2-07 新たな出会い?

「今日は近道して帰るかなー」


 夕暮れ時のオレンジがかった空の下。おつかいを済ませたは、家路につくために公園の中を歩いていた。ここを通り抜けていけば、近道になるからだ。

 片手にビニール袋を提げて、なんの気なしに歩いていく。遊具の置かれた広場を抜け、人通りの少ない遊歩道を歩いていると、前方から何人かの話し声が聞こえてきた。


「アゲハ君、重くないかい?」

「はい! これくらい平気です。ところでオサム先輩、こんなにたくさんの虫ロボ、どうやってここまで運んできたんですか?」

「フフフ、アゲアゲには秘密だよ~」

「アゲアゲ?」

「アゲアゲのあだ名だよ~。いいでしょ~」


 三人組が草木の生い茂る林から出てきて、楽しげに話しながらこちらに向かって歩いてくる。

 一人は小学生くらいの小さな子どもで、頭の上がネコの耳のようになっている。もう一人は眼鏡をかけた長身の男子で、へらへらと始終笑みを浮かべている。そして、真ん中を歩く女子に目を移した瞬間、オレはあっと立ち止まった。

 上は長そでを着ていて、下はショートパンツにレギンスといった動きやすい服装をしている。前髪をとめたチョウの髪飾りが夕陽を受けて光り、腰までつく長いポニーテールが歩くたびに左右に揺れる。


「アゲハっ!?」


 思わず彼女の名前を叫んでしまい、口を手で押さえた。とっさに足が動いて、手近な木の後ろに身を隠す。


「ん?」

「どうしたの? アゲアゲ~?」

「今、だれかがあたしを呼んだような……」

「僕ら以外は、だれもいないようだけど。気のせいじゃないかな?」


 どうやらバレていないらしい。アゲハたちは談笑をしながら、オレの前を通り過ぎていく。三人とも両手に段ボール箱を抱えていて、中にはなにかよくわからない機械が積まれているみたいだ。そして、アゲハと、その隣に並ぶ眼鏡を掛けた男子の手には虫採り網が握られていた。


「アイツ、まさか……」


 アゲハたちが通り過ぎてからも、オレは息を殺し、会話に耳を傾けた。


「そういえばタテハ先輩、大会に出てくれる人、あと一人は決まってるんですか?」

「いや、実はまだ見つかっていなくてね」

「アゲアゲ、虫好きな友だちとかいないの~?」

「うーん、昔はいたんですけどね。ここに引っ越してからは、友だちで虫好きな人はいないんです。最近はずっと一人で虫採りしてましたから」

「そっか~。どうする、タテぴー?」

「地道に虫研の活動を紹介して、探していくしかないだろうね。まだ一ヶ月あるんだ。きっと昆虫に興味を持っている人はいるよ」

「そうですね! オサム先輩が過激な歓迎会をしなければ、きっと大丈夫だと思います!」

「えぇ~、なにそれ~っ!」


 ははははと笑い声が響き、三人の姿が見えなくなっていく。


「大会? むしけん……?」


 オレは木の後ろから出てきて、三人が行ってしまった方向を見つめた。

 その時、風が吹いて、どこからともなく飛んできた紙切れが、オレの顔にへばりつく。


「うっ!?」


 片手で紙切れを引っぺがすと、どうやらイベントのチラシのようだった。真ん中にカブトムシと虫採り網のイラストが書かれていて、上部には大きく太い七文字が踊っている。


「『虫採り全国大会』……!?」


 無意識に、チラシを持つ手に力が入った。


 このが人生を狂わせることになるとは。今のオレは、まだ知らない。

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