て、私は硬直した。



「え、待って。え、ミスラソーって……次の算数の先生のこと?」


「そう!だから今話してんじゃん。」



思考停止でテンパりながら、続けて質問をする。



「え?つまり先生は、子どもが欲しいってこと?」


「違うに決まってんじゃん。だって先生、他に旦那がいるだろ。」


「え、じゃあなんで別の人とわざわざそんなことするの?」


「それはな……新しい愛が欲しかったんだよ。先生は不倫してまで、違う人と二人の時間を楽しみたかったんだよ、きっと。」



今までにない世界観を耳にして、私は完全に固まった。



「ちなみにあいつらも、もうしてるよ。ま、あいつらは付き合ってるけどね。あ!避妊しないと子どもできちゃうから、くるみも気をつけろよ~?」



笑いながら彼が親指を後ろに向ける。指した方向にいたのは、クラスの名物カップルだった。まさか同い年でそんな人がいるなんて、思いもしなかった。

避妊についての知識は一切ないが、それ以上の質問しようと思わなかった。たったの五分で聞いた話があまりに衝撃で、頭が追いつかない。


サラはネタに飽きたのか、立ち尽くす私を普段通りに呼ぶ。



「くるみー!早く!ミスラソーが待ってる!あの人怒ると怖いんだから!ほら急いで!」



現地校に通い始めて四年半。ここまで集中できない授業は初めてだった。


―――

普通子どもが疑問に感じたら、すぐ親に聞きますよね。ただ、あまりに友達が詳しく話すもんだから、なんとなく親に聞いちゃいけない気がしたんですよね。やっぱり海外の恋愛は、訳が違うなぁって思いました。

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