とんてんからりと、とん、とん、とん

生田英作

とんてんからりと、とん、とん、とん



 草木も眠る真夜中の


 時計も眠る午前二時。


 耳をすませてご覧なさい。




 とん……


 てん……


 からり…………


 と…………


 とん…………


 とん…………


 とん…………




 ほーら、聞こえて来たでしょう?




 どこからともなく囁くように、


 闇に潜んだ何かから、


 あなたの耳朶を打つ音が。

 



 とん…… 


 てん……


 からり……と……


 とん……


 とん……


 とん……




 あれは、何の音なのでしょう?




 甲高いようで低いよう、


 大きいようで小さいよう、


 近いようで遠いよう、


 それでも、はっきり分かります。


 そう。


 段々、音が早くなり、


 こちらへやって来ることが。




 とん……てん……


 からり、と……


 とん……


 とん……


 とん……



 

 どこから聞こえてくるのでしょう?




 ひとつ、確かめてみましょうか。


 窓を開けて御覧なさい。


 いいえ、誰もおりません。


 ドアを開けて御覧なさい。


 いいえ、誰もおりません。




 あれは、気のせいだったのでしょうか?




 ほっ、と一息ついて暫しの後、


 やっぱり、聞こえて参ります。




 とん……てん……


 からり、と……


 とん、


 とん、


 とん――




 一体どういうことなのでしょう?




 さっき、窓を開けた時、


 さっき、ドアを開けた時、


 確かに誰もいませんでした。




 一体どういうことなのでしょう?




 ならば、それなら、もう一度、


 確かめに行ってみましょうか。


 窓を開けて御覧なさい。


 やっぱり、誰もおりません。


 ドアを開けて御覧なさい。


 やっぱり、誰もおりません。


 それでは、納戸はどうでしょう?


 扉を開けて御覧なさい。


 いいえ、誰もおりません。


 それでは、トイレはどうでしょう?


 廊下に出てみて御覧なさい。


 いいえ、誰もおりません。


 それでは、ベッドは、タンスの影は?


 それでは、ベランダ、物干しは?


 いえいえ、誰もおりません。


 そうです、誰もいないのに、


 誰もそこには、いないのに、




 やっぱり聞こえて参ります。




 とん、てん、からり、と、


 とん、


 とん、


 とん――




 ほーら、徐々に、はっきりと、


 ほーら、段々、こちらへと、


 何かが、やって来る音が。




 ほーら、はっきり聞こえるでしょう?




 とん、てん、からり、と、


 とん、


 とん、


 とん、


 とんてん、からり、と、


 とん、とん、


 とん、


 とんてんからり、と、


 とん、とん、とん、


 とんてんからり、と、とんとんとん――


 ………………


 …………


 ……


 


 ………………………。




 そーっと、振り返って御覧なさい。


 そう。



 あなたの肩の少し上。





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