第3話



 ユーリお兄ちゃんとお父さんの仕事場に向かいながら、チィーアは井戸で聞いた話を思い出していた。


 その人達の話によると、チィーア達が普段生活している地面の凄く下の方には、星の脈と呼ばれるものが合って、莫大なえねるぎーが通っているみたいだった。けれど、このロングミストの下にある星の脈が妻てしまって、このままでは爆発してしまうのだそうだ。


「それってすごく大変な事じゃん」

「だからさっき、チィーアもそう言ったのに」

「うわっ、どうしよう。大変だ、大変だ」

「だからお父さんに教えてあげに行ってるんだよ」

「そうだった」


 井戸で色々なお話を聞くようになってから思う事だけど、お兄ちゃんがたまにお兄ちゃんだと思えない時がある。

 だってチィーアの方がしっかりしてるし、頭もたぶん良いのに。

 先に生まれたのと歳が上なだけなのに、ユーリお兄ちゃんはどうしてお兄ちゃん何だろう。


 そんな風に隣でどうしよーとか言ってるお兄ちゃんを見ながらも、チィーアは達はお父さんの仕事場所へとたどり着いた。

 そこでは今日もお父さんたちがシサクの周りをウロウロしたりして、お仕事をしているはずだった。


 だけど、シサクはなくて、代わりにお父さん達は怪我をして倒れているみたいだった。

 真っ赤な血が体から出て地面に流れ出ていた。


「お兄ちゃん、どうしよう。お父さんが」

「大丈夫だ、チィーア。えっとえっとえっと、と……とにかく手当だ。じゃなくて、人を呼んでこないと」


 チィーアが泣いていると、お兄ちゃんは落ち着きなくウロウロした後、けれど安心させるように笑って無事な人を探しにその場を離れた。

 前言撤回だ。

 やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんかも知れない。


「う……その声は……」

「お父さんっ」


 ふいに動かなくなっていたお父さんの体が動いて、声が聞こえて来たのでチィーアはびっくりする。

 慌てて駆け寄ると、お父さんは苦しそうに息をしていた。


「怪我してるよ。血がたくさん出てるよ。お父さん、死なないよね。大丈夫だよね」

「ああ、大丈夫だ。これくらいで死んだりしない」

「いま、お兄ちゃんが人を呼んできてくれてるよ」

「チィーア……これから大事な話をする。ちゃんと……聞くんだ」


 お兄ちゃんが戻って来る間、お父さんはこの仕事場であった事を話して聞かせてくれた。

 それは信じられない事だったけど、言っているのは他の誰でもないお父さんだ。チィーアは疑わなかった。


「それで、最後に言ったと通りにするんだ。良いね。分かったらすぐに行くんだ」

「でも……」


 お父さんに言われた通りにしなければいけない。チィーアは分かっているのにけれどその場を動けなかった。


「チィーア、お前は賢い。だからこれからもユーリを支えていくんだぞ。父さん達は例え傍にいられなくても、いつまでもお前達を見守っているからな」

「あの幽霊さん達みたいに?」

「……、ああそうだな。お前は見えるんだったな、そうだ。その幽霊さん達みたいにだ。だから悲しむ必要はない。ほらもう行くんだ」

「うん」


 いつもは話しても信じてくれないチィーアの井戸の話。

 お父さんは今日は信じてくれるみたいだった。

 それがとても悲しくて、チィーアは泣いてしまいそうだったけど、一生懸命我慢した。





 仕事場をウロウロしているお兄ちゃんを見つけたのち、チィーアはお父さんに言われた後ソウコに行って、シサクニバンを言われたと通りの手順を行い、いつもはシサクが乗っているレールの上まで動かした。ネンリョウである魔石を積み込めば後は何とかなる。自分達でもできた。ここからは何度も教えてもらったからだ。


 仕事場にはお父さんたちと同じドウリョウの人が倒れていたけど、シサクニバンに載せてあげる事はできない。

 詳しくは魔石レッシャというらしいそれ……四角くて大きいシサクニバンだけど、シサクよりは大きくなくてスピードが出ないらしいのだ。できるだけ急がないといけないと言われたので、連れてはいけない。


 走り出したシサクニバンの窓から、仕事場を見つめる。

 町がどんどん離れて言ってしまう。


 チィーアは不安になった。

 これで良かったのか。 


 お父さんから言われたのは、お父さん達を助ける人をシサクニバンで呼んできて欲しいという事だった。そして、指示された通りお父さんの近くに落ちていた資料を拾い集めて、お兄ちゃんを探しに走った。

 町の人を頼るのでは駄目なのがどうしてなのか分からなかったが、どうしてもとお父さんが言ったので、チィーアは信じたのだ。


「お父さん達大丈夫かな」

「大丈夫だって、だってお父さんなんだぞ。チィーアや俺よりもずっと丈夫で強いんだからな」


 そうだったら良いなと思った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る