3

 あれから三ヶ月。

 

 「上手くなったなぁ~、湊」

 「本当に」

 「やったー!」

 「湊。今度は歌いながらギターを弾いてみな」

 「えっ! む、無理だよ」

 「いやぁ~、いけると思うけどなぁ~俺的には」

 「無理!」

 「そうか? 湊、たまに気分がのったときにお風呂に入りながら鼻歌、歌っているの知っているぞ」

 「! き、聴いていたの兄さん」

 

 ニヤリと笑っている兄さんの顔を見て恥ずかしさで顔が暑くなるのを感じた。


 (これは絶対に聴いていた。恥ずかしいんだけど……)


 「わ、分かったよ。やってみる」

 「そうか。じゃあ、俺と湊でデュエットでもするかぁ~」

 「えっ!」

 「いやぁ、バンドメンバーに協力してもらって新しい曲とか作ってみんなでやるのもいいなぁ~」

 「……兄さんに任せるよ」

 「そうか。じゃあ、決まりだな」

 「ねぇ、兄さん。一つ聞いてもいい?」

 「なんだ?」


 どうしてここまで兄さんはやる気があるのかちょっとした疑問が浮かんだ。

 別に僕もやる気がない訳じゃあない。やっていて楽しいから。

 でも兄さんは僕よりすごくやる気がある。どうしてか知りたくなった。


 「兄さんは今、何を思っているの? ここまでやるのって何か目標でもあるの?」

 「そうだなぁ~。湊はギター楽しいか?」

 「うん。楽しいよ」

 「なら、俺は湊と一緒にライブをやってみたいんだと思う」

 「ライブ?」

 「そうだ。湊にも味わってほしいのかもしれないなぁ~。ステージから演奏をしてお客さんと一緒に演奏しているような、高揚感。やっていて楽しいと感じてほしい、そんなところかな」

 「それが兄さんの学園祭で感じた高揚感なの?」

 「そうだな。今度は湊と一緒に感じたい! あとはいろいろだなぁ」

 「……分かった。頑張ってみる!」

 「サンキューな、湊」


 それから僕はますますギターの練習にめり込んでいき、歌も歌えるようになっていった。

 けど、ある夏休みのこと。

 僕が歌とギターが上手くなり、兄さんがやっているバンドのメンバーと一緒に練習させてもらうはずだった時に僕は夏風邪を引いて、練習に参加が出来ないときに兄さんが練習場に向かっている最中に交通事故にあった。


 (兄さん……。約束をしたのに……)


 その時に思ったことはこれだった。兄さんが死んだことに現実で受け止められていなかった。夢であったらと思っていた。

 けど、違った。

 あとで知ったことだったが幼い子供を助けようとして巻き込まれたみたいだ。

 兄さんが亡くなったことで、しばらくは誰とも会いたくなかったし、好きだった音楽さえ、手につかない日々を過ごしていた。

 けど、ある日をさかいに俺は、目覚めたんだ。




 「湊、大丈夫?」

 「あーあ、ごめん、凪沙。ちょっと昔のことを思い出していた」

 「そうか。それで伊吹さんに伝えたいこと伝えたの?」

 「それは大丈夫。制服姿を見せたいなぁと思ったし、朝も話したから」

 「そう、それなら良かった」

 「ありがとう、凪沙」

 「いいえ。私が勝手について来たことだし……これで湊が行きたいところは終わりなの? ついでに聞いちゃうけど」

 「もう一つあるけど凪沙にとっては暇なところだよ?」

 「行きたい」

 「分かった。一度、私服に着替えてから行こうと思うからまたあとで凪沙の家に行くよ」

 「うん!」

 「……つまんないって文句話だからなぁ」

 「分かった」

 「じゃあ、一度、家に帰るかぁ。また来るね、兄さん」

 

 俺と凪沙は家に向かって帰っていった。

 

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