第2話
お兄ちゃんの後をついて私は走る。
町の様子はいつもと全く変わらない。
だけど、ちょっと前の日々までは、知らない人達がたくさん町を通り過ぎて言ったのを覚えている。
その人達は東から来た人で、西に行く為に町を通って行くみたいだった。
私達の住んでいる町は、世界地図でいうと東の方の隅っこの方。海の中にちょこんと浮かんでいる小さな小さな島の中にあるみたいだった。
それで、地図の真ん中には、大きな中央大陸という島があって、終止刻(エンドライン)が始まってしまったから、東の島にいる私達は、なるべく早くその大きな島に行かなきゃいけないのだけど、町の人達はまだロングミストに留まっている。準備もあんまり進んでない。
これで良いのかな、とチィーアは思うのだが大人達は大丈夫と言うばかりだ。
町長さんが何とかしてくれる。
町長さんが助けてくれる。
そう言うばかりで。
そんな風に考えながら、町の中を歩いて行くと、チィーア達はある人物と出会う事になった。
その人は、今さまに考えていたこの町の町長さんだった。
「やあ、ユーリ君とチィーアちゃん。そんなに急いでどこに行くんだい?」
呼び止められて立ち止まる。
町長さんの表情はいつも眉が下がった気弱とも言えるような表情だ。
いつも誰に対してもテイシセイで、頭を良く下げたり謝っているのをよく見かける。
でも大人達が言うには、町長さんの仕事は立派にこなしているらしくて、文句の付けどころがないみたいだった。
その証拠に、町長さんは町のほとんどの住民の名前を憶えている。
チィーア達の名前だって、間違えずに言えるのだ。
それはとてもすごい事らしい。
「今日は午後から雨が降るみたいだから、早めに家に帰った方が良いよ」
町長さんは今日の天気も知っているらしい。
「今日はこれからシサクを見に行くんだ。父さんたちの所だよ。町長さんも行くんだろ?」
「そうかい? そうだけど、ユーリ君は将来お父さんの右腕になって魔石列車の開発にでも携わる事になるのかな?」
「うーん、そう言う事はよく分かんないな。遊んでいた方が楽しいし」
「ははは、そうだね。子供の仕事は遊ぶ事だ。いやぁ子供って普通そうだよねぇ、ははは……」
町長さんは何故か遠くを見つめるようになっているが、チィーア達にはよく分からない。
「でも、シサクを見に行くのは今日は止めた方がいいよ、とっても忙しそうだったからね。帰って邪魔になってしまう。それより、家に帰った方が良いと思う」
「えーっ」
そう言って町長さんは急いでいるのかさっさと向こうへ行ってしまう。
「ほら、町長さんも言ってるし帰ろうよお兄ちゃん」
「いやだっ」
お兄ちゃんは我がままで頑固だ。
邪魔になるのは良くないって知ってるのに「えーっ」とか「いやだ」ばっかりなんだ。
子供みたいなお兄ちゃんだ。子供だけど。
普段なら粘り強いとか根気強いとか褒められるお兄ちゃんの長所なのに、たまに短所になるのがやっかいな所だ。
そのうち説得する事も諦めて、チィーアは会話が進んで行くのに任せるしかなかった。
「絶対行くんだ」
結局は元の話のまま、変わらずでチィーアはお父さんたちの仕事現場に向かう事になるのだ。
町の端っこにあるお父さんの仕事現場、向かっていく途中でチィーアはせめてもの抵抗として寄り道する事を提案するのだ。
全部が全部お兄ちゃんの思い通りになるのは癪だったからだ。
立ち寄ったのは、今はもう使われていない古い井戸。
そこは死んだ人とお話ができる場所なのだ。
「なあ、やめようぜ。こんなとこ」
「お兄ちゃんはわがまま言うのにチィーアだけ駄目なの? ずるい」
「うっ」
痛い所を突いてみせれば、お兄ちゃんは反論できなくなる。
お兄ちゃんはここが苦手だった。
場所がというよりは幽霊とか、お化けとか死んだ人の事が苦手みたいだ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんのくせにこういうのにはすごく弱くて、今も離れた所にある気に隠れるようにしてこちらを窺っている。
この古い井戸は特別な井戸で、地面の奥のずっと奥まで繋がっていて、星という大きな物の内部と繋がっているらしい。
その中には死んだ人がたくさんいて、こうして生きている人が近づくとお話してくれるのだ。
長い年月を生きた人が色々な事を教えてくれて、とてもタメになるのだ。
でも、チィーア以外の人は死んだ人とはお話ができない。
町長さんはチィーアの事を特別だといい、ねくろまんさーって言うけど、意味はよく分からなかった。
「それでね。お兄ちゃんは我がままなんだよ。うん……うん……」
「うわー、うわー」
さっきいた所よりもさらに遠くに行ってしまったお兄ちゃんが、なにやら青ざめた顔をして耳を塞いで、うわ言みたいに喋ってる。けど、いつもの事なので気にしない。
「うん……星脈が詰まってて、爆発しそう? ねぇ、お兄ちゃん爆発ってなにー」
「うわー、うわー」
「お兄ちゃんってばー」
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