第2話

私たちの生き方について、もう少し詳しく話そう。


この世界では、ヒトとヒト同士が付き合うと決めたとき、先に好きであることを相手に伝えた方を便宜的にカレと呼び、その思いを受け入れた方をカノと呼ぶ。

メタ的な説明を入れておく。

カレとカノは、彼氏や彼女といった概念とは一切関係ない。あくまで便宜的な名前に過ぎない。読んでいただく皆さんはそれぞれ、脳内で想像し、好きなように変換してもらいたい。組み合わせ《カップリング》に正解はない。なぜなら、この作品の登場人物は、我々の世界でいう男としても女としてもふるまうことができる両性具有の存在なのだから。


それに加えて、結婚して、子供を産んだ方をおかあさん、死んでしまった方をおとうさん、と定義している。

分かりやすく楽しみたいと考える方のために、メタ的な説明を入れるなら、昆虫のカマキリのようなものだ。カマキリは生殖後にメスがオスを食べる。その理由は栄養補給のためであると言われている。ただ、この作品では栄養補給という理由ではない。その理由にしてしまうと、食品や点滴等で代用できうることになってしまい、物語に矛盾が現れるからだ。


今までは、言葉の定義について話してきた。ここからは、作品の根幹部分に関わる内容である。


私たちが結婚し、生殖する時に考えられうるパターンは、複数ある。


一つ目は、お互い好いた相手と結婚し、子供を作ることだ。どちらか片方は必ず死ぬが、残されたほうは、愛した人の子供と生きていける。少なくとも、25年間は。


もう一つは、愛し合った人を選ばず、お互い別々に結婚し、子供を作ることだ。こうすると、愛した相手と自分が、ともに生き残れる可能性が出てくる。

例え誰と生殖したとしても、死ぬ確率は、お互い50:50で変わりない。このことは、膨大な医療データからほぼ確からしいと結論付けられている。近代医学200年の成果だ。だから、


①お互い生き残る、が25%

②どちらか片方生き残る、が50%

③両方死ぬ、が25%


という計算になる。

③は、最悪のパターンだ。どちらも死んでしまう。何も残らない。

②では、後悔が残る。どちらかが死ぬことを知っていたら、お互い自分の手で死なせてあげたかった、と考える人が多い。こちらの方は、愛した相手との子供が残らない。愛し合ったという記憶だけが生き残った方の心の中に残る。

①は、外野から見るのなら、最良の結果といえるだろう。だが、実際はそうではない。どのパターンにも当てはまることだが、生き残った方には生存者罪悪感が残る。自分が相手を犠牲にして生き残ってしまった、という”アレ”のことだ。そのうえ、①の場合は、自分たちの幸せのためだけに、無関係の他人を犠牲にした、と考えて苦しむ人が多い。背負った十字架の重さ、辛さに耐え切れずに、生き残ったのに自殺してしまう人もいる。そのうえ、そのような方法を選んだカップルは、死んでしまった相手の親からの嫌がらせで苦しむ場合もある。当然だ。その親もそのような葛藤を乗り越えて選んだ子供なのだから。思い入れも大きいに違いない。そのような嫌がらせが事件化されることは多くない。触れること自体がタブーと化していると言っても過言ではないだろう。


そのような事情から、結局は、お互いに好いた相手と結婚し、どちらかが死んで子供を残すことになるパターンをとる人が多い。


この世界での生殖行動は命に関わるものなので、教育が行き届いており、望まぬ生殖がなされることは少ない。幸か不幸か、命の重要性に関する考え方がメタ世界よりセンシティブなものになっているのだ。


また、事実上、25歳までに全人口の約半分が死ぬことになる。そのため、モラトリアム期間が長くとられている。具体的に言うと生殖するまでがモラトリアムである。半分が子供のままで一生を終えることになるので、せめて生きているうちに少しでも幸せな生活ができるようにという配慮がなされているのだ。


この物語で直接描写が出てくるかはわからないが、特別な才能を持っているヒトは、結婚や生殖をしなくてもいい自由が与えられている。科学の発展のための特別措置のようなものだと説明されているが、この枠を自分の子供のためにコネやお金で手に入れようとするヒトも多い。


この世界とメタ世界との違いについての説明はおおよそ以上である。

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