かまきり

お椀信者

世界観についての大まかな説明

第1話

私たちの生きる世界では、愛し合ったもの同士は幸せになれない。


この世界は、酷くいびつだ。

私たちの種族、人は、両性具有でありどちらでも子孫を残せる。そして、子孫を残すための行動、すなわち生殖を行うと、どちらかが死ぬ。確実に。


このような種族が、長い間生育してこられた理由は主に二つだ。


まず、一つ目、これは生物学的な理由だ。一度の生殖で生まれる子供の数が多い、のだ。2人以上生まれるのは当たり前。多い人では、一度の生殖で5人も子供を設ける。ただ、双子や三つ子が生まれるというわけではない。子供によって胎内で暮らす期間が違うのだ。大抵は2,3年のずれだが、長くなると5年を越えることもある。そのため、兄弟姉妹といった概念はきちんと存在している。


もう一つ、これは、制度的な理由だが、国が婚約と生殖を強制しているのだ。すべての人が25歳までに結婚し、子孫を残さなければならない。その理由は、当然、人の絶滅を防ぐためだ。25歳という年齢に関しては、そうしないと子供ができる確率が大幅に低下するということが研究によって分かったからだ。どちらか片方が死ぬ行為を行ったのに、子供も生まれないのは最悪のパターンだ、と偉い人は考えているらしい。

文明の存続という観点だけからみれは、これは正しい。ちなみに、結婚や生殖の相手が決まらなかった人間は、申告の後、役所で行われるくじ引きで強制的に相手が決められてしまう。逃げた場合は、指名手配され警察に逮捕される。その場合は、刑務所等で強制的に相手を決められるのだ。公共の福祉という理由で自由は制限される。そのため、ほとんどの人は、体制に逆らおうなんて気は起こさない。25歳までの短い期間で、満足とまではいかないにしてもそれなりの相手を探すのだ。


だが、一部には、このような強制の制度に対する反発がある。抗議のために自殺を行うものは、行政が相手にしないので、最近はめっきり減った。

本当に多いのは、無戸籍者だ。子供を失いたくない、一部の母親が行政に子供の誕生をあえて申告しないのだ。このような人は、病院で働いている助産師を個人的に雇ってお産を手伝ってもらうことが多い。だが、当事者間で支払われる金額に関するトラブルが起きた場合、明るみに出る。母親としては、当然、安い値段を希望するだろう。無戸籍者のお産を手伝うことは犯罪のほう助として罰せられるので、お互い罪を共有していると考えて強気になる。手伝う助産師は、お金に困っている人が多い。助産師も、自分がいなければ母親のお産の成功率が下がることを知っているので、たいていは折れない。先払いとそれなりの金額を要求する。3年前には、十数年間の間、秘密裏に助産師の派遣を行っていた闇団体が、警察によって摘発され、大々的なニュースになった。このような闇業者は今も複数存在し、警察もその実態を完全には把握できていないという。このような団体は紹介制であることが多いため、普通の人には、なかなかたどり着けない。


いずれにせよ、一般人にとってその障壁は非常に高い。


だから、つまるところ、20代のうちにどちらか片方は確実に死ぬということだ。

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