リーザの騎士団見学(1)
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リーザがニコラスから騎士団の訓練見学許可を貰ってから二日後。リーザは、レディアント王国の王宮に向かっていた。ニコラスが所属しているのは王立騎士団の為、訓練場は王宮の敷地内の外れにある。渡された地図を眺めながら、デジデリアと共に騎士団の訓練場を目指す。
「リーザ様。何故、突然騎士団の訓練見学などを所望されたのですか……?」
ふと、デジデリアは歩きながらそんなことをリーザに問いかけた。デジデリアの手にはバスケットがあり、その中にはリーザとデジデリアが朝から作成したサンドイッチが入っていた。サンドイッチはドローレンス伯爵家御用達のパン屋で購入したサンドイッチ用のふわふわとしたパンに、様々な食材を挟んだシンプルなものだ。本当はもっと立派なものを作ろうとしていたリーザだが、料理人たちに「これぐらいにしてほしい」とお願いされたのだ。きっと、リーザに怪我があってはいけないと思っての注意だったのだろうが、リーザにはそれが少々不満だった。でも、これがこの家の普通ならば従わなければならない。そう思い、リーザは素直にサンドイッチを作成した。
「……いえ、ちょっと気になっただけ」
デジデリアの問いかけに、リーザは前を向いたままそう答える。度々すれ違う王宮の使用人たちに挨拶をしながら、リーザは騎士団の訓練場を目指す。男性の使用人の中には、リーザに見惚れている人間もいたものの、そこはデジデリアが威嚇しておいた。なんといっても、リーザは今のところニコラスの妻なのだから。
「そうですか。……あっ、ここみたいですよ」
そんな時、デジデリアがそう声を上げてとある扉を指さす。その扉には確かに《王立騎士団訓練場》という看板がご丁寧にもついている。リーザはデジデリアの指の先を追い、その扉に手をかけた。その後、ゆっくりと扉を開く。そこから中を覗けば、数十人の騎士たちが様々な訓練を行っていた。その端では十人程度の女性が見学しているようだ。そう判断し、リーザは女性たちが集う見学スペースに向かう。
「リーザ様、どうぞ」
デジデリアが見学スペースの椅子を軽くはたいて、リーザに座るように促す。その行動に、「ありがとう」とだけ返してリーザは腰を下ろした。女性の中には立って訓練を見学している人もいる様だが、大体は椅子に腰を下ろしている。
「リーザ様。……あそこに、ニコラス様が」
「あら、本当」
デジデリアにそう耳打ちされ、リーザはそちらに視線を向ける。そこには、いつものように表情が無のままほかの騎士たちと会話をしているニコラスが、いた。……相変わらず、美形だ。そう思いながら、リーザはニコラスを見つめている。しかし、ニコラスは仕事に集中しているのか、リーザには気が付いていないようだった。
「本当に仕事熱心なお方ねぇ。訓練でも手を抜かないのね」
「まぁ、ニコラス様はそう言うお方ですからねぇ」
そんな会話をしながら、リーザは茫然と騎士たちを見つめる。訓練と言っても、今は全体訓練ではなく個別の訓練のようだ。そんなことを考えながら、リーザは訓練を続ける騎士たちを見つめ続ける。
「おい、あそこにいる女性すごく美人だぞ……!」
「うわぁ、誰目当てだ? お前、声をかけてみろって」
「無理だろ。俺らなんかじゃ、相手にされないってば。あの美貌だったら……相当美形な奴しか隣に並べないぜ?」
そんな中、数人の騎士たちがリーザを見てこそこそと小声で話し合う。その声にリーザは気が付いていないようだが、デジデリアの耳にはしっかりと届いていた。それを聞いていると、デジデリアはやはり誇らしくなる。この女性こそ、自らが仕えている主なのだと自慢したい気分になるのだ。
「おい、お前ら。あんまり無駄話は――」
「げぇ、ニコラスさん……」
数人の騎士たちが小声で話し合っていると、ふと一人の騎士が注意をしに来る。その騎士は――ほかでもない、表情が無のままのニコラスで。ニコラスは数人の騎士たちの視線を追い、リーザを見つけ……唖然とした。
「り、リーザ……」
「えっ、ニコラスさんの知り合い……?」
そして、ニコラスはそう零してしまう。その瞬間、リーザとニコラスの視線がばっちりと交わり、リーザは静かに頭を下げる。その後、「旦那様がようやく気が付いてくださったわよ」とデジデリアに耳打ちした。
「リーザ、本当に来たのか……?」
「あら、私は嘘をつきませんよ、旦那様」
そう言って、リーザはニコラスに微笑みかける。その瞬間、周りの騎士たちがざわめいた。何故ならば――それぐらい、リーザの微笑みは効果抜群だったのだ。数多のダメージを与えるほど、リーザの微笑みには攻撃力があり、そして――驚きが、あった。
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