第8話
4時間目の授業が終わった。スーパーに寄ってハンバーグの材料を買うことにする。
道中、冷蔵庫の中身を思い出す。牛乳とパン粉、その他調味料はあったから、牛引き肉と玉ねぎを買っていこう。そうだ、思い出した。卵も買わないといけない。今日は特売日のはずだから。
アオイは今頃、何をしているだろうか。恋人の私が嫉妬するくらいに仲が良いあの関西弁の友達と一緒にいるのだろうか。私はあまり活動的ではないのだ。サークルには入っているが、あまり顔を出していない。暇なときは家で創作をしている。単純に死ぬまでに何か私が生きた証を残しておきたいと考えたからである。手芸や小説、漫画など自分ができることを手広くローテーションで回している。形のあるもので私は私の心に、今もでき続ける空白を埋め続ける。
正直に言おう。アオイとは違って私はコミュニケーションや人が苦手だ。でもアオイとならみんなが誰かと話すように話せる。最初に告白してきたのは、アオイからだった。だから、世の恋人が言い合うような、カレカノの関係に当てはめると、アオイがカレで、私がカノなのだ。最初の頃は告白された理由も分からなかった。私の何が好みなんだろうってずっと不思議だった。アオイは恥ずかしがって教えてくれなかったので、大学生になってから酔わせて聞いてみた。お酒の力を借りたのだ。いつも静かで冷淡そうだけど、高校での文化祭の準備の時に、誰よりもみんなのために頑張っていたから、らしい。恋はいわゆるギャップ萌えから始まったのだ。文化祭3日前の放課後、教室で夕陽に照らされながら受けた告白を思い出す。当時の私(今もそう変わらないが)は、人前であまり笑うような明るい性格ではなかった。もちろん、恋にも関心は無かった。告白されたことは嬉しかったが、そんなたいそうな理由があるなんて思っていなかったので恥ずかしくなって、アオイのグラスにひたすらビールを注ぎ続けた。当然、下を向いて、顔は真っ赤。涙まで出てきていた。アオイがその夜の私の醜態を忘れてくれるように願いながら。途中、動揺していたので、手が震えて何度かこぼしてしまった。それを見たアオイはおかしそうに笑っていた。次の朝、目論見通り忘れてくれていたことに安心したが、少し寂しさも覚えた。でも、本当の気持ちが聞けてすごくうれしかった。このことは、私の私だけの思い出だ。
スーパーで目的のものを買った。ついでに、キャベツと人参も買った。家にあるピーマンと合わせて野菜炒めを作る。ハンバーグの隣に添えよう、そう考えながら帰途についた。
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