リーザとニコラスのデート(1)
☆★☆
「リーザ。その……今日も、すごく、綺麗だな……」
「あ、ありがとうございます……」
リーザとニコラスの初めてのデート当日。本日はとてもいい天気であり、絶好のデート日和だ。そんなことを思いながら、リーザは俯く。本日リーザはいつもよりもラフなワンピースを身に纏っていた。それは、出来る限り貴族には見えないように、と配慮をしたからである。せっかくのニコラスとの初めてのデートなのだ。誰にも邪魔されたくない……という気持ちが少なからずあった。
ニコラスが用意した質素な馬車に乗り込み、隣同士で腰を下ろす。ニコラスはちらちらとリーザに視線を移し、その視線がどこか居心地悪く感じてしまう。だが、その頬は少し赤くなっていることから照れているということは容易に想像がついた。それにリーザはすぐに気が付いたものの、指摘をすることはなかった。何故ならば……リーザも少しだけ照れていたからである。
(旦那様のラフな格好って、こんな格好なのね……。普段とは違うけれど、すっごくかっこいいじゃない……!)
心の中でそうつぶやきながら、リーザもちらちらとリーザを盗み見てしまう。これでは、付き合いたての恋人みたいじゃないか。そう思うが、リーザとニコラスは結婚して一ヶ月以上経っている。自分たちは決して、付き合いたての初々しい恋人同士ではない。それは分かっているが……どうしても、照れてしまうのだ。
「だ、旦那様? 本日は、どこに向かうのですか……?」
とりあえず、この沈黙を何とかしたい。そう思って、リーザはニコラスにそう問いかけた。その問いかけを聞いて、ニコラスは馬車に乗り込んでから始めてリーザを直視した。その美しさに、心が揺れる。それを隠すかのように、たどたどしくニコラスは口を開いた。
「あぁ、リーザにいろいろとプレゼントをしたいから……女性向けのものが揃っている店を調べた。あと、街で美味しいと評判のレストランも調べておいた。それから……最近流行っていて女性からの人気が高いという劇の席も取ったのだが……」
少し照れくさそうにそう言うニコラスに、リーザは「ありがとうございます」と笑顔で礼を言った。ニコラスの言葉を聞くに、大方頑張って調べてくれたのだろう。そう思えば、心が温かくなる。……実際は、頑張るなんて生ぬるいものではなかったのだが。
(リーザに笑顔で礼を言われたら……あの苦労も報われるな。少々寝不足だが、それでもいいだろう)
二人でデートをすることが決まって以来、ニコラスは寝る間も惜しんで最新のデートスポットについて調べた。それでこそ、本で調べたり使用人たちに訊いて回ったり。挙句の果てには自分の兄弟たちにも訊いたものだ。その結果、兄弟たちには笑われる始末。中には「悪いものでも食べたのか?」なんて問われるぐらいだった。確かに悪いと思われる薬は飲んだものの、リーザとの関係が良好になり始めているため、悪いとは言い切れないのだが。
「……ふぁ」
そんな時、ふとニコラスは欠伸を零してしまう。ここ最近、伯爵と騎士の仕事に合わせてデートスポットまで調べていた所為だろう。眠い。そう思うが、リーザの隣に居たいのだから呑気に眠ってなどいられない。街に着くまであと十五分以上ある。その間、眠気を我慢しなければ。歩き出せば、眠気など吹き飛ぶだろう。そう自分に言い聞かせて、ニコラスは自分の手の甲をつねっていた。
「……旦那様? 眠たいのですか?」
そんな時、リーザがニコラスの顔を覗きこんでそんなことを問いかけてくる。それを聞いて、ニコラスはどういう風に答えようかと迷ってしまった。素直に眠たいなどと言えば、リーザに気を遣わせてしまうことは間違いない。しかし、この眠気は我慢できそうにない。さらに、薬の効果で「素直な言葉しか言えない」状態なのだ。誤魔化すのは無理に等しかった。
「……少し、な。いろいろとやることがあって……」
その結果、そう言うことしか出来なかった。すると、その言葉を聞いたリーザは「眠ってくださいな」と言ってくる。正直、ニコラスは眠りたいが眠りたくない。リーザの隣に居ることが出来ているのに、眠るなんて時間を無駄にしているに等しい。そう思っているのに、リーザは「眠ってください」とさらに告げてくる。
「旦那様。旦那様は、私のために頑張ってくださったのでしょう? でしたら、私が『眠らないで』とわがままを言うことは出来ません。それに、旦那様はいつだってお疲れではございませんか。私が隣に居て、ぐっすりと眠れるかは分かりませんが……」
そう言って、リーザは笑顔を向けてくれる。それを見たとき、ニコラスはリーザがこういう女性だったということを思い出した。そうだ。リーザはとても優しい女性なのだ。こういうに決まっている。
「……わかった。では、少し眠ることにする。おやすみ、リーザ」
「はい、おやすみなさいませ」
リーザのその声を聞いて、ニコラスは少しずつ夢の中に入っていく。どうにも、リーザの声には安眠効果でもあるのではないか、と思うほどぐっすりと眠れそうだった。まぁ、そんなことを言えば「そんなことあるわけじゃないですか」というに決まっているのだが。
「……リーザ、好きだ」
小さく呟かれたそんな言葉は、リーザの耳にしっかりと入っていて。リーザは驚いて、俯いてしまった。その頬は、真っ赤に染まっていた。
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