第6話 番外編 《ヘベレケ蝶々行進曲》

雨上がりパレードはまだまだ続く。

「ホットショコラは最高だったぞ?もう時計はいらないんじゃないか?」

絵師に訊かれパティシエは答える。

「ホットショコラは秘伝の薬みたいなものなんだ。

ベルガモットやキャラメル、チョコレートにミルク。

それぞれの気分や不調に合わせて配合を変えて作っているから、

時計はあんまり関係ないというか…と、とにかく、

正確な時計があればもっとたくさんもっと楽しくおいしくできるんだ。」

パティシエの悩みはまだまだ解決しそうにないのでした。


ところでどうも様子がおかしいのは先頭組のレース編み。

「なんだかとっても楽しそうだね」

舞踏家もつられて楽しそうに声をかけると

レース編みはカギ棒を指揮者のように振りながらうなずく。

「お、こりゃ多分、」なぜかうれしそうな切手絵師。

「酔っぱらいさんですね」つられてうれしそうな時計師。

「アルコール大丈夫って言ってたのに…?!」一人焦るパティシエ。

 実は先ほどのホットチョコレート、

特に体の冷えていたレース編みと切手絵師には

了解をとって少しばかりお酒を混ぜていたのだ。

「ああぁぁぁぁ…ごめんよ…」

自分を責めるパティシエに切手絵師は言った。

「楽しい酒ならいいじゃないか。」

そして舞踏家がフォローを続ける。

「横について転ばないよう見ているから安心して!」

(あああぁぁ…ついに秘伝のホットチョコレートの配合まで間違えるなんて

パティシエ生命おしまいだ…)心の中で泣くパティシエ。

「そんなことないですよ。大丈夫。」

時計師が優しく声をかける。パティシエはありがとうと言いかけて、

ふと我に返る。

「待って!心を読まないで!!」


おやおや、楽し気なレース編みに触発されたフクロウさんも

右に左にふわふわ舞っている。

そんな先頭組をみて影響されないわけがない。3つ子の音楽家の出番です。


《ヘベレケ蝶々行進曲》

踏み出す窓の外で 君の手をつなごう

知りえた世界編んで 君の舞につなごう

風を編む 花を編む 雨、月、星を編もう

君を編む 君も編む 宵、暁も編もう


 声を持たないレース編みの歌が

一行の鼓膜のずっと奥にかわいくキスするものですから

夜は一層かわいらしく更けていくのでした。


つづく



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る