白いツバサ番外 ロングミストの末路

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 誰かが何とかしてくれると思った。


 ううん、誰かなんて頼らなくても……この町には困った事をなんでも解決してくれる人がいた。

 見た目は気弱そうで、ちょっと頼りない感じのその人は、だけどすごく頭が良い人で、仕事ができる人だって皆に言われている。


 収穫が減ったり、害獣がやってきたり、町の中では毎日いろいろな事が起こるけど、その人に任せればたちまち解決されていった。


 私達が解決方法を考えるよりも早く問題を解決してくれる。

 私達が考えた対策を試すよりも、早くもっと良い方法で解決してくれる。


 だから、

 私達はいつしか悩み事に大して考える事がなくなっていった。


 世界では終止刻エンドラインという危機が訪れてしまったみたいだけど、それでもきっとあの人が何とかしてくれる。皆大丈夫だ。

 その時もそんな風に思っていた。


 ここに綴るのはその結末。





 ロングミスト 西区画 個人屋


「起きなさい。ユーリ、チィーア」

「うーん、もうちょっと」

「すぅ……すぅ……」


 お母さんの声で、私は眠りから覚める。

 お兄ちゃんの眠たそうな声が聞こえる。

 私は眠ったふり。

 そのうちお母さんがやって来て、ご飯ができたから早く起きなさいって言うんだ。


 それがいつもの朝の始まりだった。

 もう二度と返ってこない。皆がいる朝の始まり。


 私達の家族は四人家族だ。

 お母さんとお父さん、ユーリお兄ちゃんと私の四人。

 霧がかかる事で有名なロングミストという町に住んでいて、家はその西区画にある。

 近くにはシサクしているらしい大きな乗り物ががあって、お父さんはそこで働いてる。

 

 朝ごはんを食べて、お父さんを送った後、私達は青空教室へ向かう。

 この町には学舎がないから、町の子供たちは広場で行われる勉強会に出て、文字や計算の仕方などを勉強する。


「お兄ちゃん、お弁当忘れてるよ」

「あ、いけね。チィーア、お母さんから取って来てくれよ」

「えー」


 ユーリお兄ちゃんは少し意地悪だ。

 玄関から台所に行くだけなのを面倒くさがって、お弁当を取りに行きたくないから先に行ってしまう。


「お母さん、おべんとー」

「あらあら、ユーリったらお兄ちゃんなのに、仕方ないわね。はい、今日の分。落とさないようにね」

「うん」

 

 二人分のお弁当を受けとって、広場へと歩き出す。

 今日は何だか町の様子がいつもと変だ。


 いつもにこにこして皆が歩いているのは変わらないんだけど、空気の感じだけが違うような気がする。

 冬の空気が乾燥したときに、たまにピリッと感じるセイデンキみたいな、そんな感じがするのだ。

何だろう。


「チィーア、遅いぞ」

「あ、お兄ちゃん。ずるいよー」


 まだ広場にはついてない、途中の道だ。

 だけどお兄ちゃんは私が追いつくのを待っていてくれたみたいだ。


 意地悪だけど、でもたまに優しいのが私のユーリお兄ちゃんなのだ。


 二人で、広場に向かっていつも通りに勉強会に出て勉強を教えてもらう。

 暇そうにして出席しているだけの子とか、一生懸命お話を聞いてる子とか色々な子がいる。

 その中に、天気に詳しい子がいて、今日は午後遅くから雨が降るって教えてもらったりもした。


 青空教室が終わった後はいつも寄り道して帰るんだけど、今日は早く帰った方が良いかも知れない。

 私は雨は嫌いじゃないけど、お兄ちゃんは濡れるのが好きじゃないし、お母さんも風邪を引く事があるから大変だって言ってる。


 そういうわけだから、勉強会が終わり、集まった子達とさよならをして、家へとまっすぐ帰る。……はずだったんだけど、その日は雨の時はいつも真っすぐ帰りたがるお兄ちゃんが、寄り道しようと言い出したのだ。


「昨日、町長さんが父さんの仕事場にいて言ってたんだ」

「何を?」

「あのシサクとかいう大きな乗り物を今日動かすって。この間も動いてたの見ただろ。もしかしたら頼めば乗せてくれるかもしれないじゃん。行こうぜ? な? な?」


 私は行きたいとは思わなかったけど、お兄ちゃんがこうなったら梃子でも動かないのを知っている。

 実際チィーアの事なんて忘れてもう走り出しているくらいだ。


「待ってよ、お兄ちゃん!」


 仕方なしに、ついて走る以外の選択肢は私にはなかった。


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