第二話 アゲハVSオサム

2-01 秘密の部室

 コンコンコンッ。


 ドアを三度、ノックする音が響いた。返事を待たずに、一人の少年が部屋に入ってくる。中には長机が並んでおり、なにかの機器が所狭しと置かれている。少年は慣れたように狭い通り道を抜け、部屋の隅までやってきた。


「オサム君、ついに見つかったよ」


 やや興奮ぎみに声をかけた先には、イスに座り、机にあるノートパソコンと向き合う人が一人。西日に照らされて、長い影を床に伸ばしていた。

 パソコンと向き合ったまま、顔がこくりとうなずく。


「知ってるよ。虫好きの新入生がいたんだよね」

「うん。このままいけば、アレもきっと……」

「ちょっと待って、タテぴー?」


 パソコンが閉じられ、イスが少年のほうへ向かって回された。人差し指で机をトントンとたたきながら、心なしかとがった声色が発せられる。


「まず一つ。勝手に科学部の部室に入らないでくれる?」

「それは、ごめん。オサム君ならきっとここにいると思ったから」

「いると思っても、せめて返事を聞いてからドアを開けなよ」


 悪びれる素振りのない言い訳に、はぁと、短いため息が漏れた。


「それにもう一つ。ボクに黙って新入生を確保するなんて、ちょっと水くさいんじゃない?」

「それも……、ごめんね」


 少年は肩をすくめて、屈託のない笑顔を向けた。


「でも、アゲハ君はすごくいい人だから。きっとオサム君も好きになると思うよ?」

「ふぅ~ん……」


 熱のこもった言葉に対して、気の抜けるような返事がくる。

 それでも少年は慣れたように笑みを浮かべながら、次の言葉が来るのを待っていた。

 しばらくして、指をたたく音がやみ、わざとらしい大きなため息が一つ、零れた。


「わかったよ」

「それじゃあ、」

「で~もっ! タテぴーがそんなに気に入る相手なら、ボクも試してみたくなっちゃうな~?」


 かぶせるように言って、イスから腰を上げる。右手がだしぬけに机の下にある引き出しを開けると、そこには赤いボタンが一つ付いていた。それを戸惑うことなく、手のひらでたたきつける。


「ボクの作った、秘密兵器でね~?」


 ここは部屋の隅、だったはずが、ゴゴゴゴ……という音とともに、壁がスライドしていく。

 隠し部屋の中で、うごめいていたものは……。


「さぁ~てっ、新入生歓迎会の始まりだよ!」


 口角をいっぱいにあげて、響き渡る笑い声。

 そんな姿を、少年はやはり慣れたようにほほえみながら見守っていた。

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